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士獅十六国物語 〜“黒”の転生者狩り〜  作者: ホラナカチリ
⑤【重なる声と灯火】

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⑤ー14まじり

14 まじり


 「トリトン殿!」

 「おや?君は確か、聖騎士の…」

 「リヒト・ルーチェであります」

 第二コロニーにて、騎士団との今後の事業計画の打ち合わせにやってきていたリヒトは、トリトンの姿を見つけて話しかけた。

 「そうか、リヒト君。どうしてこんな所へ?」

 リヒトは転生者の護衛任務についてトリトンに説明する。リヒトにとってトリトンは人界四天王の英雄であり、騎士の先輩にあたる。直接指導を受けたこともあった。

 「トリトン殿は聖騎士団への招集があったと聞きますが。任務中ですか?」

 「まあそんなところかな」

 「そうですか…」

 リヒトは少し俯いて考える。

 トリトンはその様子をじっくりと観察している。

 「今回の転生者護衛の任務、私には手に負えなくなってきているのです。彼女はもはやコントロール不能だ。あれは最悪、魔王すら復活させかねない危険性がある。トリトン殿、お力をお貸し頂けないでしょうか。出来るなら今回の任務、貴方にもご参加いただきたいのです」



 「と言うわけで、転生者は再開発の為に、第一から順に人を集めて第五へ向かうそうだ。最短でも五日かかる」

 「五日か…。なんとか間に合わせましょう」

 突如現れたトリトン・ハスタの情報提供により、計画の日取りが固まってくる。

 「ちょっと待ってくれ」

 イエンが発言する。

 「彼は、確かに人界の英雄に間違いないが、今回の作戦に関して信用できるのか?今の話からしても、彼はあちら側の人間だろう」

 ごもっともな意見だ。率直に聞いてみよう。

 「どうなんですか?」

 「なんだい。疑うのかい?」

 「いや、なんとなく受け入れちゃってました。作戦前に現れるの初めてですし」

 「だろう?間に合ったんだぜ今回は。僕ももちろん参加するさ」

 トリトンがイエンにウインクする。

 「それがどちらの側なのかという話だ」

 「なんだいなんだい。僕の方が黒の団の先輩なんだぞ」

 「ぼくは認めてないぞー」

 「おれも怪しいと思うぞ!」

 双子も疑いの目を向ける。

 「しかし、トリトン氏にご参加頂けるのであれば、作戦の幅が広がるのは確かです」

 トバリがまとめにかかる。僕もそれで良いと思う。元々無茶な作戦なんだ。一人でも人手は欲しい。イエンは僕を見る。僕は口をすぼめつつも軽く二、三度頷いた。まあ良しとしましょう。イエンは僕の顔を立ててくれたのか、疑いの目をトリトンに向けたまま着席してくれた。根は素直でいい人なのかな。

 「それでは準備にかかりましょう」



 約一週間後。

 転生者の開発チームに同行しているトリトンからの情報で、今日、転生者と聖騎士を含めた護衛の騎士。そして第一から第四までで集められた労働者達が、第五コロニーへ入る事は確認出来ている。

 「無茶な作戦だ。よくあんなことを思い付くものだ」

 遠くに微かに見える第五コロニーを眺めていると、モンスが横に立って話しかけてくる。

 「第一で聞いたんですよ。“仮面祭り”の事。それがヒントになりました」

 「そうか」

 「よく考えてみたら、祭りが行われてたのって、ベルガモットのお父さんがいた頃ですよね。この土地で顔を隠すって、人も魔族も一緒になって楽しめる工夫かなって」

 「どうかな。私は城下ことは詳しく知らんよ。そんな事を考えるとはな。やはりお前は変わっている。…すまんな、前線に参加出来ず」

 「いいんですよ。第六の人を守るのも作戦の重要な任務ですから」

 前線に出ようとするベルガモットを何とか理由をつけて第六に留めた。モンスはその護衛があるので、第六にいる。

 「まあ、僕らがしくじった時は、後を頼みます」

 「笑えないな。本当に」

 第五の開発も軌道に乗り、全てのコロニーが転生者の統治下になった時、第六に隠れ住む魔族達はどうなるのだろうか。人界にとっての最果ては、魔界にとってもそうなんじゃないだろうか。だとしたら、世界最後の逃げ場に自分たちの暮らしを求めた人たちは、どこへ行ったらいいんだ。彼女の求める自由貿易による自由な国づくりは、その国に暮らす人々の自由を尊重するのだろうか。…いけない、また戦う理由を考えてる。もう迷うな。迷うだけ人が死ぬぞ。冷静に、淡々と、自分の役目を果たせ。そうすると決めたんじゃないか。その結果は一生背負って生きていくんだ。

 「最後の稽古をつけてくれますか?」

 「構わんが、休まなくて良いのか」

 「軽く一戦だけ。そしたら夕方まで寝ます」

 「わかった」

 僕はモンスと向き合って構えた。



 「リヒト様。勇者様のお部屋の準備が整いました」

 「わかった。あとは労働者達に宿舎を割り当ててくれ。作業は明日の朝からだ」

 「承知いたしました」

 ジリン隊長は今回もまた理由をつけて転生者護衛の任につかなかった。気に入らない男だ。だいたい何で聖騎士たる自分が、こんな辺境の雑務に当たらなければならないのか。近頃は完全にホマレの使いっ走りになっている。それでいて転生の勇者を導くという本来の任務の責任は重い。

 「はぁ…」

 「浮かない顔じゃないか」

 「トリトン殿」

 「少し話そうか」

 トリトンに連れられて、リヒトは街のはずれ、コロニーの縁までやって来る。

 広がる地平と遠くの空は暮れかかっている。

 「君はいつも律儀に甲冑を着込んで」

 リヒトは移動中もずっと、聖騎士の紋様のマントと、その内側は甲冑という出立ちだった。

 「聖騎士として当然の事です。他の騎士の手本とならなくては」

 「ふむ、良い心がけだ。ところで僕は聖騎士の召集は断ることにした」

 「な、何を…そんな突然に。何故です」

 「そういう事実さ。伝えておこうと思ってね。それがフェアってやつさ。まあ、僕なりのね。悪いね」

 トリトンはリヒトと向き合うと、その両方を恭しく押した。すでにリヒトの背後には三本槍“クロウ”の魔術が展開されている。

 「なっ



 「…にを」

 一瞬でリヒトは原野に佇む。

 「一体これは…」

 周囲の様子から、ここがコロニーの外であることがわかる。近くにはひとつの山。山頂はコロニーになっているようだが、どこか。

 すると遠くから、魔獣が駆けてくる。魔獣流の始まり。特に瞬足の一体がもうすぐ近くまで来ている。


 「作戦開始だね」

 第六コロニー外壁、山の中腹。

 僕らは眼下に聖騎士の出現を確認した。

 第六の魔族達に用意してもらった騎士剣数本を腰に挿すエミス。すでに両手の指の間に計八本の杖を挟んで構えるフェリオ。そして僕は深く呼吸をするようにゆっくりと全身に瘴気を這わせる。

 足の速い一匹目の魔獣が聖騎士リヒトに襲いかかる。それをまるで埃でも払うかのように騎士剣で軽く両断するリヒト。こちらに気がついて、まっすぐ向かってくる。

 「あいつ、強いな!」

 「やばめー」

 「初めから全力でいこう。一瞬でも気を抜いたらまずいよ。何せ世界最強の騎士団のひとりだからね」

 自分で言っていて、現実感に欠けるな。あの大型の魔獣一匹にだって僕ら三人がかりだ。少し前まで一国の騎士の端くれだった僕が、聖騎士と戦うことになるとは。これは本当に、本気でかからないと死ぬ。そもそもかなうはずが無いんだ。それでもなぜか今、絶望はない。後ろに守るものがあるからか。いや、少し違うな。だって、

 「まずおれが一人でやる!」

 「ダメだよー、連携とってこーねー」

 「なんか緊張感に欠けるんだよね、ふたりといるとさ」

 何だかこの三人なら、大丈夫な気がする。

 エミスの剣が炎を纏い、フェリオが詠唱をはじめる。

 「…いくよ」

 「おう!」

 「りょー」

 

 「来たわ、聖騎士よ」

 「姫様、もう少しお下がりください」

 第六コロニーの縁から身を乗り出して下の様子を覗こうとするベルガモットを、モンスが制止する。前線に出ようとするベルガモットに、「重要な役目」と言ってコロニー内待機を割り振ってもらえたことに一旦は安堵したが、彼女は興奮して今にも飛び出していきそうだった。無理もない。魔王軍幹部である父が倒されてから、悲しむ間もなく城から逃げ、苦渋を飲んで隠れ潜んでいたのだ。今ようやく状況が動き出した。

 「あまり身を乗り出すと、こちらの存在を気取られます。リモネン、第五に合図を」

 「送信しました。あちらも作戦開始との事です」

 (「作戦か…」)

 正直、策を弄してどうにかなる相手ではない。目下迫り来る聖騎士に、自分より弱いあの三人が勝てるとは思えずにいる。彼らが殺された後、いよいよ第六の魔族達は窮地に立たされることになる。この作戦で時が早まった。いずれ起こったであろう事が、今日これから始まろうとしている。



 第五コロニー、労働者宿舎。

 各コロニーから集められた作業員達は、これから住み込みで働くことになるこの場所で、各々割り振られた家に自分のスペースを確保する。自分の鞄から衣服や日用品を取り出す者の合間を縫うように、示し合わせるように視線の合図が流れる。まばらに紛れ込んだ潜入者達の荷物には、共通してあるものが入っていた。

 ウバはカバンの大部分を占めるそれを恭しく持ち上げると、満面の企み顔を覆い隠すように、頭からスッポリと被った。

 「うわっ、何だオメェ」

 「さあ、始めようか…」

 突如集団の中に現れた不気味な仮面を被ったもの達。彼らはざわつく他の労働者達を速やかに拘束していく。

 「仮面祭りが通るぜ」


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