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士獅十六国物語 〜“黒”の転生者狩り〜  作者: ホラナカチリ
⑥【閃きのカスケード】

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⑥ー15ダッシュ

15 ダッシュ


 紫雷の魔獣がコロニーのふもとで斜面に足をかける。朝日が登り、夜間の魔獣流は過ぎ去った後で。斜面を登り始めると、そこに仕込まれた魔除けの魔術が発動して、その登頂を阻むが、全身に纏う雷閂の魔術がそれらを無効化する。

 第六コロニーの最上部、街をぐるりと囲う淵には古くから魔獣の侵入を防ぐための防御装置が仕込まれていた。錆びた鉄が軋む音をたてながら準備される。投石装置が魔術の込められた岩を目下の魔獣めがけて放る。やはり魔術は無効化されるも、岩自体の質量によっていくらか魔獣をずり落とすことには成功する。しかし紫電の魔獣の目的は変わらないようで依然としてコロニーの方へ上がってくる。

 「効き目が薄いわね」

 電信の声と、朝の浄化された風に髪をなびかせるふたり。

 似合わない年代物の無骨な投石器のレバーを引く。

 「どうする?もうやっちゃう?」

 「だるいね」

 第六コロニーの淵で警備にあたるのは、リナリル、リナロールの二人、そこに通信の魔術でリモネンが会話を先導する。

 「モンスさんには連絡が取れた。今第五コロニーからこちらに向かってきてくれているようだけど、間に合うかどうか」

 「モンス隊長のパンチなら、あいつ剥がせるかね」

 「モンス“さん”でしょ。どうだろうね。相当すごい魔術殺しの魔術だよ。でも、アルクさんの攻撃が効いたって話だったよね」

 「そうね。傭兵ギルドで数件、出現情報が上がってるみたい。いずれも縄張り争いや狩りじゃなく、人や、魔術使いを襲うことを目的としているらしいわ。居合わせた傭兵が対処に当たっているんだけど、有効な攻撃策については情報がない。何か独自のスキルがはまってなんとか倒せたって感じの記録なのよね」

 「やっぱパンチだよ。“とぉつ”ってやつ。たいちょ、よくやってるじゃん」

 「リナいつも逃げてるじゃん、モンスさんの鍛錬。できんやろ」

 「えー、暑苦しくすればできんじゃね、しらんけど」

 「ちょっと二人とも、ふざけてる場合じゃないよ。ほら、登ってきてる」

 投石機の奮闘も虚しく、紫電の魔獣は落ちてくる岩を体で弾き、避けながらこちらへ向かってくる」

 「まあいっちょやってみますか」

 そう言うとリナリルはつま先で地面をはたき、宙へ浮くと、滑り降りるように斜面を加速しながら進んでいく。

 その風圧で上がった土煙りにかなり嫌そうな顔をしながら、リナロールも追いかける。

 「いつも通りのところまで。それ以上は深追いしないでモンスさんの到着を待ちましょう」

 いつもというのは、たまに魔獣流の内の何匹かがコロニーの方へ上がってきた時の対処パターンの事である。作戦というより、話を聞かずにとっとと先行してしまうリナリルに合わせた動きのことである。

 「いくよ、まずは一発どうですかっと!」

 紫電の魔獣めがけて一直線に突っ込んで行ったリナリルが、最初の一撃を放つ。目には見えない魔術攻撃。放つと同時に上方へ飛び上がり魔獣との衝突を回避する。すれ違い様に攻撃の効果を確認するが、最初の一撃は魔獣本体に傷をつける前に、やはり雷閂の魔術によって消失させられる。

 「ぐぅっ!だめ、リナロール!」

 魔獣の背後から次の攻撃の合図を出す。

 「はいあいさ」

 リモネンに遅れて魔獣と会敵したリナロールは、やや距離をとりつつ魔術を展開する。

 「さらさらと描く綺羅星 燃え落ちて、重なって 私が踏む ここに立つものに繋がりは絶えない。イクストゥインクル」

 リナロールの足元から生じた光は寄り集まって糸となり、リナロールが広げた両手に達すると硬い金属音が生じる。光の鎖となった魔術を前方に投げやるとリナロールはそれをコントロールしながら魔獣の横を通り過ぎる。

 降下してきたリナロールとすれ違うと、リナリルは逆に魔獣の方へ上昇していく。

 光の鎖が魔獣の体を拘束し、引き摺り落とす。そこへリナリルが魔術を放つ。

 「怪鳥の羽撃き 絶命に大地が揺れる 燃える空落ちては凍り 瞬きに 残る爪痕 ダイナ・ソー」

 再び見えない魔術攻撃。しかし今度は何か大きなものが斜面を抉り、引っ掻いた爪痕が残る。魔獣に命中すると衝撃に光の鎖が張り詰め、その何本かは弾け飛んだ。

 不気味なのは、紫電の魔獣がこれだけの攻撃に、声ひとつ上げずにいることだ。

 地面に倒れ込んだのはほんの一瞬で、その体を起こすと、血走った赤い目で見て、牙を見せつけるように開いた口はニヤリと笑ったようにも見えた。

 「ダメかぁ。もういっちょ…」

 「だめ!リナリル、リナロール。戻って」

 リモネンの声が耳元で響く。

 「なんで、」

 「わからないの?まるで全然効いてない。こんなの私たちじゃ対処できない」

 魔獣は二人に狙いをつけるように目をやったが、ふいに顔を上に向けると、コロニーの入り口へ向かって駆け上がっていく。体を覆っていた光の鎖は当然のように紫電の雷閂によって千切られてしまう。ただ一本を除いて。

 魔獣の足首に巻き付いた一本の鎖を、リナロールが握っている。斜面を駆け上がる魔獣に引きずられながら。

 「何やってんの、リナロール」

 「なにって…」

 足を踏ん張っても、当然、魔獣の巨体とリナロールとの体格差では止められるはずもなく、リナロールは引きづられ、身体を斜面に激しく打ちつける。

 なにって、何。私達じゃこの魔獣は退治出来なかった。魔獣はコロニーの中に入って、人を襲う。モンスさんが来て追い払ってくれるけど、それまでに何人かは死んじゃうかも。そんなの、よくある事でしょ。弱いと死んじゃうんだよ。当たり前じゃん。ずっとそうやって生きてきたんだから。

 人にとって最果ての地であるディケは、魔族にとっても、より強力な魔族に追いやられ、最後に行き着く終着駅(ターミナル)である。争いや戦争によって住む場所を追われ、時に強い魔族により保護されながら繋がれてきた細い命。傷や欠損を魔獣の義肢で補う技術は、この弱い魔族たちを生きながらえさせた。モンスは魔獣の腕を振るうが、本来は戦うための技術ではなかった。魔術に適性のないもの、傷を負って逃げ延びてきた人々の為のもの。

 「リナロールっ、いいから離しなさい!」

 リモネンの叫ぶ声が聞こえる。

リモネンにいたっては、体が弱く魔族でありながら魔力への耐性が殆どないので、魔獣流の残す瘴気の濃い明け方と夕方は部屋に閉じ籠り、外に出ることすらできない。

 なんて事はない。誰かは怪我をして、誰か死ぬ。今まで散々見てきた。これが普通。弱いものは奪われる。

 岩で瞼を切ったのか、血が滲んで視界が暗い。何やってんだか。

 直上の太陽に照らされて、顔面青あざだらけで笑っていたアルクの顔が思い浮かぶ。

 「何って…。まだ掴んでる。まだ手が届く」

 私たちは、奪われるばかりじゃない。

 リナリルが呼応するように強く地面に踏み込むと、周囲に巨大な足跡が刻まれる。

 「リナリルっ、リナロールをやめさせて」

 「いや、繋がってる。そういうことね」

 飛び上がるリナリルは、降下して来た時よりもさらに早く加速して、魔獣とリナロールを捉える。

 リナロールが傷だらけになりながらも魔獣に引きずられている。光の鎖で。紫電の雷閂は私たちの攻撃を無効化した。でも今現実に、一筋の光の魔術は消されずに残っている。全部じゃなかった。消されずに、残るものもある。まだ見込みはあるのだ。

 リナリルとリナロールもまた、魔術適正のない魔族であった。それによって住む場所を追われ、ディケに流れ着いたのだ。そんな二人に戦う為の力を授けたのがベルガモットである。

 魔術はその練度、理解度によって力を増す。“時間”は魔術の構成要素の一つである。時間をかけて、魔術構文の解像度が上がることで、騎士なども通常年長者の方がより高度な魔術を扱う。

 ベルガモットはその性質を利用した。精霊魔術によって、精霊王の蔵書をふたりに閲覧させる。それはこの世界に重なって存在し、決して交わることのない異層の知識。異なる歴史と蓄積された時間を知ることによって、リナリルとリナロールは精霊魔術の一部を、借り物として扱うことができるようになった。

 上空でリモネンが再度詠唱を始める。

 「リナロールを見て、私もこの手にあるって感じるんだ」

 紫電の魔獣に繋がった光の糸はか細くて、今にも切れてしまいそうだった。

 「どんなにボロボロの願望も、希望の光でデコっちゃえ」

 それでもリナロールは掴んだ魔術を離さない。

 「ぶっつかめ!ディアナソウル(ダイナソー)!」

 顕現する巨竜の鉤爪が紫電の魔獣を確かに掴んだ。激しい音を立てながら散る雷閂ごと、魔獣を握りつぶす。

 紫電の魔術が消えて、魔獣が動かなくなったことを確認すると、二人はその場に倒れ込んだ。

 「うひゃー、」

 「うえー、」

 「「疲れたー」」




 「火が消えただって?」

 飛行船で、最近の傭兵ギルドでの話をしていたら、珍しく船医が話に入ってきた。

 「おう。俺の新必殺技だぜ。ガッと燃えてパッと消してそれで斬ったら切れたんだよ。そんでばっとまた燃えんだなーこれが」

 エミスの説明は根性論すぎてよくわからないが、例の紫電の魔獣との戦いの話だ。僕らの最初の仕事で現れてから、他にも傭兵ギルド内で襲われるものが続出し、被害が出ていた。その後クエストラをこなすうちに、僕らも何度か遭遇している。より大きな魔術で雷閂を上回るか、一部の特殊な魔術、スキルによって討伐したという話も噂レベルで聞いてはいるが、皆自分の商売道具の話ということもあり、なかなか情報は共有されていない。最近は僕らの仕事中、ディケ近くに飛行船を停泊させているのだが、ディケの双子風姉妹風コンビ(血縁関係はないとの事だった)も紫電の魔獣に遭遇したとの事だった。異層魔術?とやらが効果ありとの事だったが、その手の話は僕にはさっぱりだ。

 「やっぱしなんか変だよねー、あの魔獣。そこら中に現れて、みんな同じ魔術を使う。群でもないし、生きるために人を襲ってる感じでもないし?やっぱ転生者絡みかねぇ」

 フェリオの言った言葉は、皆が考えていた事だ。独特でどこか振り切ったような魔術。しかし魔獣が転生者って事はないだろうから、どこかに本体がいるはずだ。でもどこに。

 「それで言うと、転生の勇者がいるって噂は聞くけど、内容も場所もバラバラだよね。どうせまた偽勇者なんだろうけど、その中に本物がいるかもって事かな」

 傭兵仕事で聞く紫電の魔獣との会敵情報や、偽勇者の噂話。その一つ一つを調査していたのではキリが無い。もし転生召喚の儀式に教会が裏で手を引いているのだとすれば、転生者を守る為のよくできた作戦なのかもしれない。だとしてもどうしたらいいって言うんだ。こちらは生活の為の仕事で手一杯なのにさ。

 一人で悶々と考えていると、いつの間にか船医が僕のそばに立っている。

 「ん?」

 「私も行こう」

 「え?」

 「次の仕事。クエストラと言ったか?」


 そして今に至る。

 仕事内容は、カロス国からフーモへの往路。荷馬車の中身は建築資材や食料などの物資だから気持ちとしては楽だ。変に小細工をしなくてもいいからね。その代わり食料を積んでいるからそれに誘われての魔獣はでる。

 傭兵ギルド内での頼れる僕らの先輩、ファイトエルフのリオ・レオンの同行からも卒業し、今回の遊撃部隊は黒の団のみで構成されている。正直リオレオンがいてくれた方が心強いのだが、僕らの積み荷のちょろまかしがバレた時に迷惑をかけないように、数回仕事を一緒に仕事をこなした後、卒業を申し出たのであった。今回の馬は僕とトバリ。船医とフェリオ。そしてエミス単独で一頭である。エミスは報酬で買い揃えた剣を無意味に前方にかざして一人乗りを見せつけて自慢してくる。

 仕事が始まれば、文句は言えまい。フェリオは耳ポイント稼ぎのために効率よく魔獣から両耳を回収する為に釣竿のような自作の魔具を使い荒稼ぎ。その間エミスは燃え上がる剣で辺りを照らしサポート。さらに紫電の魔獣が出れば、例の新技。インパクトの瞬間に一瞬炎を消して雷閂を潜り抜け、高温の剣で肉を斬る芸当で退治してしまう。相互補完のコンビネーション。お金を稼げる人はえらい。

 「僕はトバリに支えられて肩身が狭いよ」

 「今までもずっとそうでしたよ。そのことを決してお忘れにならないように」

 「…はい」

 こうして双子の稼ぎ頭のおかげで仕事は安定してきた。


 フーモ国に入った仕事も終盤、時刻は昼だった。

 紫電の魔獣がでた。昼間に出るとすれば変わった習性を持つ紫電の魔獣だし、決まって単独であったから、エミスが、よしやるぞだかなんだか、そんなようなことを言いながら向かって行った。最近はエミス一人でも紫電の魔獣を討伐してしまうし、昼間で他の魔獣の心配もなかったから、僕らは焦ることもなく食器か何かを簡単に片付けつつサポートに向かおうとしていた。荷馬車本体は魔獣との戦闘に巻き込まれないように一応ゆっくりと動き出して、積み荷の上から僕らの様子を伺っていたヴァネッサも、まあよくあるクエストラの一幕だろうとそのまま昼寝にはいった。

 それがどのようにして突如として現れたのか、その目ではっきりと見ていたものはいない。ただそいつはその巨体にしてはあり得ないのだが、音も立てずに突然現れて、ガラーの樹齢の長い大木のような片腕を、紫電の魔獣に振り下ろした。轟音と風圧と砂埃。余りの不条理に思考が一瞬停止する。なんだこいつは。いくらか距離もあるのに、見上げるようにしてその頭部と思われる部分を見る。アナモニスの背の高い四、五階建てのビルほどの大きさの人型をした何かが立っている。振り下ろした腕の周囲は衝撃によりまだ土煙が上がっていて見えない。

 「エミス!」

 巨人の次の動きに警戒しながら馬に飛び乗って、エミスがいた場所へ向かう。船医とフェリオも並走する。


 「なんだぁありゃ」

 「魔族の使う魔術だろうか」

 「とにかく離れたほうがいい」

 「走れぇ」

 激しく警笛が鳴り、荷馬車は全速力で走り始める。

 この異常事態に、ライトエルフのキリスとティアは顔を見合わせると荷馬車の警護を離れ、それぞれ馬で現場に向かって走り出した。

 「おうおうおう、なんすかこれは」

 ヴァネッサは積荷の上で上体を起こすと、戦闘に備えて魔具の準備を始める。しかし荷馬車はどんどん離れていく。すでに射程距離外で援護もできまい。

 警笛を聞いたイエンが積荷の内側から顔を出す。ちょうど中で作業をしていたところだったようだ。

 「何が起きた?」

 「いやー、わからんす。見てくださいよ」

 イエンはヴァネッサのいる積荷の上に登ると、後方に離れていくそれを見た。アルク達は小さくなってよく見えなくなっていくが、その巨人はまだはっきりと見える。

 「あ…」

 ヴァネッサが横目にイエンを見ると、彼の表情に初めて動揺の色を見た。声にならない何か呻き声のような呟きを残して、イエンは速度の出ている馬車から飛び降りた。それなりの衝撃だったろうに、構わずに起き上がると血相を変えて、その巨人に向かって走り出した。

 「そういう感じっすか、イエン先輩」

 ヴァネッサはそのまま見送るような形で荷馬車と共に離れていく。


 「うぉりゃ!」

 砂煙の中から雄叫びを上げてエミスが飛び出してきてくれたのは、まずはよかった。しかしその剣が巨人の足に当たると稲光にエミスの魔術は弾かれた。

 雷閂。それも紫電の。その巨兵は紫電の魔獣と同じ紫電の雷閂に全身を覆われている。そして近くで見るとその巨体は鎧のような魔具で構成されていた。

 上空の顔に当たる部分で何か目のようなものがチラリと光ると、今度は僕たち目掛けて足を蹴り上げる。フェリオが釣具の魔具でエミスを釣りあげると、現れたエミスの馬がエミスを背に回収し走る。僕らも進行方向を翻して巨兵からまずは離れる。土煙の合間に見えた先ほどの紫電の魔獣は、潰されて、見るも無惨な有り様だった。

 巨兵の蹴り自体は何とかかわすも、蹴り上げに巻き込まれた石や岩が後方から飛んでくるのをトバリが黒壁で防ぐ。このまま距離をとって逃げ切れるか。いや、そもそもどうやってあいつはここへ現れたんだ。距離をとってもまた突然現れるんじゃないのか。ここはガラーとフーモの境目の辺りで砂と岩の砂漠地帯の始まりの場所で周りに人はいない。しかしもう少し進めばフーモの新設されたいくつかの集落もあれば人もいる。こいつを連れていくことになるのか?

 前方から馬に乗ったキリスとティアが合流する。一旦馬を止めて指示を待ってくれる。

 決断しなくては。

 「まずは…、まずはやれるだけのことをやってみよう。安全第一でできることをやってみて、ダメそうなら合図で全員撤退。それでいいかな」

 「了解だぜ」

 エミスが早々に巨兵に向かって駆け出す。

 「りょー。例の魔獣と同じ雷閂で全身覆ってるみたいだから。効くとすれば異層魔術か裏打ちだねー。エルフ的には何て言うのかな。アウトビート?」

 「その概念については知識のみです。裏打ちというのがまだ聞き馴染みがありますかね」

 「いずれにしろ我々エルフの魔術体系にはない。皆のサポートにあたる。馬がやられた時は合図をくれ。回収する」

 そういうと、キリスとティアの二人はそれぞれ僕に肩に手を置いた。

 「「アイテム…、アイテム…」」

 「これは?」

 「加護の魔術。まじないのようなものです」

 「ご武運を」

 ライトエルフの二人は、遠距離支援の準備をしながら馬を走らせる。とにかくやれることをやるしかない。僕らも馬を巨兵に向かわせる。

 再び一番手はエミス。紫電の魔獣を倒す新技ですれ違い様に巨兵の足に斬り込むが、鎧のように硬い魔具の体に剣を弾かれる。巨兵がエミスに狙いをつけて手を近づけるのをライトエルフの二人が弓で狙撃するも効果がない。フェリオが押し上げるように大量の黒い手の魔術を放つも、やはり体に触れると紫電の雷閂によってかき消される。しかし、その瘴気は目眩しにはなったようで、エミスを見失って動きを止めた巨兵の足に向かって僕も馬を飛び降りた。

 瞬時にトバリが黒壁で足場を作ってくれる。思い切り踏み込んでウルクを叩き込むが、硬い。硬質な反動に弾かれた僕を掴んでトバリが馬に引き上げてくれる。巨兵の足元をくぐり抜けたところでエミスフェリオに船医と合流する。

 「ダメだ。体が硬すぎる」

 「だが、君ら二人の技は当たりはした」

 戦闘の場に船医がいることに違和感があったが、彼は冷静に僕らの戦いを観察していた。

 「アルク君、君はそのままなんとか刃をたてたまえ。トバリさん、貴方は月、いや陰の魔術が使えるはずだ。それを試すべきだ」

 船医は僕ら二人にそういうと手で追い払うようなジェスチャーをした。その目線は僕らの後ろ上方を向いている。巨兵がこちらに狙いをつけている。船医の指示でもう一度やってみよう。馬を走らせる。

 「エミス、君の魔術が気になって同行したが、その魔術を僕は知っている。火の月。ビクニの陰の術だ。一人でにたどり着くとはね。せめて技の名前くらいは伝えておこう。詠唱にもいくらか意味はあるものさ」

 それを聞くとエミスも巨兵に向かう。

 「さて、君が手を止めるなんて珍しいじゃないか」

 同じ馬にまたがるフェリオに、船医が話しかける。

 「もう紫電の魔獣で色々試したのさ。すれ違い様にあの雷閂を上回る魔術を顕現するのはなー。それこそ異層の手を借りるようだけど、ぼくにそんな知り合いはいないのさ」

 「そんなことでしょげるなよ少年。火の月が通ったんだ。その手で行こう。アズマ流にね」

 「五曜魔術の陰陽の覚醒なんて、それこそ時間がかかる…ちょっと」

 フェリオの言葉をさえぎるように、船医が馬に合図を出して走り始める。

 「明るくいきたまえ、フェリオ君。君はエミスの陰じゃない」


 初手、僕とトバリ。今度は二人同時に。手前で馬を降り瘴気の疾走で(とつ)を放つ。やはりこの巨体の正中を突くことは出来ず微動だにしない。そもそもこの内側に生身の体を感じない。魔具が寄り集まって動いているような手応えだ。一方、トバリの手に持ったナイフは刀身の半分ほどが巨兵の足に突き刺さっている。しかしこれにも反応はない。攻撃に構わず動き始める足から退避する。

 「びくにの、裏?何だっけか。月?何が月なんだ?」

 次に向かうのはエミス。まだ船医の指示を理解しきれていないようだったが、その顔に曇りはない。

 「まあやってみるか」

 上半身に魔術の炎を纏う。その熱を手に持った騎士剣の刀身へ。そこで首を振って刀身の火を消す。

 「そう。それでいい」

 後方から追いかける船医がその様子を観察する。

 「君は火を消したんじゃない。より高度に操ったのさ。びくにつきつき。冷え切った場所からも、君は火を起こせる」

 「…。」

 エミスの騎士剣の刀身から、完全に火が消え、熱も失われていく。ただその切先から微かに煙が上がるのみ。巨兵の足と交差する間際、ほとんど落ちるように馬から脱力して降りると、エミスは剣撃を放った。

 刀身は雷閂を回避して、硬い巨兵の体をなぞるように掻いた。

 「…蝋灼(ロウヤ)

 エミスが知ったばかりのその技の名を詠唱すると、先になぞった剣筋から、まるで出血でもするように、とめどなく炎が吹き出した。巨兵の体が揺れる。

 「僕らも続くぞ。みずうり」

 船医はエミスの技の成功を確認すると、馬の進路を巨兵のもう片方の足へ向けた。

 「説明がないんだけどー?」

 「君にそんな野暮な事できないさ」

 船医は前方へみずうりの魔術を放つ。それ自体は攻撃にならない。ただ敵にあたる前にはぜて、霧のように周囲へ散る。

 「みずうり、山雨(サンウ)。鏡。僕にできるのはここまでで」

 「水の日、おっかないなー」

 フェリオもまたみずうりの魔術を掌に起こす。それはアズマで見たコピーで、自身の鍛錬に基づくものではない。それゆえのこの手放しの感じ。ただその水のように見える魔術を見る。それは一滴の朝露であり、沸る汗の一滴でもある。理解の及ばぬその魔術構文の境地を、フェリオは手放すように巨兵に放った。

 「創生(ソウセイ)

 駆け抜ける船医とフェリオの馬を追いかけようと重心を動かした巨兵の足が、力のかかったその場所からひしゃげる。両足に魔術攻撃をくらった巨兵が立っていられなくなり、大きな音を立てながら膝をつく。

 「よし。すごい。二人の魔術が効いた」

 これなら何とかやれるかもしれない。次の攻撃へ移ろうと巨兵を観察していると、チラリと微かに雷閂の魔術のような光が体の外へ向かって糸をひくのを見た。巨兵の後方。その先に誰かいる。巨兵が現れた時と同じように唐突に。紫電の雷閂で光る二輪車に跨ったそいつは、人の大きさだった。巨兵と同じく全身をタイトな鎧で包んでいる。二輪車を降りるとふらふらとその場を離れ、頭に被った兜を外し、気持ちが悪いのかその場に膝をついた。その様子に、異質さに、僕は確信した。転生者だ。



 「なんだ今の音は!?」

 ハスタ城内に響いた大きな物音に、聖騎士ジェイルが勇者デンジのラボと化した地下階に降りてきた。警報音が切られたアラートの物々しい点灯が、伽藍堂になった地下魔術場を照らす。

 「これは一体…」

 つい先日、いや先ほど見回りに来た時にあったはずの巨大な建造物がすっかりなくなっている。

 下から執事バレットが困り顔で階段を上がってくる。

 「勇者殿はどうした?」

 「それが、お止めしたのですが…」

 上から下手な金管楽器を複数吹き鳴らしたようなエンジン音か聞こえる。ジェイルは急いで城の外へ出るが、音の主の姿はすでになかった。近くの柱に一羽の魔術鳥が留まる。

 ジェイルは長銃を構えスコープを覗く。

 「追えるか」

 魔術鳥はくぐもった電信の声で答える。

 「無駄だ。速すぎる。すでに国を出ようとする勢い」

 「転生者狩りか?」

 「国内へ入れば鳥が感知するだろう。それはなかった」

 「あのデカブツが、魔術鳥を振り切れるほど早く動くなどと想像できるものか!」

 ジェイルは近くの彫刻の入った柱に腕を振り下ろす。

 「でたらめじゃないか…っ」



 「全員、巨兵の攻撃を交わしながら退避」

 僕は馬から一人降りると、皆に伝えた。事前の打ち合わせ通りの指示だ。意図は伝わったらしい。

 「走れ!」

 馬での移動に必要な荷物や羽織りをその場に落とし、瘴気の噴出で疾走する。

 後方にトバリのついてくるのを感じる。

 「トバリ!退避だ」

 「しかし、」

 「これは…、命令だ」

 「かしこまりました」

 しばらくは左右にトバリが魔術で作った黒壁がついてきたが、距離が離れるとそれも霧散した。

 その男の前に立つ。

 こちらの接近に気づいていたのか、頭部を覆う兜を被り直している。

 「我が名はデンジマン。ん?」

 斬る。

 巨兵には弱点と言えるようなポイントは見当たらなかった。魔具のみで構成された傀儡だから、僕の剣技の出る幕はなかった。同じ雷閂の鎧を身に着けたこの男。彼も傀儡なら、やはり僕にできる事はなかっただろうが。

 外れるという事は、そこに隙間があるという事だ。

 「え?なんだ、これ。血?えっ、えっえっ?」

 兜と鎧の継ぎ目。そこに切先を差し込んで首筋を切った。

 「いっ、いっつ。痛い。血が血が」

 デンジが鎧の隙間に手をやろうとして鎧が引っかかり、グローブを外し手で傷口を抑えると雷閂のような光と、肉の焼ける忌むべきにおいがした。傷口を焼き付けているのか。

 「何なんだよお前。いきなり。やべえだろっ、これ。くそ」

 目線、手の動き、腕の動線。警戒して必要以上に身をかわすがそれでも熱風に肌が焼ける。

 デンジがこちらへ差し向けた腕の先へ、光の束が現れた。熱量を持ったその魔術は、彼の腕の直線上に真っ直ぐに放たれた光線の魔術のようで、その射線上にあるもの全てを焼き尽くした。みんなに当たらなくてよかった。いや違う。僕の後ろにはみんながいるんだ。

 「ゔぅっ!」

 かわした僕を見つけると、デンジは感情的に腕を振るい光線の魔術を僕めがけて叩きつけようとする。

 グローブを外したままだ。

 「あぁっ!」

 新たな傷口を抑えるのに、光線の魔術が止んだ。

 彼の後方で、トバリ達を追っていた巨兵がこちらへ引き返そうとするのを、皆が食い止めてくれている。リアルタイムで巨兵と本体は連絡しているのか。

 なら早く止めを刺さないと。

 「ヒィッ…」

 デンジが怯えた目で僕を見る。不思議と何の感情も湧かなかった。

 「くそっ…。ぼくのせいだ。デンジマンは完全無欠のヒーローのはずなのに!ぼくのせいで、ぼくが足をひっぱたせいでダメなんだ」

 何を言っているのか。しかし転生者のギフトを警戒しなければ。次の隙を。

 「ごめんよぉデンジマン。君は完璧なーヒーローなのに、ぼくのせいで…。君をぼくから解放する。弱いぼくから。だからデンジマン。みんなを救ってくれ。こいつから逃げて、完成するんだ。デンジマーン!」

 デンジの体から光が失われる。紫電の雷閂が彼の体から引き抜かれるように消え去ると、また、デンジ自身の生も失せ、転生者の肉体は消失した。






 ただ紫電の雷閂だけが、超高速の時間の中で再構築される。

 

 



 それは未来へ至る


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