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士獅十六国物語 〜“黒”の転生者狩り〜  作者: ホラナカチリ
⑤【重なる声と灯火】

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⑤ー4曇り時々雨で雷を伴う

4 曇り時々雨で雷を伴う


 僕がウルフと向き合う(言い争う)日々を続けているうち、飛行船はラクス北方の国ハスタへと差し掛かる。

 「F(フーモ)D(ディケ)Hハスタ…」

 ガラーやネグロに滞在する選択肢もあるが、もしまた転生者が現れた場合に初動が遅れる恐れがある。その結果どれほどの人が被害にあうかは、ラクスで見た通りだ。

 「決めかねているのかな」

 いつの間にやら横に立っていたトリトンが僕の顔を覗き込む。

 「策を練るのは苦手で」

 「あまり楽しそうじゃないね」

 トリトンは船内にも関わらず三本の槍“クロウ”を携えていた。

 「わかった。じゃあこうしよう。今この船はハスタ国に近い。僕がちょっと降りてハスタの様子を伺ってくる。君たちは先にディケかフーモに向かっていてくれ。ハスタに異変がなければ僕も後から追いかける」

 トリトンは手の指差しで進路を示した。

 直線距離上の空間をショートカットできる彼の勇器を持ってすれば、飛行船に後から追いつくことも可能なのであろう。つくづく能力差を見せつけられる。

 「でも…」

 どこへ向かうかは、みんなの命がかかった選択だ。ラクスであれだけの事をしたんだ。教会からも追手がかかるだろう。転生者と出会うことになれば、圧倒的なギフトの力を前に、また全員を危険に晒すことになるかもしれない。

 (「また始まったぜ…」)

 「アルク君、キミ楽しそうじゃないね」

 「楽しむことじゃないです」

 「いやいやいや。まあ、あとは君が決めることさ。お任せするよ」

 そう言うとトリトンは飛行船側面の扉を開いた。強い風が一気に船内へ吹き込む。

 「また会おう」

 トリトンは三本槍を展開すると、その魔術で姿を消した。僕は開けっぱなしの扉を閉めるのに随分苦労した。



 トリトンは瞬間に立ち現れた。

 そこはかつて神殿だった場所。長い時間の中で、補修され保用されてきた。ハスタ国第一の城へと続く王の道。かつて神殿を支えた巨大な柱が立ち並び、あるいは崩れ、倒れている。灰白の塗料に薄紫の染料が微かに混じった香りが滞留していた。人の気配が無い。それはこの場所の常ではあったが、それでも今日はあからさまに違っている。人払いがされたのか。

 「今日はどっちが捕まえる側かな」

 察したトリトンが声を掛けると、周辺に散らばった柱の影から、一人の騎士が現れる。

 「よく言うぜ」

 聖騎士の紋様の入ったマントは、腰の上までできっちり裾上げされている。左右に二丁の拳銃を握り、トリガーに指をかけている。すでに互いの射程内にいる。

空間移動する槍使いにとっても、中距離狙撃の銃狙撃手にとっても絶好の戦闘環境であった。

 「型通りに一応、伝えておく。トリトン・ハスタ、聖騎士に加名しろ。これは教王様の望まれている事だ」

 「僕の嫌いな言い回しだ。ありがたいね」

 そう言いつつトリトンは槍を構えた。

 「そしてこの勅命を断るようなことがあれば、お前も粛清対象だ」

 聖騎士は銃口をトリトンへ向ける。

 「ジェイル。何で君なんだい?」

 「知るかよ」

 「わざわざ君がくることはなかったんじゃないかな」

 「トリトン。身の振り方はよく考えろ。城の家族も、厳しい立場になっちまうんだぞ」

 聖騎士ジェイル・ジャケットは銃を向けた先、トリトンの背後にあるハスタ国城を見据えた。

 トリトンは読めない表情のまま槍を手で弄んだ。

 トリトンとジェイル。二人は旧知の中であった。だからジェイルにはハスタのその態度から、彼が聖騎士に加わるつもりなど毛頭ない事を汲み取った。

 「そうか。ならせめて…最後に止めさせてもらうよ」

 銃撃と硝煙の香りが一気に周囲へ拡散する。

 魔術によって撃ち放たれた弾丸は、確実にターゲット目掛けて直進する。その速度を無視するように、トリトンは三本槍“クロウ”の能力によって全く別の場所に瞬間に移動する。当てどころを失った弾丸には、クロウの能力を想定した仕掛けがある。植物の種子が弾けるように、弾丸は幾つかに分離し、四方八方へ、その弾道を急転する。

 直進と離散。その連打。ジェイルの放つ弾丸の飛翔で、空間が埋め尽くされていく。弾ける音が反響する。

 瞬時に移動して躱わすことが出来ても、その移動先がなくなる。となれば、

 「上、だよな」

 ジェイルは近くの物陰に転がり込むと、事前に仕込んでいた魔具を構える。

 「人界四天王相手に、出し惜しみはなしだ」

 神器“ジュピター”。地脈を読んで大地に突き立てられたその長銃は、大地の魔力を吸い上げ、星を撃つ。

 「惑うものに伝えよ 我はここにあり 汝は祝福された 勝利は約束された 崇高な信心は、やがて天をも穿つ 硝煙顕華」

 猛攻をさけ、上空へ退避したトリトンへ狙いを定め、ジェイルの神器から、魔術が放たれた。

 魔術は柱のように屹立し、トリトンを飲み込んでいく。

 上空で爆発が起こり、煙が広がった。

 

 「空を貫き、光差す、か。まだそこまではないかな」

 爆煙が滞る中から、トリトンが姿を現す。

 残る煙りに槍を刺すと、それをゆっくりとかき混ぜるように動かす。

 風向きが変わった。トリトンが槍で弧を描くのに合わせて、空気が集められているかのように動く。段々と魔力が集い、重なり、黒雲のように見える。雲は空へ蓋をするように、ジェイルに圧迫感を降ろした。

 「おい、ジェイル!そんな顔しないでくれよ」

 黒雲は雷鳴を帯びる。

 「楽しくなっちゃうじゃないか」

 トリトンは槍の魔術を投擲する。一槍が延長され稲妻となり振り下ろされると、落雷する。


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