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士獅十六国物語 〜“黒”の転生者狩り〜  作者: ホラナカチリ
⑤【重なる声と灯火】

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⑤ー2さざめき

2 さざめき


 「では、そのように…」

 「はい」

 オーロは表情を殺して首肯すると席を立った。

 教会からの使者達の品定めをするような目線を背に受けながら、部屋を後にする。

 ネグロ第一商会の会議室で、普段とは違った参席者を相手にしたオーロは、扉が閉じると、思わずため息をこぼす。

 「皆様を部屋へお連れしてください。くれぐれも失礼の無いように」

 「承知致しました」

 部屋の外で待機していた者へ、指示を出す。

 問題が山積していて、気が休まらない。

 廊下を進む移動中も、この後の仕事の進捗を組み立てて行く。

 ムート・ネグロの自宅が襲撃されてから、数週間が経っているがいまだに商会は混乱の渦中にいる。

 ムートの自宅の使用人達はあらかた職場復帰できるくらいにまで回復してくれた。しかし、ムート自身の負傷はひどい状態だった。ネグロの病院では治療が追いつかない事と、また、いつ襲撃されるかわからない状況を鑑みて、古参の商会員達がムートを秘密裏にガラーへ移動させる事を決断した。そこまではいい。自分では即決できない判断だった。しかしその結果、ムートとは連絡は取れず、商会の仕事の決裁をオーロが一手に担う事となったのだ。実務の指揮をほとんど任されていたとはいえ、第一商会トップの仕事の重責がここまでのものとは思っていなかった。先程までの教会からの使いの相手もそうだ。ムート・ネグロという後ろ盾が不在と見るや否や、無茶な要求を強気でしてくる。一企業が、対等な立場で交渉なぞできる余地はまるで無かった。ムートの偉大さを改めて思い知った。自分の力不足も。いつか、より大きな仕事を、立場を、引き受けるかもしれないと、イメージしていたつもりだった。でも、そういう事だけじゃない。覚悟が足りていなかった。多くの商会職員、取引先、“お客様”。自分の決断が、全員に影響を与えかねない。

 気がつくと、目的地である執務室を通り過ぎてしまっていた。手が、震えている。

 手に持った書類の束から、一枚の紙が落ちた。ゼンからの書簡だ。

 (「全員無事。治療のため待機」)

 ラクス国城襲撃事件のニュースとほぼ同じタイミングで届いたものだった。彼はいつも事後報告だ。魔術鳥が狙い通り届かなかった時の為とはいえ、内容もあまりに簡潔。

 「まったく…」

 飛行船へ乗り込む皆の姿が目に浮ぶ。

 そうだ、自分はひとりでこの世界と戦っているわけじゃない。場所も、やり方も、立場も。違っていたって。同じように今この時も世界へ挑んでいる。心が孤独に支配されないよう、そのように考えるとしよう。そう思うと、顔の筋肉が少し緩んだ。

 「よし」

 オーロは踵を返すと、力強い歩調で自室へ向かった。

 (「それにしても、まだちゃんと待機してくれているだろうか」)

 協会員の監視の目が光っている為、こちらから魔術鳥を送れる状況にない。指示を待ってくれていれば良いが、何せゼンは事後報告の男だから心配だ。

 (「今は国境を跨ぐ移動は危険だ。まさかとは思うが…。件のディケなどに向っていなければいいが」)

 騒動の渦中へ向っていく。そんなか彼らを想像すると、心配ももちろんあるが、少し、胸が空くような思いもした。



 教会国・プレナ

 国衛騎士団、詰め所。

それ自体が一つの城をなす、全世界の騎士たちの総本山とも言える場所。通称『騎士城』。

その最奥には、世界最強の騎士達の会議の場がある。長方形の異様に長い机の片側に十六の座が用意されていた。何もない上座は教王のもの、一六の末席は最も優れた騎士、『聖騎士』が控えるもの。

 十六の末席は、その殆どが空席となっていた。そもそも聖騎士が十六人に満たない事と、聖騎士全員が揃う時は、教王から何かご指示を賜る時だけだからだ。

 他に一切の音がしない隔絶されたこの部屋で、集まった聖騎士が話をしている。

 「ネグロはどうだ」

 「オーロという男。悪くはないようだ。大方こちらの要求を呑んだ。思想はムート・ネグロに染まってはいるが、元はこの教会国近くの生まれ、髪も金。彼奴がネグロを引き継ぐのであれば、ゆくゆくは融通もきくだろう」

 「何にせよ、ムート・ネグロよりはましさ」

 「そのムート・ネグロはどうなった」

 「言の葉遣いに追わせている。いずれにしろ虫の息だ。もはや我々に盾突こうとは思うまい」

 「どうだかね」

 「ディケは?」

 「例の召喚集団と共に向かわせたおかげで道行きに時間はかかっているが、問題ない。トリトン・ハスタも現れない」

 「ハスタには?」

 「現れていない。いつものことだ、完全に姿をくらませている」

 「…。」

 「殺すんです?」

 「そのような物言いはやめろ。それに、教王は彼の聖騎士入りを望んでおられる」

 「盗っ人風情が…」

 「神器につり合わぬのならば、その時は還してもらわねばならない」

 「揃いますかね」

 「聖騎士が、教王の世界をすべからく統治する。治世こそが真の平和の実現だ」

 彼らの持つ神器が各々の信仰に応じて魔術の光を帯びる。世界を制する力が、今、少しずつ翼を広げて始めていた。



 「ロイバー船長!頼むよ!」

 アズマ、下之町、隠れ岬、海賊団アジト。

 火筒使いのショーンは、背を向けたまま黙々と手元の作業を続ける彼らの船長へ向けて直談判をしていた。

 「あいつらあぶねんだよ。方々に敵を作ってよぉ。アルクなんて、まだまだ全然黒刀の扱いがなっちゃいねーんだ。俺たちアズマの宝を預ける以上は、それなりになってもらわなくちゃならねーだろうが。それが筋ってもんだ。だからヨォ、俺も行かせてくれよぉ」

 「ただいまー、って何やってんの?」

 アジトにイヅルが戻ってくる。

 「アニキがあの魔族達について行きたいって、ロイバー船長に頼み込んでるんですわ」

 「はぁ、そういうことね」

 イヅルは見守る船員達を押し退けて、前へ進み出る。

 「あ、イヅルちゃん、」

 大柄のツモリが最前列で小さくなって目に涙を浮かべていた。

 「ちょっとショーン!あんた船長に借金っ、いくら残ってると思ってんのよ」

 「イヅル、おめえには関係ねーだろがっ!」

 「ここ数日はおとなしく船直してると思ったら、そんなことで全然足りてないんだからね」

 「はぁっ?見ろよあの光沢。これまでにない仕上がりだろうがっ。そんじょそこらの船大工にも引けはとらねぇ!」

 「じゃあ船大工になれば?」

 「俺はなあ!正面切って荒波に挑みてぇんだ!ラクス城にも、あのラプソディア・ラクスにも、一歩も引かねえ姿に、あいつらに、」

 「もう行ったわよ」

 「え」

 「だから、もう行っちゃたわよ。わたし見送りに行ってきたんだもん」

 「…今すぐ、」

 「もう無理よ、空飛んでった。飛行船っていうんだってさ。すごい船もあるもんだねー」

 「アルクーっ!俺に黙って行きやがってーっ!」

 「やっぱり船大工になって飛行船造ったら?」



 「ディケ、フーモ、ハスタ。一番可能性が高いのがディケさ」

 トリトン・ハスタは、第一に次の行先を提案してきた。

 皆、トリトンは信用しきれないということだったが、最終的な判断は僕に任されたので、僕が彼の話を聞くこととなった。何よりみんな突然の出航をしたばかりで、色々と仕事に追われている。僕とトリトンは隅に追いやられていた。

 「異常無しー」

 通りがけにフェリオが僕にウルクを投げ渡す。

 ラクス城での一件以来、フェリオに預けて、調べてもらっていたのだ。

 「教会は未だ転生者を扱いかねている。実験するなら、遠くの混乱した国はうってつけだろう」

 転生者は同時に一人まで。十六国の一つの国に一回に限る。どれもトリトンから説明を受けたルールだ。教会が秘密裏に行っていることなら、それをトリトンはどうやって知ったのか。人界四天王として顔が利くからなのか。あるいは儀式そのものに関わっているのか。そもそも本当に教会が関わっているのだろうか。

 「…わかってるよ」

 「ん?」

 「いえ、何でもありません。とにかく行き先を決めないと…」

 頭が痛い。やっぱり“声”が聞こえる。

 「うるさいっ」

 突然大きな声を出した僕に、近くにいた船員が様子を伺う。トリトンと揉めていると思われただろう。

 「ごめんなさい…、少しひとりで考えさせて貰えますか」

 「あぁ、その方が良さそうだ」

 トリトンをその場に残し、ふらふらと船内を彷徨い歩く。

 

 声は満ちる波のように、段々と大きく、はっきりと聞こえるようになっていった。



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