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士獅十六国物語 〜“黒”の転生者狩り〜  作者: ホラナカチリ
⑥【閃きのカスケード】

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⑥ー1参上

⑥ 閃きのカスケード


1 参上


 砂塵の吹き荒ぶ荒野。

 打ち捨てられた石片はかつてこの地にあった国の石造りの建造物の成れの果て。

 砂塵に混じる端切れは、魔王討伐の為に集った人界軍のキャンプの跡。

 フーモ。人界と魔界の境。いつも人と魔族の争いの地となってきた場所。

 そのとある古城は、争いから逃げ延びてきた人々の居場所となっていた。

 石造りの城壁には見張り役が立っている。

 風の合間、視界が少し開けると、荒野に人が立っている。


 「異教徒どもよ!我こそは勇者なり!教国の命により、貴様らを撃ちほろぼーすっ!」

 そう言うと男は、足元にから楕円形の球のような物を拾い上げる。それを低い唸り声とともに城壁の見張り目がけて投擲した。

 視界も悪く、声も届かぬ距離。楕円形の球は砂塵をかっ裂いて鋭い弧を描くと迷いなく見張りの顔面に命中した。叫び声が上がる。

 「必中、我が授かりし神のギフト」

 男は歯を剥き出しにして不敵な笑みを浮かべる。

 「ぶっ壊してやるよー!」



 相次ぐ砲弾のような連投に襲われ、城内が揺れて砂埃が落ちる。

 「皆武器を持て!」

 大人たちは慌ただしく駆けていく。

 怯え、身を寄せ合う女子供の中で、少女は祈る。

 「天使さま、教王さま、みなをお救いください、お助けください」

 身寄りなくこの古城に流れ着いた者たちのか弱い祈り声は、激突し岩をも砕く投擲の音にゆうにかき消される。



 「あらゆる攻撃が必ず的中する必中の勇者との触込みですが、あの投擲の威力は魔具によるものでしょうか。いづれにしろ、もし本物の転生者であれば目に見えている能力だけでは計れないでしょう」

 「ん、了解」

 砂が目に入らないように目深にマスクを巻く。トバリが扉を開くと強風が吹き込んで来る。船体が揺れる。

 「ほんとにアルクさん一人で行くんですか!?」

 風の音にかき消されないようにシャッツが耳元で叫ぶ。

 「近づかない触らない全員で戦わない」

 みんなで考えた転生者との戦い方三原則を、あらためて暗唱して聞かせる。

 「でも、」

 ウルクから大量の瘴気を噴出し、全身を包む。

 「直上につきます」

 「了解」

 トバリの合図と同時に飛行船から飛び降りる。

 凄い風だ。体が大きく揺さぶられるのを、瘴気の噴出で調整する。

 真下に投擲男を捉える。行こうか。降下速度を調整しつつ、ウルクを瘴気で包んで棒状に形成する。

 「おらおらオラぁ!どうしたどうしたぁ異教徒共がぁーぁがっ」

 「うるさい」

 瘴気で包み上げた黒い棒を落下の勢いのまま男に叩き込む。鈍い音がして投擲男はその場に倒れて気を失った。普通に当たったな。ウルクにも僕自身にも、今のところ異常はない。

 上空の飛行船を見上げる。なんか大丈夫そうと言うことを伝えるために手を挙げたと同時に、背後で鈍い鉄の音がする。騎士だ。転生者を護衛していたのだろう。剣に何か当たって痺れたのか苦々しい顔をしながら上を見上げている。狙撃。彼女がフォローしてくれたのか。


 「不注意っすよ、アルクさん」

 強風に桃色の髪を煽られながらも上体と銃身を乗り出し、ヴァネッサ・ロッサは的確に銃に次弾を込める。ディケでの一件の後、作戦に協力してくれた人たちを各コロニーへ送り届ける仕事があった。彼女はそこからなんだかんだづるづると船に乗り続けているのだった。

 「護衛の騎士が十、囲まれてます!」

 ヴァネッサの報告にトバリは舵を切り、船体を曳く飛竜サンドドラゴンが身を捩りながら下降する。

 「風に笑い、雨に喜び、日照りに肌を焼け。サージ」

 ヴァネッサの詠唱に、銃に装填された弾が一瞬輝くと、砂塵の合間を突いて狙撃する。

 弾丸はアルクに迫る騎士の鎧を大きく揺らす。

 「ふぃー。いい感じっすね」


 囲まれた。騎士が、十人くらいか。ヴァネッサの狙撃により一人倒れた。頭部の甲冑が大きく歪んで外れずにジタバタしている。魔具の弾を込めた銃。魔力によって魔弾を形成して打ち出すよりも効果的な場面があるとの事だが、上位の騎士が直接身につけて魔力を流す魔具の方が魔術的には優位のようだ。

 そう、魔術的優位。

 周囲の騎士達の騎士剣や甲冑が多様な魔術で輝きを帯びる。がっかりは通り越したが、やはりどこかで魔術を使えない劣等感のようなものは持ち続けているようだ。少しため息がでるもの。

 騎士の一人が強力な突きを放ってくる。うわぁ、その距離でもう踏み込んでここまで届くのか。身を捩り、地面に膝を突きながらも展開した瘴気で騎士剣との間に緩衝を作りながら身を沿わせ懐に入り込むとウルクを棒から騎士剣の長さに調整し、鎧抜きの突き“(とつ)”を正中線上に押し込む。生身なら貫いて風穴が空くような一撃も、防具の魔術があれば大丈夫。ほら、高そうな甲冑には傷ひとつなく倒れ込む。

 みんなすごいな。次々に放たれる魔術は強力に輝いている。ひとつだって僕に使えるものはない。輝きを纏う騎士達を、現在進行形で煤汚れているボロを纏った僕が倒してゆく様は、騎士物語を読む子供が見たら泣いてしまうだろう。実際、この間の戦いで僕が聖騎士に最後の一撃を放った後、エミスはちょっと嫌そうな顔をしてた。はぁ…。騎士剣の型を崩さず綺麗にまっとうし、上級の魔術を使いこなす騎士たちを、メチャクチャな振る舞いで倒しても、なんだかズルをしたようなモヤモヤが残る。でも、どんな手を使っても負けるわけにはいかないからさ。

 伸びた勇者。

 ボロ着の僕の周りに、倒れる騎士達。

 飛行船が近くに着地する。

 空に飛ぶ鳥は、不吉を象徴するように陽の光を遮る。

 黒の団が来たぞー。はぁ…、ワルが様になってきたかも。



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