105話 バリア艦、解析中
≪チキンボール≫の港の中で、バリア艦は解析されている。
余人に見せるわけにはいかないので、バリア艦のある港は閉鎖措置を行い、アマト皇和国の関係者以外は立ち入れないようにしていた。
「しかし、見れば見るほど、異質な艦だな」
ドーソンが港にある施設の操作室から、バリア艦の全体像を見る。
バリア艦は、巨大な湾曲した四角い板の裏に推進装置や居住場所をくっ付けたような形をしている。
惑星上では空気の抵抗でまともに進めないだろうが、宇宙空間では関係ないからと割り切った設計だ。
推進装置や居住場所には見るべきものはない。
やはり解析するべきは、バリア艦の肝と言える、空間障壁の発生装置だ。
「大き目な隕石の衝突にも何発か耐えていたから、障壁を数や大出力で強度を上げていると思ったんだが」
そういう面もなくはなかった。
実際に障壁の装置の数は、通常の艦船なら1隻に1つが常識なところ、バリア艦の装置の数は12個も配置されていた。その上で、装置自体が新設計でかなり巨大なものになっていた。それこそ戦艦や戦闘機空母以上の大きさの艦でないと載せられないほどに。
この新設計の装置は、1個だけで従来のものの何倍もの障壁の硬さを発揮できると、試走で判明していた。
装置には、ところどころに洗練されていない、有り体に言って試作品らしき部品がくっ付いている。もしかしたら、実験段階のものを実用化したのかもしれない。
ドーソンは、常に機械の性能を維持したまま小型化を目指すアマト皇和国の気風で育ったため、この実験段階の部品かつ大型のままで良しとしているような構造に信じられない思いを抱く。
「軍艦の装備は確実に動けばそれで良い、って考えは分からなくはないが……」
障壁の装置は実用性を重視過ぎて、無骨を越して粗雑な作りに見えてしまっていた。
どうせなら見目を格好良く整えていいのにと、ドーソンの中にある軍艦類に憧れを抱く少年の心が呆れている。
「これほどの大きさじゃ、護衛戦艦に単純移植はできないな」
ドーソンは、バリア艦の破壊耐性を護衛戦艦に与えたかった。
しかし護衛戦艦にこの装置を載せると、装置の大きさの所為で、積載量をかなり圧迫することになる。それに加えて、この装置はジェネレーターのエネルギーを馬鹿食いするようで、戦闘装備にエネルギーを回す余裕がなくなってしまうようでもあった。
つまり、無類の防御力の代わりに艦の戦闘能力を奪ってしまうのが、この新設計の障壁発生装置ということ。
「SU宇宙軍が、どうして戦艦に障壁装置を付けるのではなく、攻撃力皆無なバリア艦を新造したのかの理由は分かったな」
戦艦は文字通り、戦う艦艇だ。その戦闘能力を奪う装置など、無用の長物でしかない。
しかし鉄壁の障壁をお蔵入りにするのは惜しい。
だからバリア艦という、単一の役割を持たせた艦を新造したのだろう。
そう考えると、障壁の装置が実験段階のままっぽい理由に説明もつく。
装置の形を洗練するよりも、障壁の装置に関する新たな技術的特異点が起こるまで研究を進めることを重要視したのだ。
「頑張って捕まえた割に、あまり得るものがないな……」
ドーソンはバリア艦が期待外れだったと肩をすくめる。
障壁装置以外に、バリア艦に見るべきところは全くない。それどこか、障壁装置を取り外してしまったら、装甲板と廃材の山にするしかない艦である。
「一応、この新設計の障壁装置は詳細に解析して、アマト皇和国へ報告書を送っておくか。それと、人工知能たちに装置を洗練化できないかの通達もだな」
アマト皇和国製の人工知能は勤勉だ。
それこそドーソンの最初の船である≪大顎≫号を建造するときだって、装備を改造して性能を向上させていた。
この大型の障壁装置でも、無駄を省いたり部品を置換したりで、意外と小型化を実現できてしまうかもしれない。
「まあ、一朝一夕にはいかないんだろうけどな」
でも幸いなことに、≪チキンボール≫には人工知能が沢山いる。それもアマト皇和国で作られたものが。
手隙の人工知能たちを総動員すれば、障壁装置の改造もすんなりと済む可能性は十分にある。
仮に人工知能たちの働きでは無理でも、報告書を送っておけば、アマト皇和国の方で新たな障壁装置が生み出されるかもしれない。
そのどちらかを待って、ドーソンは護衛戦艦の障壁装置を入れ替える気でいる。
しかしそうなると、護衛戦艦の改造は先延ばしにするしかない。
「そうなると、任務に戻るしかないな」
SU政府にアマト星腕に移民を送ることを永遠に止めさせること。
その為の新たな方策をドーソンが立てようとして、傍らで静々と作業をしていたオイネがやおら声をかけてきた。
「ドーソン。再び支配人室から要請が来てます」
「……なんだ。また変な要求でもしてきたか?」
ドーソンが嫌そうに尋ね返すと、オイネは首を軽く横に振った。
「違います。なにやら企業からの案件のようですよ」
オイネが空間投影型のモニターを、ドーソンの前まで滑らせて渡す。
ドーソンは画面に書かれている文字列を見て、興味深そうな顔つきで片眉を上げたのだった。