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士獅十六国物語 〜“黒”の転生者狩り〜  作者: ホラナカチリ
⑦【瞳の嵐】

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⑦ー3二手

3 二手


 フーモ国傭兵ギルドに珍しい訪問者があった。

「おう」

 ムート・ネグロは、傭兵ギルド内に併設された飲食スペースで僕らに手を振る。同席するレッタはこれでもかと具材の挟まったパンに食らいついているところだ。そして旅支度だろうか、ふたりの傍には大荷物が置かれている。

「ディケに寄って、届けてもらいたいもんがある。仔細はレッタに任せてあるが、飛行船で連れて行ってやって欲しい」

 レッタは頬をいっぱいにして咀嚼し、かなり大きめのパンを最後まで食べ終わると、またウェイターに手を挙げて何か食べ物と飲み物を注文している。

「わかりました」

 まぁレッタが用件を聞いているなら大丈夫だろう。そもそも飛行船は彼のものだから、断る理由もない。

「それとなぁ、ものは相談なんだが」

 ムートは少し切り出しづらそうに、僕らを、というか僕の隣のトバリをちらりと見た。

「ワシのほうもそろそろネグロに顔を出さにぁはならんと思っとってな。馬で向かおうと思うとるんじゃが。知っての通り、教会からあまりよく思われとらんからな。できるだけ見つからずにネグロに入りたいと思うちょる。そこでトバリさん、あんたの力を貸してはくれんじゃろうか。貸してくればしないじゃろうか」

 トバリが何も答えないので、僕は横を見て、トバリと目合わすが無表情のまま見返される。僕の指示待ちということだろうか。最近あまりトバリとの意思疎通が上手くなっていないような気がする。

「まぁその、トバリがいいならいいんじゃないかな。ディケの方は飛行船移動なら大丈夫だろうし。トバリの隠蔽の魔術で騎士の目をかいくぐってネグロに行きたいっていうことですよね」

 ここからネグロまで馬なら往復で一月ほどか。それだけの時間があれば僕らも余裕を持って行って戻ってこれるし、何なら飛行船がのほうがずいぶん早いので、途中で僕らの方から迎えに行くこともできるだろう。

「よろしく頼む」


 町外れに隠隠して停泊する飛行船にムートネグロとレッタの持ち込んだ荷物の一部を積み込み、ムートとトバリが乗るための馬の手配をしたりする。(ちなみに、この馬代をクエストラの報酬で支払うことによって、例のライトエルフの里での食費等は弁済することができた。よかった)

 その間にとムートとトバリがネグロに向かうと言う話を聞き、ゼン、シャツ、シーラのネグロ第一商会組もネグロに同行することを志願した。彼らにとっては故郷だし、この急な天候の変化が続いていることについても、少しずつ違和感を感じ始めていた。傭兵ギルド内での噂話によれば、ここフーモよりも、ネグロ方面ではこの大風による被害が出ているのではないかと言う話も、ちらほらと耳に入っていたからだ。結局、ムートネグロとトバリ、ネグロ第一商会員三名の計五名が用意した馬で秘密裏にネグロに向かうこととなった。

 そして、残った黒の団飛行船メンバーにレッタを加え、ムートネグロからの頼まれ物を持ってディケ国第六コロニーに向かう。二手に分かれて出発する別れ際に、ムートとレッタが少し離れたところで、何やら話している姿が印象に残った。ムートは自分の肩に手を置きさすりながら、レッタをなだめるように何か話しかけているようだった。レッタの方は傭兵ギルドで会った時から、なんというか、いつもの強いエルフの弓兵と言うよりは口数も少なく、ただムートの傍らに寄り添っているような印象で、ムートの手をただ両手で包んで話している。ムートは教会から襲われたと言う話もあったから、それを心配しているのだろう。飛行船の方が早く戻って来られるので、できることなら早めに戻ってネグロからの帰路でこちらに向かってくる皆を早く飛行船で回収してあげたいと思った。




 大風は三日三晩続いた。四日目、それはラクス国の島国アヅマに到達する。

「イチカゼ、一体どういうつもりだ」

 霧の濃い石段の下からサラサは、兄でありこの島国の領主たるイチカゼを見上げ声を荒らげた。

「なぜ奴にに加担する。こういう役回りは…」

「国を統べる者として、為すべき事を為さねばならない」

 視界が悪く、その表情は読み取れないが、イチカゼはサラサに向かってそう言い放った。そしてすっと腕を上げ、 服の裾から覗かせた手のひらに柔らかに魔術を起こす。

「兄さん…、」

 眉を寄せるサラサに向かって、イチカゼは躊躇いなくその魔術を放つ。


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