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士獅十六国物語 〜“黒”の転生者狩り〜  作者: ホラナカチリ
⑥【閃きのカスケード】

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⑥ー4偽り

4 偽り


 飛行船は、ライトエルフの里に到着した。

 数日ぶりに下船すると日差しが厳しいが、ガラーの深緑とそよぐ風が気持ちいい。

 「アルク、お前大丈夫か?」

 疲れ切った顔をしていたせいか、出迎えてくれたレッタにどつかれながらも、三度訪れるこの場所でライトエルフの皆さんに歓迎された。ありがたい。

 情報共有、特にネグロ第一商会の現状について何か情報が得られたらと思って寄ったのだが、お目当ての張本人がここにいた。

 「おう、お前さんら」

 ムート・ネグロは、彼とレッタの子供であるレット君を膝の上に乗せて、絵本を読み聞かせている所であった。


 里の集会所。

 ムートは全身の袖口や胸元から見える包帯が痛々しいが、語り口は軽快であった。

 「苦労かけるが、よーくやってくれとるのぉ」

 「いえいえいえ…」

 「えへへ」

 ムートに声をかけられてシャッツとシーラは嬉しそうだ。彼らの大ボスだものな。その横でゼンがムートから細かな指示を受けてメモを取っている。各地に点在するネグロ第一商会の拠点や商会員のうち、接触可能な人物。今後、協力してもらえる見込みのある人物や拠点とのことだが、あまり多くはなさそうだ。

 オーロが商会を完全に引き継いだこと。教会国の干渉が強くなったため、基本的には僕らは近づかない方が良いということ。ムートは聖騎士に追われる身となったこと。この三点がムートから得られた情報だが、彼自身商会との連絡を完全に絶っているため、今現在どうなっているのかは判らないという事だった。

 「うーむ。悪いがのぉ、そんなことで、仕事は紹介してやれんのぉ」

 「いえ、今まで十分過ぎるほど助けて頂きました。僕らのことはお気になさらずに、今は体を労わってください」

 鈴の音。

 壁に掛けられた装飾品と思っていたそれはひとりでに鳴り出す。

 僕らを出迎えてくれたライトエルフ達数人が立ち上がるのをレッタが引き止める。

 「わたしが行こう。そうだな…新入りさん、手伝ってくれるか?」

 そう言ってヴァネッサを指名すると、二人は部屋を出る。


 「垂天の鋲 嘯くかかし 天蓋手繰る人形劇 羽衣奏上のつぶさ シャンジュマン」

 レッタは詠唱とともに三本ほど矢を空へ打ち上げる。

 「里の近くに魔獣が入り込んで来るんだ。最近は数も多い。だから持ち回りで駆除するってわけ」

 「…そうっすか」

 先ほど鈴を鳴らした壁掛けの魔具からは、外へ向かって紐が伸びていた。紐を張り巡らせた一定の範囲内に侵入者があれば警告する仕組みか。

 それにしてもなぜ自分をお供に。読めないレッタの態度に緊張しながらも、手に持った銃の魔具にゆるく魔力を巡らせる。腰には短剣も忍ばせている。レッタの足は日常生活の範囲では気が付かなかったが、険しい山道を歩く様子から何らかのデメリットを負っている事がわかった。元勇者パーティの狙撃手。撃ち合いなら不利でも、この足元の悪い環境での近接戦闘なら何とかなる。落ち着け。

 「止まれ」

 語調にドキッとしたが、レッタの目線は遠くの方を見ていた。そのまま伏せて茂みの中に進み入る。

 「見えるか?」

 レッタが指差す先には一匹の魔獣の頭頂部が見切れている。狼に近い四足歩行の中型魔獣。弓で射れるギリギリの距離感だ。

 「撃ってみろ」

 「…私が、ですか?」

 何を探られているのか。いや、考えてもキリがない。今は…狙撃に集中。

 「…サージ」

 弾倉に装填された弾に魔術を顕現する。狙いを定めながら肩を引き絞り銃身を固定する。

 乾いた音と共に放たれた弾は魔獣の胴体付近に着弾した。かすめたか命中したかの判別はつかないが、魔獣は駆け出し、いづれにしろ致命傷には至らなかった事がわかる。

 「…すいません」

 「うん」

 魔獣に警戒された。それにこちらの位置も知られた。レッタの先導で山道を速やかに移動する。

 「サージか、傭兵達の間で流行ってるやつだよな。使い良いが構文が単純だ。銃との相性がいいのか?」

 「はい。あらかじめ弾の魔具に魔術を込めて、それを火薬と銃の魔術で飛ばすんです。魔術を撃ち放す魔弾とは違う。魔弾はそれこそ複雑です」

 「だなー。出鱈目な魔力量だもんな。ほんと苦しめられたよ」

 レッタのくだけた態度の裏には、確かな経験則がある。こちらはディケに横行する銃犯罪へ対抗するために銃の扱いを訓練してきて、一定程度のレベルにはあると思うが、長命なエルフからすればオモチャみたいなものだろうな。

 「さて、きたぞ」

 周囲の木々がそよぐ音に包まれていた。背の高い木の合間から差し込む陽射しが、大きな影に遮られる。瘴気や気配を感じる間もなかった。魔獣はこちらを目掛けて猛スピードで駆けていたんだ。音も、光も、周囲の現実がゆっくりに感じる。腰の短剣を抜きながら、レッタに目をやると、前方には二匹、別の魔獣が迫っていた。自分には対処しきれない。短剣に込めるのは強力な突きの一撃の魔術。いや、ブレる。断片的に発現する連撃の魔術で何とかいなすか。

「褄裂け ピケ(刺せ)

 レッタの呟くような号令で、降ってきた三本の矢がそれぞれの魔獣を射抜き地面に叩きつけた。

 ヴァネッサは攻撃の行先を失い尻餅をつく。

 魔術が顕現するような挙動も、瘴気の排気もない。

 唖然とするヴァネッサに対してレッタは空を指差した。

 「シャンジュマン。あらかじめ矢を放ってるんだ」

 「そんなこと…」

 常に鏃の先端がこちらを向いていた。矢はすでに放たれていたのだ。あとは挙動もなく落とすだけ。これこそデタラメだ。

 「迷ったろ、反応が遅いな。せめて銃剣にした方がいい。抜く時間が勿体無いだろ」

 腰に隠していた短剣が本命なのもバレてしまった。ばつが悪くてすぐ腰に収める。

 「なぜ私を連れてきたんですか。…私が潜っ」

 「ふ、そんなむずかしく考えるなって。わたしはな、ただ…、練習仲間がいなくなっちゃったもんだからさ。よかったらまた一緒に訓練しようぜ」

 差し出された手とレッタの屈託のない笑顔に、気を許してしまう自分がダメだなと思いつつ、嫌な感じはしなかった。

 「最初から三匹いるって分かってたんすね」

 「ん?あぁ」

 帰路に着くふたりのその遥上空、雲の一つに見えたそれは、風に流されつつも上空で待機する大量の矢。数百本はあるその矢には、仲間を傷つけるものは許さないという覚悟が宿る。


 「さっきの話な、ファイトエルフの傭兵」

 「はい」

 皆で夕食の為にレッタの自宅のキッチンで所狭しと準備をしていると、ムートが何かを思いついたようだ。

 「傭兵っちゅうのはどうだろうか」

 「僕らの仕事のことですか?」

 ここを訪ねたのは今後の金策のこともあったのだ。

 「傭兵ギルドは各国の騎士の情報を共有しています。俺やアルクはまずいことになりかねないでしょう。それに、」

 イエンは言いかけて言葉を止める。魔族を連れてそんな所に行ったら危険ということだろう。

 「いんや。国直属のギルドはそうとも、フーモにも傭兵ギルドがある。比較的新設されたギルドで、管轄する国も遠い」

 「紛れ込む隙があると?」

 「一度登録する事ができれば、よその国の仕事でも受ける事ができる。流れ者には悪くない仕事だろう」

 「「傭兵は…」」

 イエンと同じことを考えたようだ。騎士から傭兵へ。そんな人達を見た事はあるが、大抵碌でも無い。酒に溺れたりで騎士の仕事をクビになった人の行き着く先。偽りの騎士と後ろ指を刺される。

 「なぁにを文句言える立場かおまえさんら。金がなきゃ食えねぇだろうが」

 ムートはまな板に大きな川魚を乗せると音を立てて包丁を振りおろした。

 「んー。今日のはいい魚だ。ツケにしといてやるぜ」

 快活に笑うが目がマジだ。しっかりあとで取り立てられるだろう。



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