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士獅十六国物語 〜“黒”の転生者狩り〜  作者: ホラナカチリ
⑤【重なる声と灯火】

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⑤ー12ハッピーズ

12 ハッピーズ


 「ここは人多いんだね」

 雑踏の中を進んでいく。ウバのアジトで見たディケの駅図、その最後の一つ第六コロニーまでやって来た。これでディケで人が住むコロニーは一周したことになる。

 「第五はもぬけの殻でしたからね。事情を聞き込みしないと」

 道すがらシャッツは情報の聞き込みが出来そうな人物を選定している。そう、僕らがここへくる前に立ち寄った第五コロニーには人が一人もいなかった。突然住民だけが居なくなったような。不気味だった。

 コロニーは山頂の窪みに人が住まうすり鉢状の形をしているが、この第六コロニーはその底がどこまでも続いていて深い作りになっている。建造物や露店を横目に、延々と坂道を下っていく。下れば下るほど影になって暗く感じる。この先にまだ続いている底の方は、暗がりでよく見えない。

 「気づいたかいー?」

 フェリオが杖で頭をなぞり、髪色の偽装を解除する。

 「ちょっと」

 周りを見るが、フェリオの黒髪を見ても誰も気にする様子はない。

 「結構魔族がいるよー」

 路端でボロ布を頭から纏うもの。店舗の奥から通りを伺う者。ネグロのような明らかな人魔共生と言った感じではないが、この街には確かに魔族が暮らしているようだ。

 「んー?あれなんだー?」

 フェリオが小走りで行ってしまう。人通りの多い区画だ。見失わないようにみんなで追いかける。先にどんどん行こうとするエミスをシーラがよく見ていてくれて、イエンが引き戻してくれる。

 「どうしたの?」

 フェリオは露天と露天の合間、道の端で座り込んでいる男性を興味深そうにまじまじと眺めていた。

 「それどうなってるんだい?よく見せてよ」

 雑踏が苦手で人見知りのフェリオが初対面のおじさんに話しかけるなんて珍しい。男性は迷惑そうに肩にかけた布を自分に巻き直して身をひいた。

 「それは人が忌み嫌う技術。魔族には不要のもの」

 背後を取られた。振り返ると僕ら全員が彼の影の内に入るほどの大男が立っている。

 「きみもー、かな?魔獣の一部を体にくっつけてる」

 フェリオの問いに、男は極太の両足を軽く開いて仁王立ちで立ちはだかる。そして服を内側からパンパンに張っている巨体の片腕を、ゆっくりと天に掲げる。

 「あー。まずった」

 その時、僕らは気がつかなかったが、フェリオが上空にはなっていた監視用の魔術鳥が何者かに撃ち落とされた。

 「船の方も狙われてるー」

 感じた敵意にエミスとイエンが男に斬りかかる。が、男は両の腕一本ずつで二人を跳ね飛ばす。いきなり人が吹っ飛んできた通りの方で悲鳴があがる。

 ウルクの疾走で背後に回ろうとするが、大男の横で腕を掴まれる。ものすごい握力で左腕が軋む。

 「船が見つかってるよー」

 フェリオはなんらかの望遠の魔術で状況把握に努めてくれている。

 「…っ!イエンっ!シーラ!二人は船へ!」

 「はい!」

 「…。」

 シーラとイエンが上へ向かって走りだす。飛行船にはトバリとヨル、ゼン、船医がいる。トバリがいれば大丈夫と思うが、その隠蔽の魔術が暴かれたということか。

 エミスの放った一閃をかわす為、男は僕の腕を離した。痛ったい。手先まで痺れた。

 「動きを見きられた。デカいのに速いと思う…って、エミス、その剣どうしたの?」

 「そこの店から借りた」

 エミスが剣に炎の魔術を纏わす。すでに鞘の一部が耐えきれずに溶けだしている。

 「弁償じゃん」

 「アイツに払わせよう」

 エミスが一気に加速して熱剣で斬りかかる。

 ゴツンと鈍い音がして、大男の左腕が斬撃を受け止めた。エミスの剣は衝撃に耐えきれず、刃先から炎が溢れ出す。

 「フェリオ!剣!うっ!!」

 フェリオに剣の錬成を依頼するエミスの腹に、大男の右腕の突きが食い込む。

 「無理言うよなーって、あれ?」

 背後から、先ほどまで座り込んでいた男がフェリオの体を拘束する。

 「モンス様っ、どうなさいますか!?」

 「お前はいい。離れていろ、行け!」

 その言葉に男はフェリオを離して走り去っていく。

 持ち上げられ、すぐに下されたフェリオは、所体なさげにその場にちょこんと立ち尽くした。

 「なんなのさー」

 「いいからぼくらは距離をとりましょう」

 そのままシャッツに手を取られ、運ばれて行く。

 「アル、剣貸してくれ、俺がやる」

 焦げて煙を上げる剣を手に、エミスが提案してくる。

 「やだよ、壊すじゃん」

 騒ぎに気づいて道に人が集まり始めている。目隠しも兼ねて瘴気を辺りに撒く。

 瘴気の量も、質も悪くない。扱いにも慣れてきた。両腕に纏いながら、狙いを定める。先ほどより初速を速く。

 「疾れ、ウルク」

 (「ダメだなこいつぁ」)

 最速の突きは大男の左手に阻まれる。近くで見ると左腕だけ肌の色や質感が違う。魔獣のようだ。

 なら背後へ回る。方向転換し、身を捩った直後。

 「とーっつ!」

 大男の体当たり?踏み込んで肩で突っ込んできた。咄嗟に瘴気で身を守るが、衝撃で意識が飛び掛かる。

 「なんだ…、いっつ…」

 確かに瘴気で体を包んで防いだはずが、打撃は直撃し、衝撃をもろにくらった。身体を見ると、黒い布の瘴気は確かに自分の体に巻かれている。それなのに、鈍く痛んで吐き気がする。

 「奇妙な術を使うな」

 大男は背後からさらに攻撃を仕掛けるエミスを片腕で弾き飛ばしながら向かってくる。

 「俺わーっ!騎士だ!」

 遠くでエミスが声を上げる。

 「お前は魔族だろ。魔族の騎士などいるものか。…しかし」

 一部崩れる背後の壁に体重を預けながら、立ち上がって剣を構える。

 「貴様ぁ、貴様は騎士か?」

 大男の目の色が明らかに変わる。巨体の内部を魔術が駆け巡る。不味い状況か。



 「不味い状況です」

 トバリがめずらしく船内を早足で移動する。

 船医に勉強を教わっていたヨルが不思議そうな顔でそれを心配する。

 「こちらの存在に気づかれたようですね」

 窓から外を見るゼンが遠くからこちらを見る人影に気づく。

 「ええ。さらに船内の様子まで探られているようです。私は隠蔽に集中しますので…」

 手を合わせ、魔術詠唱にかかるトバリの目配せに、それぞれ了解し、ゼンは頷き、船医は軽く手を挙げた。

 最悪船内へ侵入されることも想定し、ゼンが慌ただしく準備にかかる。


 「おっ、みっけジャーン。やっぱいたでしょ」

 「マジね。船だよ?」

 同じ装束に身を包んだ魔族の少女ふたりは、その手に光る糸のような魔術を練る。

 「誰が乗ってきたのかな。飛竜に船を引かせるなんてやばいよね」

 「ねー。リモーっ?怪しいの見つけたけど、どうする?」

 ふたり以外の姿はないが、第三の人物の声だけが聞こえてくる。

 「リナリル、リナロール。コロニーの内部でモンスが交戦中だ。おそらくその船に乗ってきた奴らだろう。第五のこともある。モンスがすぐに終わらせてそっちへ応援に行くから、それまでは待機よ」

 「えー?うちらが見つけたのにぃ?」

 「そうだよぉ。だいじょうぶよぉ」

 「いいから待機っ、近づかないのよ」

 「電波悪…」

 「あっ」

 「どうしたの?」

 「リナリル行っちゃいましたー」

 「はぁ?リナロールっ、止めなさい」

 「はぁい」

 ふたりのうち一人が猛スピードで飛行船へ迫る。体躯からは想像のつかない人間離れした動きだった。

 「魔族か…」

 遠目にその動きを見たイエンはそう呟くと、持っていた騎士剣を遠投した。

 弧を描き、リナリルの進行方向直前に落ちる。

 「やめてください、そういうの」

 シーラは腰から双斧を出しながら言う。

 「そう言うのとは?」

 「なんとなく、感じの悪い言い方でしたよ」

 「…そうか」

 イエンは仏頂面をしかめると、自分の剣のあるリナリルの元へ駆け出す。

 「わぁやば」

 リナロールは手に光る魔術を編み物のように引き伸ばしながらシーラに近づく。

 「あの、私たちに敵意はありません。話を聞いてください」

 「えーっ」

 リナロールが手元の光る糸を引くと、シーラの足元の地面から鞭のようにしなる光の魔術が現れて、襲いかかる。シーラはそれを熱を帯びた自身の斧で切り落とす。

 「やばくない?アチアチじゃん」

 「これは…、正当防衛です」

 「お姉さん意外と怖いね」


 「船の中で宝探ししたいんよねー」

 「…。」

 イエンは長距離の全力疾走によって汗でぐっしょりと濡れたシャツをおもむろに脱いだ。

 「えー、こわっ」

 「それは俺たちの船だ。勝手に手を触れないでもらいたい」

 「えー、ウケる。…でももう触っちった」

 船体を巨大な爪が引っ掻いたような音がして、傷ができる。サンドドラゴンと飛行船をつなぐ綱も一部がちぎれた。

 「あれー、逃げないなぁ。あと残りは自分で切れるでしょ?なんでだろ」

 イエンが踏み込む。刹那に斬り込んだ剣身は、リナリルに届く前に弾かれる。

 「…。」

 イエンは後方に身を引き、体制を整え直す。

 「魔族の魔術は苦手だ」

 「奇遇だね、うちも騎士嫌い」



 「うーん。見えませんね。飛行船の中で、誰かが何かを隠しているんですが…」

 第六コロニー最深部で電信の声の主、リモネンは魔術で飛行船の中を探る。

 「飛竜に飛ぶ船。それよりももっと隠したい物ってなんでしょう」

 「勇者の仲間ではないようね。騎士と、魔族…。不思議な感じがする」

 「このままみんなに捕まえてもらいます?」

 「そうね。私も行くわ」

 「行けません姫様っ!」

 「何だか、彼らには会うべきだと感じるの」

 「それは…」

 「ううん。会わなきゃ行けない。どちらにしても、今行動を起こさなきゃ」

 姫と呼ばれ、従者たちに現場に向かうことを反対される女性。彼女が動くと周囲に光の粒のようなものが舞った。

 「行くわ」

 ベルガモットは精霊たちに導かれるようにアルクたちの元へ向かった。


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