⑥ー7ギルドパス
7 ギルドパス
「はい。それでは奥へどうぞ」
受付の男に申請用紙を渡すと奥の部屋へ案内される。この受付が突き当たりと思っていたが、脇に通路があり、奥へと続いている。ずいぶん先まである。
「ささ、どうぞどうぞ」
いつの間にか受付のカウンターから出て来ていた男が先を手で指し示しながら、自分だけどんどん先へ行ってしまう。
ついて行こうとしたところを後ろから呼び止められる。
「おい、あんたら」
見知らぬ立ち姿に警戒すると、フードをあげて顔を見せる。体格のいい体つきに長い髪、そして飾り付きの耳。先の投擲男を捕まえた城にいたファイトエルフの傭兵だ。
「あんたら、傭兵には見えなかったが…ん?おまえら」
ファイトエルフの視線は、ライトエルフの二人へ向けられる。ガラーのエルフ同士、面識があるようだ。
「どぉーぞーー」
奥からギルドスタッフが呼ぶ声がする。
「僕らこれからギルドパスの登録がありまして」
「…そうか」
ファイトエルフは先へ進む僕たちに訝しげな目を向けながら、なぜかついて来る。
「あー。それでは準備が整いましたので、新規登録の方はそれぞれこの先の扉へお一人ずつどうぞ」
ギルドスタッフの男は等間隔に並ぶ扉を手で指し示す。その顔が隠れた一瞬、笑った?
「…おい」
ファイトエルフは何か抗議するような様子でライトエルフの二人に言いたそうであったが、全く取り合わないふたりの態度に、ふっと鼻息を漏らすと、僕らが案内された部屋があるのとは別の通路に進んで行った。
「登録済みの方々は、あちらへ」
ファイトエルフの行った道へライトエルフの二人とヴァネッサは促される。
「これって、大丈夫なの?」
僕の発言は静かな通路にぽつねんと残された。目線を合わせてもいまいち意図するところが通じ合わない。ライトエルフの二人に至っては終始無表情である。そのままライトエルフとヴァネッサの三人は行ってしまった。
通路には、僕ら四人と用意された扉。静寂と貼り付けた表情のまま固まるギルドスタッフの男が、来た道を塞ぐように立っている。どうやら進むしかないようだ。
各々が準備された扉の前に立つ。
「それではどうぞ」
扉に手を掛け、おそるおそる開く。
フーモ・傭兵ギルド内、修練場。特に内装もされていない建築材剥き出しの空間で試験官が待ち受ける。
「俗物め。我が騎士剣のサビとなれ」
「ぐへっ、おんなだあ」
「悪くない鍛え方だな。これが終わったらうちのパーティーで使ってやる」
「膝をついて靴をお舐めっ!」
とりあえず早く出よう。
いくつかの区切られた修練場。
その裏は広い空間で繋がっており内部を覗くことのできる隙間がある。そこにはこの傭兵ギルドを拠点とする傭兵達が集まっていた。ギルド入り口にいた傭兵よりもずっと数が多い。酒を飲み交わし、娯楽を求めて修練場を覗く。新たに入ってきたギルドパス登録者の様子をみて、早速賭けが始まる。
「何ダァ、ずいぶんヒョロイのが入って来たじゃねぁか」
「おいみろ、女だぞ女」
「まともな武器を持ったやつはいねぇな」
「競売は無しか?」
「五分ともたねな、ありゃ」
傭兵達は品のない態度で新参者をみて笑う。酒がすすむ。
「大丈夫なんですか?」
ヴァネッサの質問には答えず、ライトエルフの二人はとっととバーカウンタへ近づいていって酒を注文している。
「さっあー、はじまりますよぉ皆様。お楽しみの新顔タイム。どいつがどれだけ持つかどいつからギブアップするかはたまた壊れるかぁ!さぁどいつどいつどいつにかける」
勢いよく部屋に入って来たスタッフの男が大声で楽しそうにまくしたてて傭兵達を煽る。
「一の部屋っ!ネグロ出身の商家の男。積み荷の護衛で剣に覚えあり。短剣使い。対するは中級上位、元はカロス国の騎士団所属、FGの番人、“漏剣のラミリス”!」
「二の部屋っ!メイド装束のこの女、なんと一の部屋の男と禁断の駆け落ち婚だそうだ。護身術に隠し刀が使えるそうだが、かわいそうにっ、相手は“壊し屋バッカス”奴の棍棒と斧を誰か取り上げてくれい!」
「三の部屋の体格のいい男。ラクス海上の船で物売りをしていたそうな。鍛えたその腕でどこまでやれるんだぁ。腰の剣は日の目を見るのか?対するは商人御用達、今月も報酬最高額を更新中。大口護衛で“地道に稼ぐのノルトス”!」
「四の部屋!うら若き少年、長ったらしい名前は貴族の証。手には由緒正しきヒョロい魔具。ガッコーで学んだ魔術は現場で通用するか?お相手はうっらやましい。我らがマドンナ“鞭使いのマジョリティ”叩かれたい踏まれたいっ」
ギルドスタッフの説明が済むと、傭兵達は思い思いの結果予想と金額をスタッフに手渡す。誰が一番に新参者達を調伏するかその順番を予想するものばかりだ。ギルドパス登録の為の実力検査とは名ばかりの新人いびり。結果によってランクが決定するのではない。ランク中級上位が新人をいびり倒し屈服させた後は、自分たちの下っ端としてこき使う。
確かにどこも傭兵のガラは悪いが、国家直営直下のギルドであればここまで無法地帯とはなっていない。ここが酷すぎるのだ。ヴァネッサはことの次第を冷静に見極めようと壁に持たれながらもしっかりと修練場の成り行きを観察する。バーのエルフは、仲間の様子を見てもいない。二人で談笑しながら酒を飲んでいる。
「ねぇちゃんは誰に賭けるんだ?」
話しかけてきた者を手で払いのけながら冷やかな視線を向ける。
「私はただ、観てるだけ」
前へ前へ、傭兵達が詰める。
「さぁ、それでははじまりますよーう!…ありゃ?」
バンッ!
足蹴にされた扉が勢いよく開く。
背後には倒された傭兵。
“アールKクルトン“ランク中級下位。
「これで良かったのかな」
“トバリ・クルトン”ランク中級下位。
「奥にギルドメンバー専用の売店があるようですので、立ち寄ってから帰りましょう」
“イエナ・イヨ”ランク中級下位。
「中級下位…。中級、下位。下位。騎士団員であるこの俺がっ」
“フェルナンデス・フィオナ・フェイリス・スフィーリア・エリスフィア・ザ・フェリオ”中級下位。
「このぼく…、オレ様こそが、新たなる支配者」
「名前の最後、結局フェリオじゃないか」
偽名はどうした、偽名は。
「お疲れっすー」
出迎えてくれたヴァネッサの渋い顔を見て、あまりよろしくない状況を察する。
「ダメだったかな?」
「いやー、まあいいんじゃないっすか。悪目立ち?的な」
「わる。」
また悪か。
「ワルっすね」
「ワルだーぜぃ」
フェリオだけがやたらと乗り気だ。




