⑥ー6傭兵ギルド
6 傭兵ギルド
「士獅十六国。かつて神は人をつくり、十六の国を与えた。」
芽生えた全ての生命はやがて彼女の心となるだろう
「光を護る為、天使は十六振りの剣を授けた。」
僕の心臓が大地にたぎり、豊穣があなたの生きる糧となるように
「湧出する邪悪を薙ぎ払うのは騎士の命。」
どうかそこにあるのがやさしい笑顔であるように
「人界の国には国直属の騎士学校があって、そこを卒業して国直属の騎士団に入る。聖騎士を頂点として序列があり、当然、下もある。つまり、騎士学校を卒業して騎士団加入の命を受ける者もあれば、そうで無い者も。魔術の扱い方を学んだ者は商人でも技術者でも重宝されるが、冒険者だの傭兵だのと、忠誠心もなく、剣術を頼みに半端な剣を振るう。ほとんどごろつきと変わらん連中だ」
ザクザクと砂っぽい道を進みながら、イエンの偏見気味の説明を聞く。
「魔王との戦いが苛烈を極める時期に、仕事があった」
「それで連中は威丈高、特にフーモの傭兵ギルドは周辺国の共同管理、と言っても国内にあるわけじゃ無いから目が行き届いているとは言えない」
イエンに続けてライトエルフの二人が発言する。レッタの指示で僕らの案内役としてついて来てくれたのは、ガラーでの戦いにも同行してくれた二人だ。
「ついたぞ」
人界と魔界の境界にあって、魔王軍との戦いの激戦地であったフーモは荒廃の土地だ。国内のかろうじて都市といえる場所は、どこも崩れかけといった印象を受ける。
「フーモ・傭兵ギルド」
そんな中にあって、傭兵ギルドの建物は物々しい雰囲気の堅牢な建物だった。周辺の中小規模の石造りの建造物群や、商人の使うテントとも違う。何か硬質な建築素材によって建てられた町で一番大きな建物。
「入るぞ」
イエンが大きな扉に手をかける。僕は一応フェリオの深く被ったフードの中を覗き込むと、不満そうな顔をしたフェリオが髪を魔術で明るく染めていた。
イエン、ライトエルフ二名、僕とフェリオ、ヴァネッサにトバリの順で足を踏み入れる。
「ぷはーっ。イエン先輩、よくあんな砂っぽい中で話せますね」
開口一番にイエンに絡むヴァネッサに対し、イエンは地面に向かって砂の混じった唾を吐き捨てた。
「ヒッ…」
その行動にヴァネッサはイエンを睨む。
「アイテム…」
「アイテム…」
ライトエルフの二人は互いのマントの砂埃を払いながら、何某かの魔術を掛け合っている。
フェリオは飛行船からここまでの道中で既に疲れたのか、近くに置かれた木製のベンチに腰掛ける。何があるかわからないこの場所で無用心かと思い連れて行こうとするのをトバリが制する。
「ここで待っていてもらいましょう。変に問題を起こされるよりいい」
拗ねているのか体制を崩して背もたれに腕を投げ出すフェリオ。少し心配になったが、違う。よく見ると自分の顔にいい感じに影が入るように調整している。あれはふてくされているのではなく、悪ぶっているのだ!
「オレに話しかけるんじゃねーぜー」
完全に雰囲気にあてられている。というのも、先ほどからギルド内のイカつい傭兵達の鋭い視線がこちらに向けられているのだ。
「おいていきましょう」
「うん」
正面の扉から奥の受付まで、まっすぐに緋の絨毯が敷かれている。だいぶ年季が入っていて薄汚れて入るものの、古いフーモ国の紋章があしらわれていた。左右にはたくさんの椅子とテーブル。ちらほら傭兵と思われる人たちがいて、酒の杯を置いている。酒場のような雰囲気だ。奥に進むにつれ薄暗く、壁には仕事の依頼と思われる紙が貼られている。ちぎり取られた跡がそのままになっている様が、治安の悪さを引き立てている。
「ああいうの、気になりますね」
トバリがメイドらしい感想を漏らした。
「何か?」
「いや、トバリついてくるの珍しいなと思って」
「いつも貴方のお側に」
優しげな笑顔でからかってくる。トバリが飛行船を離れられるのは、彼女が魔術で隠蔽せずともフーモの砂による視界の悪さで船が隠されているからだ。いざとなればエミスもいる。
「らっしゃーせ」
貼り付けたような笑顔の男が受付から顔をのぞかせる。鉄製の柵で身を守っているところからも、物騒さが窺い知れる。
「どのようなご用件で?」
「彼らに傭兵の仕事を紹介したい」
ライトエルフの二人はそう言うと、懐から書面を取り出して受付へ差し入れる。
「ギルドパスは…ふむ。他にお持ちの方は?」
「はい」
ヴァネッサも似たような書面を受付の男に渡した。
「何あれ?」
「ギルドパスっす。傭兵の身分証みたいなもんすね。うちは前にちょこっとそんな仕事したことがありまして(偽造だけどね)」
「えっと、他の方は、発行をご希望で」
「ええ」
「ご新規ぃ。であればこちらにご記入を。何枚ご入用で?」
「検討する。ありがとう」
書類を受け取るとライトエルフの二人が両手で掃くように撤退の合図を出すので全員でドタドタと近くのテーブルまで引き下がる。
「傭兵としてギルドに登録すると、そのレベルに応じて仕事を受けられる。治政業務、通称クエストをクリアする度、報酬と信用を得る。実績に応じてランク分けされ、受注できるクエストの内容も増える」
「エミス達の分は、」
「ある程度の格のある傭兵であれば、無登録の従者を仕事につける事はある。今回の登録にはリスクがある。今いる者が登録し、後のものは従者と位置付けるのがいいだろう」
まあ、確かにエミスは傭兵なんて絶対嫌だろうし。ここにくる前も、「俺は騎士だ!」といつもの決め台詞でこの仕事を断固拒否していた。傭兵落ちはここに来たメンバーと言う事か。
「最終就職先にならないことを祈ろう」
“アールKクルトン”偽名を書き入れ、改めて自分の身につけている物に身元へつながるものがないか確認する。黒塗りの名無しから、偽名の傭兵へ。今はやれることをするしかない。
「では、今日はここまで」
「ありがとうございました」
飛行船内、今日の分の勉強を終えたヨルが、今日の先生担当である船医に礼を言うととっとこ走り出す。
「お疲れさまです」
シーラがお茶を出すと、カップの上に片手で礼を表すジェスチャーする船医。今日やった勉強の内容を確認するように本を読みながら茶を啜る。いつもであればヨルの勉強をみた後にトバリが入れてくれる極上のお茶こそが、船医にとっての報酬であった。
「船医さんが見てくれるようになってから、ヨルちゃん、勉強するのが楽しいみたいです」
「やる気のある人を教えるのはこちらも面白い物ですよ」
「ふふ。本当の先生みたい。お茶のおかわりはキッチンの鍋いっぱいにありますからご自由にどうぞ」
「鍋…」
「たっぷりどうぞ」
「エミスー、あそぼー」
「お!べんきょうはっ!終わったのかっ!」
上裸で剣の素振りをするエミスに、ヨルは傍に落ちているタオルを投る。
「おわったよー」
「そうかそうか、またかしこくなったな」
エミスはヨルの艶のある黒髪をわしゃわしゃと撫でる。
「われ思う、故に我あり」
「おぉ!何だぁ!?賢いぞぉ」
「えっへん」
ひと通り戯れると、ふたりは船体の端に腰掛け、どことなく視界の悪い遠くの方を見る。
「エミスは行かないの」
「今回はなぁ。傭兵なんて騎士の仕事じゃねーぜ」
エミスは行商人から買った新しい剣を確かめながら言った。
「エミスはアルクといたほうがいいよ」
その発言にちらりと横目でヨルを見て、また視線を自分の剣に戻す。発言の真意を少し考える。フェリオじゃなくてアルと、と言うところに意味を感じた。人と魔族が共に生きる。そんな未来を、ヨルは見ているのだろうか。自分には、わからない。先のことなんて。だからこそ、理想を通す。自分の軸だ。
「“騎士の剣”を振るうんだ。よく分からん奴らに命令されるなんてごめんだぜ。…でもまあ、アルの事は手伝ってやるか」
「うん」
ヨルが笑顔で肯定してくれたら、それが正しいことだって理屈抜きで思えるんだ。それでいい。少しモヤモヤしていた気持ちが晴れた。
「フェリオはワルになって帰って来るって言ってたよ」
「ムリだろ、あいつ甘くしないと茶飲めないし」
「そっかぁ」




