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士獅十六国物語 〜“黒”の転生者狩り〜  作者: ホラナカチリ
④湖の城と海の島】

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④ー13沸々

④湖の城と海の島


13 沸々


 島内に吹き込もうとする海風を、太い松の樹が受け、枝葉がそよぐ。細かな音を立てる。

 濃い影を落とす、直天の青空のもと、さまざまな魔術の煌めきが散る。

 防風林を活用し、フェリオとショーン、そして六人のシャ達は、集まってくる騎士達を牽制していた。

 「おい!なんかおかしいぞ!こいつらぁ!」

 ショーンが叫ぶ。

 樹々の間を素早く移動し続け、会敵を短く、瞬間的にスイッチするシャ達。距離を保ち、遠距離から魔術を放つフェリオ。それに対し、弾数が限られるため、狙撃をセーブし近接戦闘を余儀なくされたショーン。それゆえに騎士達の違和感にいち早く気がつく。

 「こいつら、魔力が尋常じゃねえ。連続で魔術を…。いや、違うな、魔具か」

 魔具に魔力を流し込み、魔術を顕現する。術者自身の魔力量に左右される魔術を、ラクス騎士団の騎士達は、効率よく連発している。異常なほどに。

 間髪いれずに押し寄せる攻撃の波に、ショーンが呑まれる。

 「しょうがないなー」

 取り囲まれそうなところを、フェリオが木の幹を操る魔術で助け出す。

 「おう!ありがとよ」

 「距離をとりなよー。そういう魔具だろ、君のはさー」

 「そう何発も撃てねえんだよ。あいつらの魔具がおかしいんだ、なんだあの魔具」

 「あれは転生者のギフトでいじられてるよねー、まあそうするよなー。でもなんか、すごくイヤな感じするよ、なんだろ」

 飛んでくる魔術から距離を取るために、樹々の上方を素早く移動する。しかし、時間が経つにつれ、徐々に囲われ、移動範囲を絞られる。しかも相手の魔力は一向に消耗しない。

 離れた場所で、シャの一人が騎士の魔術に跳ね飛ばされるのが見える。すぐに他のシャがカバーに入るが、その分騎士たちに食い込まれる。この防風林内部を死守しなければ、多勢に無勢の戦力差を誤魔化せない。いや、すでに誤魔化しが効かない状況になりつつある。

 フェリオは覚悟を決め、右目に魔術紋様を浮かび上がらせる。禍々しく発光する眼。いかにも魔族然とした姿を晒すことには抵抗があったが、この場の主導権を握るためだ。

 「永久(トワ)、心を捧ぐ 永遠(トワ)、命の巡り 瞬間に、ありしもの どこにもないと、呻くもの その身を尽くし、その身を尽くせ」

 泥のように重々しく流れ出るフェリオの魔術を中心に、シャ達が陣形を組み直す。

「ぼくを守ってねー」

 「元よりそのつもりです」

濃密な瘴気に吐気を催したのか、ショーンは木陰にうずくまる。周辺へと流れ出す泥は、騎士達の足をすくう。彼らの動きを抑制し、放たれる魔術を飲み込んだ。

 フェリオの眼が、虚な死に通じる。落ちてゆく感覚。ただ、手を仰ぎ、掬い上げてもらうのを待つ。

 「頼むよー」

 自らの魔術に取り込まれ、ほとんど魔術事象となったフェリオが、騎士達の魔術を一身に受ける。黒と緑青混じりの泥の塊の中で、ただ、仲間の帰りを待つ。


 「…くっ」

 また剣が腕を掠めた。細く鮮血が散る。

 黒翼と脚の爪で蹴りを放つが、躱される。

 後方に飛び退いたラプソディア・ラクスは、細剣(セイケン)に滴る血を冷たい目で見下ろすと、剣を振り下ろし、血を払った。

 「はぁ…」

 超人的な身体移動の連続の間に、ようやく息を吐き、呼吸をする。

 “(スー)”。魔力を体内に取り込み、一時的に魔人のような運動を可能にする魔術の使い方の一つ。人の身でこれほど長い時間体内に魔力を取り込むことができるのは、人界四天王たるラプソディアくらいのものであろう。深く静かに呼吸をし、息を整えている。

 今が隙なのであろう事はわかるが、連撃によって既に傷だらけの体を休めたいのはこちらも同じだ。トバリは、ラプソディアの急襲を警戒しつつも、傷の回復に魔力を巡らせた。

 血の一滴もついておらず、ただ振るった剣の血を足元に落としたラプソディアと、メイド服の所々が破れ、血で湿らすトバリ。広間で向き合う二人は、静かに次の攻撃を待つ。

 パチパチと光を散らしながら、ラプソディアの細剣が発光し始める。もう次の攻撃が始まるのだ。トバリも急いで両手の剣を構える。

 ラプソディアが目を見開いてこちらを見る。

 横一閃。

 次の瞬間には、体が吹き飛ばされている。速すぎる。両手の魔具はあっという間に弾かれ遠くへ飛んでいってしまう。首はまだ繋がっているようだが、胸元を深く斬られた。宙に浮きながらも、冷静に今の自分の状態を把握する。一撃を受けて終わりではない。一撃目は速すぎて対応できない。しかしこのまま体勢を立て直そうとしては遅いのだ。二撃目が来る。側方に殺気を感じる。確実に仕留めに来る。

 「解放…」

 巨大な黒腕が立ち現れ、ラプソディアを追い払う。

 衝撃波で広間の壁が崩れ、粉塵が舞う。

 トバリはその場で両腕をつき、咳き込む。

 よく磨き込まれた大理石の床に、映る自分の姿。赤く光る瞳に、黒い鱗。刺々しい凶悪な腕。そこに血を落とす。

 煙の奥、ラプソディアは憮然と立ち続けていた。

 (きっさき)をトバリに向ける。

 「姿を晒しなさい。黒竜」

 赤い眼でラプソディアを見返す。


 「はぁ…、はぁ…。よいしょっ」

 群がってきた騎士の最後の一人を床に放る。

 瘴気が体の周囲に滞留し、ゆっくりと流れる。

 意思なく襲いかかって来るばかりで駆け引きもなく、手に持った魔具を弾き落とすと、あとはほとんど覆い被さって来るばかりだった。アズマのシャをマネた、擬似的な五行魔術だったが、彼らには通用した。

 「話が、したいんだけど」

 部屋の奥で、ゲントがようやく手を止めた。

 「なかなか上手くいかないな。命令を強く植え付けすぎると、技の精度が落ちるんだ。自動で動いてくれるのは良いんだけどね。単純なレベル通りってわけでもなさそうだしね」

 「なんの話を…。彼らに何をしたんだ」

 僕に襲いかかってきた騎士達は、とても正気とは思えなかった。何か薬でも盛られたかのように、朦朧としていた。

 「“ステータス”それが僕のギフトさ。いいよ、教えてあげるよ。ステータスコントロールでレベルやその他諸々、数値をいじれる。君には見られたし」

 あの、人を魔具に変えたやつか。

 「ただ、いじれるのは既にある能力だけなんだ。君のようにスキルのない人にスキルを付与したり、新しい能力を発現する事はできない。だから、自分から収集に出向かなくちゃならない」

 そう言って見渡す部屋の壁面には、様々な魔具が収納されている。これらが全て、彼の言うスキルを持った人達なのだろうか。元は人で、彼がギフトで魔具に変えたって事なのか。

 「どうしてそんなことをするんだ」

 「どうして?君と僕は、どこか似た部分があるように思える。だから話した。この世界の常識を変えたいと思ってる。そうだろ?ただ違うのは、君は何も持たず、僕にはギフトがある。だったら、力あるのもに任せるべきじゃないのかい」

 先程からゲントに戦意はない。こちらから仕掛けることに抵抗がある。僕はここに来て、まだ、迷ってる。正直、どこか、彼にタローさんの面影が重なる。神に授かったという人智を超えたギフト。その力を持って世界を切り開いていく圧倒的な行動力を、彼からも感じた。考えないように、考えないようにと胸に押し込めてきた想いが、心臓を握りつぶすように圧迫する。

 (「僕が間違っているのか」)

 その言葉が頭に思い浮かんだだけで、全身の力が抜けていく。

 「それでも…。君に魔具にされた人や、一方的に命を奪われる魔族はどうなるんだ。彼らの魂は浮かばれない…」

 「それって前の勇者もやってたことだよね。そうやって魔王を倒した。君はその知り合いなんだろ?」

 「それは…」

 そうだ。答えに詰まるのが、答えだ。

 ていのいい理由をつけて、転生者と戦おうとしてきた。でもそれは、自分自身の喪失を拒絶するために利用しているだけじゃないのか。

 漂っていた瘴気が収束していく。その煙が晴れた最後の瞬間に、僕の微かな魔力にウルクが、ウルクの中のホークが反応した。放たれた細い糸のような魔術は、室内の空調に煽られつつも、壁際の収納棚の扉にぶつかった。何かを壊すような威力はなかったが、振動で中の魔具が床に落ちた。小さな一本の杖。軽い音が、室内に響いた。

 “助けて”

 誰の声だったのか、わからない。それでも、頭がクリアになって、現実に引き戻してくれた。大義はいい。今、ここで起きていることを、僕は止めよう。

 吹き出した瘴気が、体を覆う。

 「ごめん。やっぱり君の行いを見過ごせない」

 「身勝手だね。いいさ、僕と同じ」

 ゲントの手元に、あの白光する剣が現れる。照らされて揺らぐ瘴気は、それでももう消えたりしない。決意に黒く深く、沸き立つ。



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