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101話 束の間に

 ドーソン一行はTRの宙域まで、投降したSU宇宙軍の人たちと≪ハマノオンナ≫から脱出した海賊たちを護衛し終えた。

 投降した人たちは、乗っている軍艦艇と一緒にTRの軍へと編入され、海賊たちは再びSUの宙域へと戻ることになっていた。ドーソンたちも海賊と同じく、≪チキンボール≫へと戻る予定にしていた。

 しかし直前にとある事態が起こり、移動が不可能になってしまった。


「≪ハマノオンナ≫が撃沈されたことは想定内だが、それが切っ掛けでSUとTRの戦争が激化するとはな……」


 ドーソンが≪雀鷹≫のブリッジ内で呟くと、他に唯一一緒に居たオイネも溜息交じりの声を出してきた。ちなみにほかの面々は、乗員室にて休憩中である。


「もともとSUとTRの戦争は、SU宇宙軍が≪ハマノオンナ≫を撃沈するまでの押えの側面がありました。そのため≪ハマノオンナ≫を撃沈した後は、自然に戦争状態が解消されると考えていたんですけど」

「なぜだか、大々的に戦争をおっぱじめたんだよな。しかもSU宇宙軍の方から手を出す形でだ」


 収集していた情報と理屈が合わない現実に、ドーソンもオイネも困惑顔だ。


「SU側の事情は分からんが、予想することはできるな。やっぱり戦争の原因は、ベーラの演説だろうな」

「ムラガ・フンサーの演説によって、SU支配宙域の貧民たちは政府と宇宙軍に反発を覚えているはずです。その反発が反乱に移行する前に済ますべく、宇宙軍は不要と判断した人材と艦隊を在庫を戦争で処分しようとしているのでしょうね」

「想定通りに処分が終われば、休戦を結んで終わりにするわけだな」


 SU宇宙軍が処分に動き出したのには、やっぱり貧民の反乱が怖いという部分があるのだろう。


「恐怖は伝播するからな。いまは貧民が処分対象でも、やがて中産階級に処分が移行する可能性もあると噂が流れれば、暴動は留まることを知らない」

「オリオン星腕内では、人工知能の製造と利用は原則禁止ですけど、無人格電脳は使用可能ですもんね。作業員を電脳と入れ替えれば、中産階級も不要になるかもしれませんしね」

「だから今の内に処分対象の処理を終わらせて、それ以降は行動を大人しくする。そうすれば、喉元過ぎれば熱さを忘れるではないが、人々の記憶からムラガ・フンサーの演説の内容は薄れていくだろうからな」

「記憶が薄れれば薄れるほど、暴動が起こる危険度が下がることに繋がりますしね」


 こうしてSU政府側の思惑の予想はできたものの、ドーソンたちがTRからSUの宙域に戻る方法には繋がらない。


「俺らが取れる道は2つ。戦争に参加して、終結まで手伝いをする。もしくは戦争が終わるまで、TRで休暇を取る」

「≪ハマノオンナ≫では十二分に働いたんですから、休暇で良いんじゃないですか?」

「俺もそう思うが、先立つものがないんだよな」

「私掠免状の発行元はTRでしょう。海賊のクレジットは使えないんですか?」

「TR内の電子通貨に変換可能だが、変換割合が極悪なんだよなぁ……」


 例えば、海賊拠点でパンを1つ買えるクレジットを1単位とすると、TRでパンを買おうとすると4単位が必要になる変換率となっている。

 単純に物価が4倍と考えると、ドーソンは海賊仕事でクレジットを多く稼いでいるとはいえ、中々に出費が痛いことになってしまう。


「必要ならば躊躇わずに使うべきではあるが、休暇でクレジットをゼロにするのもな」

「TR内では海賊仕事も出来ませんしね。それにしても、どうしてこんなに変換割合が極端なんでしょう」

「海賊にSU内で働くよう仕向けるためだろうな。海賊クレジットを使うなら、TR内よりもSUにある海賊拠点の方が大量にモノが買えるわけだからな」

「事実上、海賊拠点の方が物価が安くなるわけですから、当然そうなるでしょうね」

「それに海賊は、TRの私掠免状を持っているといっても、所詮は犯罪者だからな。TRにしても、懐の内に抱えたままではいたくなんだ。だから、クレジットの変換割合を極悪にして、定住させないようにしているわけだろう」

「でも、単純に割合が悪いだけなら、大量にクレジットを稼げる人は普通にTRで暮らせるんじゃないですか?」

「それほどクレジットを稼げるような腕の良い海賊なら、それはそれで歓迎なんだろうさ」

「どうしてです?」

「腕の良い海賊を軍に勧誘するためだ。遊撃に使う分には、十二分な人材だろうからな」


 ドーソンにしても、それほどの腕前のある海賊なら、自分の配下に欲しいと思わなくもない。

 そしてオイネは、笑顔をドーソンに向ける。


「そういうことなら、ドーソンは条件に当てはまりますね。奪ったSU艦艇を引き連れて活躍する、大海賊艦隊の主なわけですし」

「おいおい。俺は二君に仕える気はないぞ?」

「両取りした方が、お金は増えるんじゃないですか?」

「海賊クレジットやTRのお金が増えたところで、アマト皇和国の孤児院に遅れるわけでもない。必要ないな」

「そういう部分は、ドーソンは一貫してますよね」

「そういうって、どういう部分のことだ?」

「育った孤児院を大切に思っている点がです」

「それは勘違いだ。単純に、育てて貰った恩返しと、後輩孤児たちへ恩を押し付けてやっているだけだ」


 ドーソンは露悪的な自己評価を披露してから、身振りで話を戻すと告げた。


「とにかくだ、SUとTRとの戦争に加担する気はないが、下手に日数がかかってクレジットを消費させられるのも困る。それに加えて、≪チキンボール≫の様子も気になるし、ムラガ・フンサーの演説がSUでどれほどの効果をもたらしているのかも実地で見たい。はてさて、どうしたもんか」

「どうしたもんでしょうね――っと、事態が変化する兆しがきましたよ、ドーソン」


 オイネがシステムを操作して、ドーソンの前に空間投影型のモニターを出現させる。

 そのモニター画面には通信の表示があり、通信先の相手の名前が『TR軍人材登用課』と書かれてあった。

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― 新着の感想 ―
[一言] あとゴウド達はいいけど、他の貴族派は気になるよね チキンボールで何か足引っ張るようなことしてないといいんだけれど
[一言] 戦争激化の原因を他星腕の人間が引き起こしたとは向こうも思わんでしょうなあ
[一言] 君いい体をしているね!トゥルーライツに入らないか?
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