表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
110/178

103話 不当要求

 ドーソン一行は≪チキンボール≫まで戻ってきた。

 拠点ホームと呼べる場所で一息付けるかと思いきや、早速面倒事の雰囲気がやってきた。


「ゴウド准将から、俺に支配人室まで来るようにだって?」


 ドーソンが訝しげに尋ね返すと、通信担当のベーラが頷いた。


「そうだよ~。なんでも急ぎらしい~」

「……オイネ。≪チキンボール≫や企業関連で、何か問題があったという情報は?」

「そういう類の話はありませんね。SUから独立して、企業とその支配地域は安定しているようですし」


 オイネも呼び出される理由が分からないとのことで、ますますドーソンは謎を深めてしまう。


「呼ばれたからには行かなければいけないか」


 理由が分からないのなら、直接聞くしかない。

 ドーソンは覚悟を決めて、ゴウドのいる支配人室へと向かうことにした。



 ≪チキンボール≫の支配人室。

 ドーソンが中に入ると、ゴウドが執務机の向こうに座っている姿が見えた。ゴウドの横にはアイフォが控えて立っている。

 その2人がいることは、ドーソンの予想の内。

 しかし予想外な点もあり、それはジンクと共にアマト皇和国からやってきた他2名の艦長――タイロとミイコが居たことだ。

 ドーソンは、タイロとミイコが居ることに疑問を持ちつつも、呼ばれた相手だからと意識をゴウドに向ける。


「呼ばれたと聞いて来たが、何か問題があったか? それともやって欲しいことでもあるのか?」


 ドーソンが敬語なしで問いかけると、ゴウドは少し青い顔の半笑いな表情になる。


「いやぁ、問題もやって欲しい事もないのだがね。ただ、ドーソン君は中々に活躍しているようで、そのことについて話を聞きたいと思ったのだよ」


 歯にモノが挟まったような言い方に、ドーソンは首を傾げる。


「俺の活動は、報告書として上げているはずだが?」


 オイネが作成した報告書を、ドーソンが確認して『アマト皇和国の特務中尉』と肩書を沿えて、定時連絡でアマト皇和国へと送っている。その報告のついでに、ゴウドへも近況報告代わりとして送っていた。

 だからゴウドがドーソンの動向を知らないはずがなかった。

 しかし、ゴウドが言いたいことは、そう言うことではなかったようだ。


「活躍のほどは分かっているとも。ただ、少し独断専行が過ぎるんじゃないかと、そいういう考えもあるわけでね」


 ゴウドは非難する口調で言っているが、その表情と声色はドーソンから不信を買うことを恐れているように震えている。

 その様子は、言いたくもないことを言わされているようだった。

 では誰に言わされているのかと考えた場合、この場に居ることが不自然な2人の存在があることが答えになる。


「なるほど。孤児院出身で、士官学校卒業から1年しかたっていない若造が、次々に成果を上げていることが許せないと?」


 ドーソンが視線をタイロとミイコへ向けながら言うと、ゴウドの顔色がより青くなる。


「そ、そういうことではない、くもないのだがね。手柄の独り占めは、軍内で嫌われることは確かなことでもあるわけで」

「独り占めはしてないが? ちゃんとジンク中佐とマコト少尉が乗る≪百舌鳥≫を連れて行っている」

「でもだね。そちらの2人に声をかけなかったのも、確かなのでは?」

「その必要があったとは思わない。偉い身分を持つ人間は、海賊仕事なぞやりたがらないのだろう?」


 ドーソンが譲歩する気を一切見せないでいると、ゴウドの顔色の青さが深くなっていく。

 その血色の悪さが気になったのか、ゴウドの側に控えていたアイフォが口を挟んできた。


「ドーソン特務中尉。単刀直入に聞く。SU政府と宇宙軍に対して動揺を与えた演説。あれの功績を、こちらに寄越す気はないか?」


 思いやりの欠片もない直球な要求に、ドーソンは面白みを感じた。


「あの演説を、あんたらが主導してやったという事にしたいわけか?」

「その通り。あの演説は、なかなかにSU政府と宇宙軍に混乱を起こしている。その影響は今後にも波及すると思われる。故に、この功績は大きいと判断した」

「功績が大きいとわかっているのに、それを寄こせと?」

「悪い取引ではないはずだ。ドーソン特務中尉は、SU宇宙軍の艦艇の多数撃破によって、大尉への昇進は決まったようなもの。そこに演説の功績を上乗せしても、佐官への昇進はできない」

「士官学校を出たての新人が、2年連続で昇格することでさえ目に余るのに、1度に2階級も特進するなど死亡時以外ではあり得ないってことだな」

「演説の分の功績は、大尉昇進の際に切り捨てになる。切り捨てられる分をこちらに寄越し、貸しとする。悪いことではないはずだ」


 ドーソンの軍人としての第一目的は、生き続けて星海軍から給料をもらい続け、それを孤児院へ送金すること。

 その目的を考えるのなら、失くしても昇進に関係のない功績など、あげてしまっても問題はないはずだ。

 しかしドーソンの個人的な信条として、無能者が我が物顔で功績を横取りしようとする行為は許せるものではなかった。


「下の階級の者の功績が欲しいなんて、恥ずかしいとは思わないのか。それに功績が欲しけりゃ、行動して得ればいい」

「意見は至極もっとも。で、演説の功績は寄越してくれるので?」


 どうあって、お意見を押し通そうという様子に、ドーソンは相手に言葉が通じているのか怪しんでしまう。


「そんなに欲しいのなら、頼み方があるだろ。親しき中にも礼儀があるというのなら、年下で階級が下の相手だろうと無茶な要求を通すのなら礼を尽くすべきだろ」

「礼を尽くせば、演説の功績を渡しても良いと?」

「良くはねえよ。ただし、俺だって人の子だ。頼み拝まれたら、絆されることだってあるってことだ」


 ドーソンが嫌いな人間は、能力もないのに年齢や立場が上だからと威張り散らす輩だ。

 逆に言えば、年齢と立場が下の者に礼を尽くせる相手には、それなりに好感が持てるという事でもある。たとえ、その者が腹の中でどう思っていようとも。

 そんな好みが意図として伝わったのか、アイフォはゴウドの側から静々と離れ、ドーソンに近寄ってきた。

 そして、やおら床に膝を着くと、綺麗な正座になった後に、床に額をつける土下座をした。


「ドーソン特務中尉。演説の功績を、こちらにください。伏してお願いいたします」


 顔を上げずの懇願を見て、ドーソンはここまでやるとは思っていなかったと呆気に取られた。


「そこまでするほどのことか?」

「こうする以外に、礼を尽くす方法が思い浮かびません。どうか」


 ドーソンは土下座までされて、譲渡と拒否との間で感情が揺れ動き、やがて功績を譲るほうに傾いた。


「分かった。功績は譲る――」


 そうドーソンは決定はしたが、観戦気分でいるタイロとミイコの存在が気に食わなくもある。

 どうせ演説の功績は、渡した途端にゴウドとタイロとミイコの共同所有になるはずだ。

 頭も下げていない連中の功績にしてたまるかと、ドーソンの反骨精神が持ち上がる。


「――譲りはするが、アイフォ中佐『だけ』に譲る。譲った後でどうするかはアイフォ中佐に任せるが、再び誰かに譲渡するのなら、その土下座に見合う見返りは求めることだな」

「忠告に感謝を」


 土下座を続けたままのアイフォに、ドーソンは溜息を堪えつつゴウドへと視線を向ける。用件はこれで終わりかと目で問いかけると、他にはないとの身振りが返ってきた。

 それならと、ドーソンは1つ釘を刺しすることにした。


「演説の功績は渡した。これで演説の責任は俺の元から離れ、アイフォ中佐のものになった。その点は留意しておいてくれよ。後から、演説の影響で大変なことになったと泣きついてきても、俺は無関係だからな」


 ドーソンのこの言葉を、他の面々はどう受け取ったのか。

 アイフォは土下座のままで表情は伺えないため、わからない。

 ゴウドはアイフォの様子を心配そうに見ていて、話を聞いているとは思えない。

 そしてタイロとミイコは、ドーソンの言葉を功績を奪われた負け犬の遠吠えのように思っているような表情をしていた。

 ドーソンは気に入らない気分のまま、忠告はしたと自分を納得させて、支配人室から退室した。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 「この先どうなる?」って流れがいい。うまいもんだな。
[一言] 後方作戦室の独自部隊で艦隊司令部とは別系統の部隊だから、独断専行に当たらんな〜。 それでもイチャモン付けるなら、部隊統制権を干犯で訴えることも出来る。
[良い点] 実力主義の国、とか聞いて呆れる実態だが、ドーソンはその現実しか知らないのだから、こうして功績を譲ることにも感情はどうあれ、想定の範囲なのだろう。 ドーソンとAI達が本格的にアマトに愛想が尽…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ