⑦ー2あらし
2 あらし
イーニ国。
地表に霧散する瘴気の影響により視界が悪く、道行きに長けたネグロの商人たちに霧の国と言わしめる、魔界に分類される国。この地は暗躍の隠れ蓑として絶好の場所である。
秘密結社「天吼うの石突」のアジト。
「其は千空の彼方より来る。来訪者。掲げられた栄光に宿る雨露は喝采する」
「我楽の転移。博徒の四肢。飛び去りて無碍。無垢なる器」
「なおも遠き彼の地。穿きてちぎりて滴る天。慟哭に暁ける地平。翻るまなこの見開く転生」
手慣れた準備といくつかの仕込み、そして遠方の地での出来事をつぶさに観測する目。すべての条件が整い、転生召喚の儀式は成功へと至る。彼らのうちの幾人かは、先の転生召喚の儀に参加したこともあるメンバーであった。独特のマントにその全貌を隠されているが、異なるルーツを持った者たちが混在していることがわかる。魔界と呼ばれるこの地において、魔族と、特徴的な槍を携えた人族も含めて。
転生者は、そんな面目に囲まれても動揺する様子は無い。自分が何のためにこの場所に呼ばれたのか、その状況を理解しているような目をしていた。
「あんたらは俺に何を望む」
そう問うた転生者に対して、秘密結社の幹部と思われる者は、転生召喚よりも前からずっと唱えられてきた彼らの教義を慣れた口振りで語り始めた。
「正しく評価される世界を。力あるものが生き、弱きものは淘汰される。それはあるべき世界の姿。正き世界を。あなた様の“ギフト”と呼ばれる強大な力を持ってして、この世界に混沌を。その先に正き世界を」
「…そうか」
しばらくの沈黙。イエスともノーとも答えずに、何かを考えているのか。やがて取り囲む秘密結社のメンバーは、しびれを切らして、転生者に尋ねた。
「あなた様のお名前は」
転生者はすぐには答えず、思い詰めたような表情で、その名を名乗った。
「ダン…ただのダン」
そう言うと、両の手から詠唱もせずに魔術を生じさせる。風。ひたひたと裸足の足で歩みを進めながら手から生じたその風を全身に纏う。
「おぉ…」
周囲から感嘆の声と、羨望の瞳が向けられる。
「ならば、答えよう。転生者として、役目を全うする。この世界に混沌を、荒神となって混沌をもたらそう」
早める歩調は風を吹き上げて、彼の体を浮かび上がらせる。宣言通り、まるで風の神であるかのようなその姿を、天吼う石突のメンバー達が見上げる。
飛び上がった彼をさらなる風が包み込み、やがて竜巻となると、周囲のあらゆるものを蹴散らし始める。
台風となった転生者は、それから四日間をかけて、世界を一文字に横断し、蹂躙する。




