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士獅十六国物語 〜“黒”の転生者狩り〜  作者: ホラナカチリ
⑤【重なる声と灯火】

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⑤ー13多数決

13 多数決


 (「おいおめぇさん、起きねぇとまじに死んじまうぞ」)

 「わかっ…てる…」

 踏み落とされるモンスの脚を、体を転がしてかわす。殴り蹴られた身体中が痛んで身を起こすこともままならない。

 「おぉーい!」

 エミスのパンチはまたしても弾かれ、モンスの体当たりで吹き飛ばされる。ほんと、すごい体力だ。

 「エミスっ、僕はいいから剣を取ってこい!」

 距離をとったフェリオとシャッツからの援護がない。おそらく別の敵と交戦中なんだろう。僕の攻撃はこの大男モンスには通用しない。瘴気でどれだけ分厚く体を守っても、彼の攻撃は確実に僕にダメージを与え続けている。可能性があるとすれば、エミスがちゃんとした騎士剣で斬撃を与えることだ。

 「すぐ戻る!」

 エミスは通りへ走って行く。

 「ここへ来た目的は他の仲間に聞くとして…」

 モンスが近づいて来る。

 「騎士は死ね」

 「ウルフ…。この前のあれをやる。全身を瘴気に任せるやつ。だから制御するのに協力してほしい…」

 (「ダメだ。犬っころに成り下がるのはごめんだと言ったはずだぜ」)

 「やらなきゃ殺される」

 (「勝手に死に晒せ。魔性に心を奪われたら、死んだも同じ」)

 「…わからずやの石頭」

 やれることをやるしかない。瘴気が効かないなら加速のみに使う。身体に巻いた瘴気の黒布を解除する。あとは根性で立ち上がって、刺し違えるだけだな。

 ぼんやりとした視界のうちにモンスを見つけて、剣を向ける。

 一歩、二歩。

近づいてくるだけで威圧感がある。

 すっぽりと彼の影に収まり、双眼に見下される。

 硬く握られた右の拳がど真ん中に来る。

 同時に、ウルクの瘴気を噴出してこちらも刺しにいく。と見せかけてその勢いで身を捩りモンスの突きをかわす。僕の手を離れたウルクは、モンスの後方へそのまま飛んでいった。

 「魔具を捨てただと!?」

 僕の斬撃じゃモンスには届かなかったんだ。どうせやられるなら剣はエミスに託す。いまの僕にできること。魔術剣術も駄目。あと残るは…。

 捩れた体の両足を踏ん張る。トバリのレッスンを思い出せ。体術。それとあのモンスの動き。

 「ぶん殴ってやる」

 渾身の力を込めて、モンスの顎に拳を叩き込む。武器を捨てたことに動揺したのか、モンスの体勢は一瞬乱れたが、僕の突きではやはり到底彼をノックアウトするには及ばなかったようだ。

 「人間。貴様、面白い事をする。騎士の誇りたる剣を手放すとはな」

 まだだ。後方にエミスが走って来るのが見えた。僕は動ける限り、連続で攻撃を叩き込め!

 「誇りなら、ここにある」

 「モンス!やめて。彼らは拘束して連れてきてちょうだい」

 上から降ってきた声で、モンスの動きは止まる。

 「姫様」

 見上げると、建物の側面に女性が立っていた。垂直に。

 「私はリナリル達の方へ行ってくる。あなたは先に戻っておいて」

 「承知いたしました」

 モンスはその場にかしづく。

 「剣借りてきたぞ!あれ、こんなとこにアルの剣が。使っていいのか!?」

 「いやいい。もう終わったんだ。大丈夫」

 炎を纏った手でウルクを拾い上げようとするエミスを制そうと、近づこうとするが、ふらつく。

 倒れ込む僕を、太腕が掴み上げる。

 「行くぞ小僧ども」

 

 膠着した現場。

 シーラの周囲には使用済みの魔力カートリッジが散乱し、空になった斧一本でリナロールに立ち向かっている。イエンは全身の引っ掻き傷から血を流しつつも未だ自身の全力の魔術を使うタイミングを見計らっていた。

飛行船に、ベルガモットが舞い降りる。

 「戦闘をやめてください」

 船体正面の窓越しに、ベルガモットとトバリの眼がぶつかる。正体不明の相手を前に、トバリは黒壁の魔術で防御姿勢を取る。

 「話し合いましょう。私たちはそうすべきです。下でみなさんのお仲間もお待ちですし、かなりお怪我もなさっ…」

 その瞬間、剣がベルガモットの頭部をかすめる。トバリが魔術でもなんでもなく力任せにぶん投げたのだ。

 「あ、いえ…、その、皆さんご無事ですから。まずは話し合いをしましょ、ね?」

 「…いいでしょう。私どもの仲間の身に何かあれば、戦闘開始です」

 「は、はい。ではいらっしゃってください。飛竜がいれば十分船は隠すことが出来るでしょう?」

 トバリは振り返ってヨルを見る。

 「みんなで行こう」

 ヨルの言葉に船医も立ち上がる。

 「…しかし」

 「飛竜はその存在自体に隠匿の効果が備わっているんだろう。いいじゃないか。命あっての物種さ」

 船医は気軽に言ってとっとと船を降りて行くが、問題はそこではない。隠さなければならないのは飛竜や船ではなく、ヨルの存在なのだ。相手はそのことにもう気づいているかも知れない。悩むトバリの手をヨルが引く。

 「アルク達のとこ、いこ」

 「…ええ」

 

 「リナリル、リナロールはここで船を見守っておいて」

 「えー、なんでぇ?」

 「いやです姫様」

 「こっら二人とも、いうこと聞きなっ」

 電信の魔術でリモネンの声が飛んでくる。

 「「はーい」」

 「よろしく頼むわね」

 ベルガモットはコロニーへ向かいながらリモネンとの通信を続ける。

 「あの船、中に何か特別なものがあるようには思えなかったけど…」

 「男が一人残ってたようですが、他に生体反応はありませんね。何を隠したかったんですかね」

 「嫌な感じはない。むしろ何か懐かしような…。引き続き探って頂戴」

 「了解」


 モンスは、エミスが剣を拝借した店への支払いを終えると、僕を肩に担いだまま、ロコニーの下層へと降っていく。彼の背中側に頭のある僕は、遠くの方で、同じように囚われ、運ばれるフェリオとシャッツを見つけた。無事なようだ。よかった。

 「あれ…。どうやってやるんだ」

 「…。あれとは?」

 モンスは間を置いて答える。

 「あの体術。僕は瘴気で防いだのに、それを貫いてあんたの攻撃は届いた」

 「ふん。騎士が魔族に教えを乞うのか?」

 「ああそうだよ」

 「自ら魔具を手放したな。貴様に誇りはないのか。意思なきものがどんな術を身に付けようが、無駄なことよ」

 「…僕のちっぽけなこだわりで、チャンスを逃したくない。僕はみんなを守れるくらい強くならなくちゃいけないんだ。そのためならなんだってする」

 「…。」

 モンスは前を歩くエミスを見た。

 「(とつ)、と呼ばれる技術。あれは体術ではなく体技だ。何もお前の魔術を貫通したわけじゃない。私が拳に込めた魔術は防がれていた。ただその衝撃がお前の体まで届くのだ」

 「魔術じゃないのか…」

 「残念だったな。お前に教えたところで剣を握っていては使えん」

 「いや、教えてくれ」

 「…?」

 「腕は二本ある」

 「何を…」

 (「…!」)



 互いにその正体については誤魔化したまま、議題は転生者の事へ移っていった。僕らが転生者について探っていると聞き、ベルガモット達は顔を見合わせた。そして、部屋へある人物を招き入れた。サムという青年は、第五コロニーの生き残りだと言う。それは僕らの見てきた第五コロニーの様子と辻褄が合った。そして、僕らの見てきたことを伝えると、サムはその場に力無く泣き崩れた。

 「僕たちは転生者を倒す…」

 「無理よ。ただでさえ強力なギフトを持っているのに、聖騎士が彼女を護衛している」

 「ベルガモットさん。僕らに迷っている時間はないんです。僕はもう、理由を探すのはやめました。全て背負って、進みます」

 「貴方に…」

 忠告してくれようとするベルガモットに対して、僕は明確な意思と態度をとる。転生者を狩る。それが僕のするべき事だ。彼らの死を背負ってでも、やらなくちゃならない。

 「アール・グレイル伯爵…」

 「姫様っ!いけません!」

 発言を遮ろうとするモンスに、ベルガモットはそれを制するように手で合図を送る。

 「かつてこの地を統治した魔王軍幹部の名です。六つのコロニーとは別に、かつて彼が暮らしていた城があります。転生者はそこを拠点としているのです」

 ベルガモットは頭を伏せ、長考すると、顔を上げた。その瞳は涙に潤んでいる。

 「我が名はベルガモット・グレイル。アール・グレイルは私の父です。先の戦いで父は命を落とし、魔王は没しました。それは仕方のないこと…。ただ、城を、あの場所をコロニーで暮らす人々への蛮行の拠点とされる事は許せない」

 「なら行こう」

 やたらと身体が痛むが、トバリの補助を受けて立ち上がる。

 「僕たちは黒の団。転生者狩りだ」



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