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士獅十六国物語 〜“黒”の転生者狩り〜  作者: ホラナカチリ
⑤【重なる声と灯火】

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⑤ー11逆証

11 逆証


 一頭の馬が、ディケの荒野を駆ける。早馬は、せめてもの思いを胸に抱いた青年を乗せ、ひたすらに。夕陽に寒色のまじり、閉じゆく原野をひたはしる。


 その日の朝。

 第五コロニーの男達は、各々武器を携えて集まっていた。

 「納品の確認で、今日来る。望遠で確認した、間違いない」

 「やるのか」

 彼らの表情には迷いがあった。

 「…このままでは、俺たちの暮らしが奪われちまう。たとえ今より豊かになったとしてもだ。せめて対等に話ができるまでには、折り合いとつけなくちゃな」

 「どうやって…」

 「こちらにも力があることが見せられればいい。武装した全員で取り囲んで、」

 「それじゃ聖騎士様に殺されるぞ」

 「狙撃…、だが、あれだもんな」

 これより一週間ほど前に一人の仲間が、転生の勇者を銃で撃った。言い争いの果てである。その結果、撃った仲間は銃弾により死亡し、勇者には傷ひとつなかった。怪我や病気を治せることは、強制労働の際に見て知っていたが、彼女自身への攻撃が無効であることをこの時初めて知ったのだった。

 「これだけの数だ。俺たち全員で反対の意思を示せば、流石に相手も考え直すだろう。数十発の弾丸を同時に受けて防いだり、例の魔術で打ち返したりするのにも、必ず限界はあるはずだ」

 「だがもし全員で勇者様を撃ったとして、それからどうなることか…。教会への反乱ってことになりはしないか」

 「そんときゃ第六と、」

 「おい!滅多なことは口に出すな。それにこれは俺たちの問題だ」

 「だが、保険は必要だ。なぁおい、運び屋サムを見なかったか?」

 「あいつは…まだ寝てるのか」

 「いざという時はサムに一部始終を伝えてもらおう」

 「いざって…なぁ」

 「話し合いで解決すればそれで良し。まずは俺達の意地ってもんを、あのお嬢ちゃんにわからせてやろうじゃないか」

 「おうよ!」

 「そうだな」

 「やってやりますか」


 「無様ね」

 ホマレは集会所に散らばった死体を眺めて、そう言い捨てた。ギフト“反証”により、事実は逆転する。ほとんど話し合いの間もなく、結果的に一斉射を行った第五コロニーの男達は、銃殺された。労働力たる彼らについて、リヒトが「蘇らせないのか?」とういう意図のジェスチャーを送るが、ホマレは首を振る。反証の結果として死んだものに関して、彼女はもうそれ以上の干渉は行えないのだ。

 「労働という価値を与えてあげたのに、また元の惨めな生活に戻りたかったのかしら。いいえ、違うわね。欲が出たのよ。馬鹿な労働者が、ただ働いていれば良いものを、もっと都合のいい生活を望んだ。与えられたものの価値を越えて。本当に愚かよ」

 「きゃっー!」

 銃声を聞いてか、集会所の様子を伺いに来たものの悲鳴。

 「うっさい」

 叫び続ける者を睨み続けながら、ホマレは腰から小刀を抜くと自分の首に押し当てた。

 「逆証(ぎゃくじょう)

 刃がホマレの首をなぞると、叫んでいた目撃者は首から血を吹いて倒れた。

 長い沈黙の後で、リヒトが言葉を発する。

 「そんなこともできるんですね」

 「はあ」

 ホマレはため息を吐く。それが返事なのかも分からない。

 「ここはもういいわ」

 「それは…?」

 「第二よりだいぶ生産性も低いし。だったら一回空にして新しい労働力を連れてきたほうがいいわ」

 「今いる住民達は?」

 「あなた、その剣でなんとか出来ないの?」

 「それは…、騎士剣の使い方に反します、魔術的不都合と言ったらよいか」

 「そう、使えないわね。いいわ、わたしがなんとかする。後片付けはお願いね」

 「…はい」


 「今、集会所を出た…、あっ…。なんて事だ。またさっきと同じ。自分を切って、なのに目の前の人間が血を…。殺されてる、あ…。そんな…。次々やられて。殺し始めてるぞっ」

 遠くの見張り台から、望遠の魔術で一部始終の監視と援護を任されていた男が、始まった殺戮に声を震わす。動揺しながらも、狙撃銃の準備にかかる。そしてもう一人の青年に話し始める。

 「サム。最悪の事態だ。お前はもう行け。このことを伝えるんだ」

 「そんなこと言ったって、街にはまだたくさん人が残ってるんだぜ。みんなを逃すほうが先だろ。とりあえず魔獣用の警報を、」

 「ダメだっ。そんなことしてる時間はない。じきに陽が落ちる。いくらお前の馬が早くたってギリギリの時間だろ。身動きが取れなくなってからじゃ手遅れなんだ!いいか。俺たちは失敗したんだ。このことを外に伝えられるのはもうお前さんしかいない。頼むから行ってくれ」

 「おじさんは?」

 「やるだけやってみるさ。これだけ離れてれば、勇者の力だって及ばないかもしれない。なぁに、俺が早々に仕留めちまって、終わりましたってことになってもいいんんだ。とにかくお前は、ここまでのことを伝えるんだ。いいな?」

 「わかったよ」

 「わかったなら行けっ、走れ!」

 サムは荷物を背負うと見張り台を降りる。背後から銃声がして、最後に振り返って見たのは、叔父の狙撃銃の銃口から煙が出ているのと、撃ったはずの叔父の頭が弾け飛ぶ光景だった。


 魔獣流が始まった。

 黒く冷たい、瘴気の霧が眼下に広がり始め、地面を覆っていく。

 「走れっ…。頑張れっ、頑張ってくれっ!」

 (「全部。全部無駄になっちまう。俺がここで死んだら。みんなの死がっ」)

 青年の馬は、背中でその思いを感じ取っているのか、呼応するようにさらに脚に力を込める。



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