表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
<R15>15歳未満の方は移動してください。
この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。

「哀悼のヴェルメール」

作者: 平修(たいらおさむ)
掲載日:2021/12/24

文学フリマ収録作品最短の文量のサスペンス

 多くの夢は私の水晶から語りかけ、私はそれぞれの夢の行く末を傍観する。

 幾多の泡沫(うたかた)は儚く甘く落ちゆく露の如く。

 せめてと、私はそれぞれに哀悼の意を捧げよう。

我が名は常世の観測人、ヴェルメール。

今宵はどんな物語が私を唸らすのか覗いてみよう。


◇◇◇


私は旅人、名など持たない。

あっても意味は無い。

国を追われ、故郷を捨てて安住の地を探すただの亡霊。

砂漠のような乾きを癒すために泉を探してさすらう。

そんな憂いの日々に私は森の中に大きな屋敷を見つけた。

屋敷の一階の窓には一人の娘の姿が見えた。

娘は私に気がつくと挨拶をしてきた。

豪華な寝台の上で体が悪いのか咳き込みながらも精一杯の笑顔で笑っていた。華奢で可憐そうな彼女は私からすれば籠の小鳥のようだった。

小鳥は愛らしく囀る。

「旅人さん? 外の世界はどんなふうかしら? 聴かせてくださいな?」

 最初国を出た時の記憶で疑心しか無い私は口を開かなかったが、籠の小鳥の様な娘は余程私が珍しいのか、懸命に問いかけてくる。

 私はその日は多くを語らず去ったが、何故か気になりだしてしまい何度か屋敷を訪れるようになってしまった。

 屋敷の外から彼女と会話する内、熱意に負けて私が旅の話を語ると小鳥のような娘は大層真剣に聞き入っていた。

その内に私と小鳥は長い時間をかけて互いに親しみ合う様な間柄になった。

 聞くと小鳥は生まれつき病に伏しているそうで、外には出られないそうなのだ。

やがて私の事は籠の小鳥から屋敷の使用人へ、使用人から主へと伝わっていった。

話を聞いた屋敷の主は希に見ない程生き生きと語る小鳥の姿を見て私を屋敷に招く事にした。

屋敷に入ると中は豪勢な装飾と長い旅の中でも見たことのない一級品の宝物が惜しげも無く飾られていた。

私は驚きを隠せないでいると屋敷の主はこう言った。

「旅の者よ、私の娘に生き甲斐を与えてくれてありがとう、良ければこの屋敷に住まわないか? 勿論、時には旅に出ても良い、その代わり旅先での見聞を我が娘に伝えてやってくれ」

 願っても無い事に私は驚きながらも主に感謝して屋敷への婿入りを承諾した。

やっと安住出来る場所に出会えて、私の乾いた心は一気に潤った。

私と私の妻となった籠の小鳥の娘は仲睦まじく幸せな日々を送る。

様々な国、様々な人間が織りなす物語をいつまでも彼女に伝えた。

ある時は愉快に、ある時はあるときは悲壮感を持たせて語った。

この時には私は自身が国を追われた理由など忘れるほど幸福だった。

時を同じくして屋敷の主は亡くなり、私が取って代わって主となった。

妻は主が無くなった事をひどく悲しんだ。

とある日、私は思い立つ。

『もう一度旅に出てもっと世界を知ろう、そうすれば彼女の心を癒せる話を聴かせられるかも知れない』

私は新たに使用人を雇い、彼女の面倒を見るように命じた。

私が居ない間の世話を補ってもらうためだ。

私は使用人にしばらく屋敷を開けると告げて再び旅路に出た。

隣街に着いて二日ぐらい経った頃、屋敷に飼っていた伝書鳩が私のもとに届いた。

送り主は妻の世話を命じた使用人の名前でこう綴られていた。

『主よ、奥様が危篤でございます、早くお戻り下さい』

私は街で馬を借り受け慌てて自らの屋敷に向けて駆けた。

 

到着したのはその日の夜。

私はまず異変に気がつく。

何故なら屋敷の中に明かりが灯っている気配がない。

訝しみながら私は屋敷の中に入る。

不気味に軋みを上げる屋敷の戸が私の不安を煽った。

屋敷のエントランスに入ると私は目の前の二階に通じる階段にぼうっと映る人影を見つけた。

その人影は火の着いたロウソクを刺した台を持って私を待ち構えるように見ていた。

その人影は言う。

「遅かったわね、主様」

私は暗闇に目がなれるまで目を凝らすとその女らしき声の主を見る。

 よく見てみると声の主は伝書鳩を送り出した張本人である。

 つまり、新しく雇入れた使用人だった。

嫌な予感を振り払いながらも何が起きたのか使用人に問い正す。

すると使用人は答えた。

「そうね、何処から説明しようかかしらね、私があなたの女を殺したところかしら、それとも屋敷の全員をなぶり殺したところかしら?それとも……」

私はその言葉を怒りの声で止めさせた。

つまりこの女が私の大切なモノを全て奪ったのだ。

 私は怒りのあまり殺意で女の元に走りだした。

「あら野蛮ね、貴方? 私の母を殺した時もそんな顔だったのかしら」

私は衝撃のあまり足が止まる。

 若いころ私は祖国で殺人を犯し、国を追われた。

 その時に殺した女の娘がこの女だと言う事に今更ながらに気づく。

殺した女の顔によく似ていたからだ。

私は幸せに満ちた生活に感覚が麻痺していたのだろう、悔やんでも悔やみきれず涙がこぼれ落ちた。

 女は言う。

「母が殺されたその日から、私は貴方を殺すことを夢見ていた! 近くの森にある屋敷に貴方がいると聞いて私は近隣の町でこの屋敷に入って復讐をすることに決めたわ、母は死んだのに貴方が幸せな生活を送るなんて許せなかった、ねえ貴方、最後に言い残すことは? 私、貴方のお陰で殺し屋になったの、貴方を殺すために、だから沢山苦しませてから殺すわ」

私は今更ながらに重い罪を犯した我が身を呪い、内心、深くこの使用人に陳謝した。

だが、復讐は何もえるものがない、かつて私の親が殺され、復讐を果たした時、心に生まれたのは後悔と絶望だけだった。

「何? その綺麗事……!? そんな大層な思想で諭したつもり!? でもね、私にとって貴方は親の敵なの――消えて頂戴!」

瞬間、私は足元の激痛に倒れ、そのまま意識を失った。

 最中に見えたのは様々な景色、愛しい人の顔。私を憎んでいた人間の顔、走馬灯のように流れる景色を最後にわたしの人生は幕を閉じた。



◇◇◇



幕引き。

人の業とは深いモノ、命は一瞬だからこそ輝くモノ。

この度の物語は人間の幸福と絶望、狂気―――実に儚く甘美。

私は彼の者に捧げよう。

哀悼の雫を。



正直締切に間に合わず苦しまぎれに書いた一作でした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ