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士獅十六国物語 〜“黒”の転生者狩り〜  作者: ホラナカチリ
⑤【重なる声と灯火】

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⑤ー7登壇

7 登壇


 割れ窓から月明かりが差す。夜の廃城に、わらわらと影が揺れる。

 目深にフードを被った魔術師たちが踏み入る度、傷んだ床が小さな悲鳴のような音を立てる。

 広間に出ると、より強く月の光を感じる。古城の聖堂。いや、邪教の巣窟か。

 「ここか」

 マントの魔術師達に混じって一人、純白の装束に聖騎士の紋章。その騎士はかつてこの地に居を構えた大魔族長、魔王軍幹部のことを想像してか、若干不機嫌そうに目元を歪めた。

 魔術師の一人がうなづくと、他の魔術師達も粛々と準備にかかる。

 聖騎士リヒト・ルーチェは、魔術師達を監視、監督しながらも、隙を持て余して、近くにあったピアノの鍵盤をおとす。

 ぼすっ。

 長い間打ち捨てられていたピアノは、とうに楽器としての機能を失っていたようで、傷んだ鍵盤は沈みこんだまま、指を離しても戻ることはなかった。

 ぼすっ、ぼすっ、

 リヒトは既に死んだピアノを弄ぶ。

 ぼーん…

 突然鈍い音がして、魔術師達の視線が一斉に集まる。どうやらまだゆるく張られた弦も残っていたようだ。リヒトは気にも止めずに魔術師達を見返した。何事もなかったように作業が再開される。


 夜半になると、高く上がった月が聖堂の崩れた天井から顔をのぞかせた。遠くでおびただしい数の魔獣の呻き声がする。舞台は整った。

 「其は千空の彼方より来る。来訪者。掲げられた栄光に宿る雨露(ウロ)は喝采する」

 「我楽の転移。博徒の四肢。飛び去りて無碍。無垢なる器」

 「なおも遠き彼の地。穿きてちぎりて滴る天。慟哭に暁ける地平。翻るまなこの見開く転生」

 描かれた魔術紋章が発光し、複数の詠唱がぶつかり、弾け、混じる。

 積み重なった埃が舞い、風は凪いだ。

 術師達の儀式によって、新たな転生者が現れる。

 広間の中央に結実した少女の痩身は、フラフラと力無いようで、しかしその場にまっすぐと立った。定まらないピントで蒼月を見上げている。

 「成功したか」

 リヒトはもたれかかった壁から背中を離す。

 魔術師達は、自分が召喚したであろうに、現れた転生者に戸惑い、ただその様子を観察するのみで動揺して動かない。そんな彼らを差し置いてリヒトが少女に歩み寄る。

 自分のマントを外すと、少女にかけてやる。

 「我が名はリヒト・ルーチェ。協国勅命聖騎士団所属の騎士だ。王命を賜り、あなたをお呼びした。君の名は?」

 「…騎士、」

 少女は混乱しているのか、伏し目がちにリヒトを見る。しかし、怯えはない。

 「あなたが私を呼んだのね」

 「はい」

 「そう…、そうなの」

 少女は周囲の状況を確認する為か、広間の中を歩き始める。彼女が近づくと、さっと身を退く魔術師達の様子を見て、リヒトはある種の虫のようだと思った。

 足取りは弱々しいが、少なくともこの状況に対する怯えはないようだ。既に転生召喚については理解があるのか。広間には朽ちた椅子や木片が散らばっている。それらを避けながら辺りを徘徊する。壊れたピアノの前で歩みを止めると、それをそっと撫でた。

 「懐かしい…」

 呟きは、他のものには聞き取れない程度のものだった。リヒトが聞き取ろうと耳を澄ますと、一音。はっきりと正確な音が耳に飛び込んだ。

 少女は両手を使って、簡易な練習用の曲をピアノで弾いた。

 リヒトは考察を飛び越えた直感で騎士剣を握り踏み込むと、さらに先行した少女に対する殺意が、そのまま自分自身に帰ってくるのを感じ取って、腰の剣から腕、指先までの緊張した筋肉を張りつめたまま静止させた。殺せないという確信。

 彼女は途中で弾くのを止めると、また歩き始めて、ちょうど一周するとリヒトに向き直った。

 「ホマレ・アストレアよ。よろしく」

 そう言って彼女は手を差し出した。転生直後からも変わった、何か自信のような物を感じる。“ギフト”を理解したのか。

 リヒトは観念して握り込んだ手を剣から離して、ホマレと握手を交わした。そうだ、本来の目的に戻るだけだ。吹き込んだ風に、ホマレがマントを巻き直すのを見て、城の奥へ誘う。移動しながら、ようやく思考が追いくいてくる。あのピアノは壊れていた。足りていない部品すらあったはずだ。それを彼女はギフトで直してみせた。いや、直すなんてことじゃない、もっと根本的な超常。ギフトについてはある程度、事前に情報を聞いてはいたものの、これは、明らかに異質であった。彼女を殺すことなど出来はしない。ならば正しい方向へ導いてやるのみだ。これが本来の目的。しかし、

 (「もし彼女が魔王の遺骸に触れでもしたら…」)

 自らに生じた殺意の理由に追い付くも、リヒトは静かにそれを飲み込んだ。



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