⑥ー10積み荷
10 積み荷
「こりゃなんだ?知れねぇなぁ、こんな生き物」
カロス国内辺境のとある街。僕らは、今、この街の傭兵ギルドの報酬換金所へやってきていた。
「耳はやたらと長い、これが本当にお前さんらの言うよに四足歩行の魔獣なのであれば、耳は開いている。耳の閉じたのと開いたのじゃ。ずいぶん違いがあるんだ。魔獣には成長すると耳の開いた個体か出てくる。そいつは自分の縄張りに入ってきた他の魔獣を絶対に許さない。必ず戦う。気性が荒いんだなぁ。だがこのなげー触覚は一体なんだ、知れねぇなぁ」
換金所の鑑定人は僕が出した例の魔術を纏う魔獣の耳を見て首をかしげている。難航する僕らの鑑定を横目に、早々に換金を終えたリオレオンが助け舟に入ってくれる。
「本当にいた。通常の魔獣の四から五倍はでかいやつだ。その上、魔術を使っていた。厄介な奴だ。ギルド内に警告を出しておいてくれ」
「ふむ。まぁイヤーが言うなら今回はいいだろう。そんじゃまぁ、四体分だな、これで」
鑑定人は金貨の入った小袋を机に置いた。費用感がよくわからなかったが、リオレオンがさっき懐にしまった袋と比べると、少ない。まぁしょうがないか。
ギルド内のミーティングスペースに設けられたテーブルを皆で囲う。周囲はほとんど飲み屋の様相だ。僕、トバリに双子と、リオレオン。気に入られているのかイエンとヴァネッサはまだノルトスの方の仕事の手伝いで出ている。
やっと人心地ついた。
「ぼくー、追加で装備を色々と買い揃えたい。ちな、もっと稼げるよ」
「俺も剣がいる。何本か走ってたら落とすしな」
早速双子がお財布係のトバリにおねだりを始める。トバリはは手元の巾着に入った硬貨を指先でカチカチと勘定すると、エミスフェリオのお小遣いをまとめてフェリオに渡す。
「やったー。買い物行ってくるね」
双子は大手をふって商店へ向かった。
「僕も服とか欲しいかな新しいやつ。レインコートとか」
「では後ほど一緒に買いに行きましょう」
ファッションセンス低の烙印はまだ消えてはいないようだ。
「まぁ、待て。せっかくの初仕事の祝いでもしようじゃないか」
そう言うと、リオレオンはギルドの内で飲食を提供するカウンターの方へ手で合図を送り注文をする。
「お前に話したいことがあったんだ」
リオレオンは改まって、僕をまっすぐ見つめる。
「前にファイトエルフの里に行ったことがあると言ったな。あの二人(ライトエルフの二人)と一緒にいた時から、なんとなくは考えてはいたんだがな。最後の夜。魔獣を狩るお前の姿を見てわかった。俺の里が襲われたときに、里のものを助けてくれた黒い瘴気をまとう剣士と言うのはお前のことだな、アルク」
「たまたま通り掛かっただけだけどね。別の目的があって」
「礼を言わなくてはならない。俺の家族もお前たちに救われたんだ。ありがとう」
この一週間、お世話になりっぱなしの人物から、深々と頭を下げられると、なんだか変な感じがした。
「あれはまぁ、その、レッタがほとんどやったというかなんというか…。」
うまく言葉が出ないでいるが、リオレオンはそれでもまっすぐ僕を見て謝意を伝えてくる。
「まぁこんな仕事だ。家を開ける時間も長いし、人族とつるむ変わり者と、エルフの中でも薄情な異端扱いされることも多い。それでもこの仕事で生計を立て、家族を思う気持ちは他のエルフの子達と何ら変わりない。お前たちにも、あまり良くない態度と思ったかもしれないが、ただ生きることに専念してほしいと思ったから出る言葉なんだ。どうか勘弁してくれ」
「それはもうわかってます。この一週間、本当にありがとうございました」
「しかし、お前も変わったやつだな。剣に瘴気を纏う魔術。それに仲間がエルフや魔族とは。このカロス内ではあまり目立たないようにしておけ」
「はい」
リオレオンがおごってくれた最初の一杯を飲み干す頃になると、ギルド内はここ酒場として使う傭兵たちで賑わい始める。そろそろお暇をしようか。変に悪目立ちをするわけにはいかない。最後に聞きたかったことをリオレオンに切り出す。
「それで聞きたいことがあるんですが」
「何だ?」
「積み荷の中身について」
リオレオンは眉間に寄せると、目線を落とし悟られないように周囲を警戒した。
「外に出よう」
リオレオンが席を立つ。
「歩きながら話す」
リオレオンに促され僕ら三人はギルドを出た。カロス領のこの街は、田舎とは言え、道は整備され、建物が立ち並ぶ。フーモや、道中ガラーの自然に見慣れていたせいか、人界の街だと強く感じる。
「それで、何が聞きたいんだ。言っとくがな、キルド内では話の内容に気を付けろよ。どんな奴が聞いてるか知れない」
「ごめん。聞いておかないといけないことがあるんだ。僕らの運んできた積み荷のことで」
積み荷の護衛の任務についたことがある。いやと言うほどやった。魔獣に襲われることもあった。彼らの縄張りに足を踏み入れた時。あるいはこちらが負傷者を運んでいる時。魔獣だって獣だ。何かを守る時か、勝つ見込みがあって襲ってくる時しか襲ってこない。なのに、
「僕らはほとんど毎晩、魔獣に襲われた。武装した傭兵が荷馬車を囲んでいたし、魔術だってそれなりに使える者が多かった。それなりの壁があったはずだ。魔術の警戒と警告。それなのに襲われた」
僕の話を聞いて、やっぱりか、という表情とともにリオレオンは少し嫌そうな顔した。しかし、歩みは止めない。
「フーモは人族の領地として整備されている。行きは建築資材や食料、物資の運搬。帰りは、人あるいは魔族」
「やっぱり…。」
女子供や弱った者。狩りがしやすい獲物がいれば魔獣はたとえ護衛がいたとしても襲ってくることがある。僕らが一週間護衛していた積み荷は、そんな人たちだったのだ。




