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士獅十六国物語 〜“黒”の転生者狩り〜  作者: ホラナカチリ
⑤【重なる声と灯火】

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⑤ー8魔獣流

8 魔獣流


 陽が落ちる。

 不毛の地に、影が満ちる。鈍重な瘴気、怪訝な唸り。一歩、また一歩、踏み荒らす。

 大地に広がる影を追うように、魔獣達が魔界からディケに放たれる。

 意志なき獣たちは、邪悪の化身となって、この果ての地に爪をたてる。

 際限なく増える。意味のない破壊活動で互いの身体はぶつかり合い、壊れ、混じり合う。

 魂が流転するのに対して、肉体は囚われる。まるで地獄。

 生存を許さぬ、ディケの夜に地獄が噴出する。


 「やっぱりこれじゃなぁ」

 第二コロニー外壁下部。唯一の生存可能領域となっている元火山口の外側に、人だかりが出来ている。作業服に身を包んだ彼らが目下見下ろしているのは、昨日から始まった「新規事業」の作業場。いや、作業場だった場所。この地の地層の奥底には、魔具制作に利用可能な鉱石が眠っているというのだ。しかしディケには夜間の魔獣流という圧倒的破壊活動があるので、今までその採掘など話にも上がらなかった。実際、昨日組まれた作業場は一晩で跡形もなくなっている。

 また一からやり直し、どころかこれでは延々と無駄な作業をやらされるだけだ。作業に駆り出されたもの達がざわつき始める。

 「大丈夫なんですか?いやですよぉ俺、住民の反乱に発展するなんてのは。ただでさえ肩身が狭いんすから」

 作業を監督する騎士の一人がぼやく。聖騎士から直接この任務を命じられていた。

 「ちょっとアンタ、シャキッとしなさいよ。ジリン隊長の名誉に関わるわよ」

 「そうだぞ、辺境でずいぶん頑張ったんだから、そろそろ内地で楽させて差し上げないと」

 「…まあ、勇者様のお手並み拝見といこう」

 ジリンは部下達のおふざけにも構わない。国際連合騎士団D(ディケ)作戦隊長ジリン。大層な肩書きだが、愚痴を言えてしまえるのは、それを聞く彼らの上長の人柄によるものだろう。優しいとか寛容というのとも違う。その柔軟な態度は歴戦を生き抜いてきたジリンが得た一つの光明であった。ただじっと作業場に向かう二つの人影、事の成り行きを観察している。

 昨晩の魔獣流でおこった砂埃と瘴気の滞留がまだ収まっていない。厄災の後のようだが、これが毎晩と続くのだ。大仰な土地だなと愚痴も溢さずに付き従う聖騎士、リヒト・ルーチェをよそに、転生の勇者ホマレは破壊し尽くされた作業場に向かう。この事業自体彼女が言い出した事だった。

 「帰るわよ」

 「…了解」

 どこまで近付くとか、どれだけの効果範囲だとか、そういった彼女の能力について探りを入れようとしていたリヒトの意表をつく形で振り返ったホマレが元来た道を帰り始める。作業場は昨日の作業終了時の進捗状況に戻っていた。

 「入口を覆う扉はどのくらいで出来るのかしら」

 「あとでよく言っておくよ。何せ彼らも勇者の力を見ないことにはね。これで作業にも身が入るさ」

 「そう」

 この現場に立ち会ったもの達は、彼女が確かにギフトを授かった勇者だとわかった。

 

 この数日後、採掘場を覆う扉が完成した。これによって作業場は魔獣流に耐え、朝のギフトによる現状修復も必要なくなる。作業効率も上がり人材確保の為、他のコロニーからも労働者を募った。

 

 しかし作業が進むと別の問題が発生する。

 坑内に充満する瘴気によって体調に支障をきたす作業員がでた。扉の完成後、しばらく姿を表さなかったホマレがやってくる頃には、臨時に設けられたテントいっぱいに、作業員が寝かされている状況だった。ただそれも、ホマレがただ触れるだけで、何事もなかったかのように回復し、瀕死の状態まで悪化していたものさえ、回復した。

 ほとんど不死身となった作業員達は、このゴールドラッシュに作業可能時間は延々と働いた。魔獣流の始まりを甘く見積って終了時刻ギリギリまで作業をし、外壁を登る途中で魔獣に喰われた者も、その一部から数日後に勇者の手で生き返った。夜間、扉の下の坑内で作業するものでたが、数日で体を壊し、数日後に治された。命の価値は希薄になり、ただ算出される鉱物の報酬が上乗せされた。


 それらを横で見ていたリヒトだけが、この人智を逸したギフトについて理解し始めていた。これは回復などという魔術理念に則したものではない。人でも物でも、ホマレの認識に基づいて元に戻す事ができる。元というのも曖昧で、彼女の認識する元であるからして、どこからどこまで戻せるかは不明だ。恐ろしいのは、「元」の状態さえ知っていれば、たとえ死んでいても、欠損していても「元」に戻してしまえる。つまり観測されたものは彼女の手によって甦りが叶うし、彼女自身もまた不死であった。これでは彼女をどうこうしようという輩も手が出せまい。素直に(というよりも諦めがついて)彼女に自分の推測を伝えると、ホマレはじーっと城の天井(の修繕した窓)を見上げながら長考し、こめかみにあてた指を上へ挙げると天井の割れ窓を指差した。

 「なんで元に戻したんだい」

 「…。反証(はんしょう)よ、私のギフト。そう呼んで頂戴。元に戻すなんて、何だか貧弱じゃない」

 「反証?事象を否定しそれを実現する」

 「それだけじゃないみたいね。難しいのだけど…」

 「そうかい。まあ君にかないっこないことは分かったよ」

 「でも魔術は教えてね」

 そう言うと手元の魔術書を読むのに明かりを灯す。天井から吹き込んこんだ風に揺らぐので、リヒトは粛々と修繕作業へ向かった。




以降 既ニ存在シナイ事象

 「この地に住まうもの達は、皆元は流浪の民じゃった。しかしこの地に辿り着き、開拓民となった。この最果ての地を、自らの故郷とした者の末裔ぞ」

 「内地の人間に俺たちのクニのもんを渡せるかよ」

 「いや待て。お嬢さんの言う、国としての対等な取引っていう話については、乗る者もいるんだ。しかし魔具といやぁ、魔族との取引のことじゃねないのかって」

 「…裏でこそこそやってるマフィア連中とはなぁ」

 「ダメだよ。ここのものはここで生きる人達のもんさね。商売のために売り渡してしまうなんてぇ」

 「いんや、ディケが一つの国になるってんだ。めでてえ事じゃねか。魔王もいなくなり、俺たちも国を持つってんだからよ」

 「それが誰の国になるかって話だろうがよ」


 「じゃあ、多数決にしましょうか」


 投票。


「反対派はいない…。賛成多数っ!」

 ホマレハホトンド叫ブヨウニ言イ放ッタ。ソシテソレハ現実ノモノトナル。反対派ハ消失シタ。誰ノ記憶カラモ。

以上



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