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①ー6“消去”

①死と転生


6 “消去”


 ガラーの長老会の老人ども。「魔族との共存」だかで、会議で俺のことを批判してきた。“消去”

 周辺国から、会議の為にやってきた王族の男、護衛の男。普通に邪魔。“消去”

 ハスタ国の騎士達。俺が王族の女たちを監禁していると非難してきた。“消去”

 隣国の王女、リーニャ。結婚したというのに、全然俺の言うことに従わない。顔はいい。保留。


 カロス国城内、王座のある広間。本来であれば、この場所では、カロス国王による騎士団への指示や、騎士の位の叙任など、王国運営に関わる重要な儀式が行われる。城の中央に位置する、この王座の間は、今では転生召喚によって新たにやってきた、勇者デル一人の居室となっていた。

 その男は王座に沈み込んで、ほとんど背中で座面に座るような格好で、考え事をしていた。

 「なあ、ルル。この世界で一番早い移動手段ってなんだ?」

 呼ばれると、王座の影から、マントにフードという出で立ちの者が、姿を現す。

 「陸路なら走竜。空路なら飛竜と思います」

 「走竜ってのは、下の騎士団のとこにいるやつだよな。飛竜ってのは、ドラゴンみたいなもんか?どこで手に入る?」

 「“ドラゴン”はわかりませんが、飛竜は魔界におります。人族のいうことはききません」

 「つまり、人が乗って移動するとなったら、走竜が一番早いんだな?」

 「はい、おそらくは。ただし、魔具(マグ)神器(しんき)の力で、移動可能な者もおります」

 「そんな便利な道具があるのか。手に入るか?」

 「申し訳ございません。ルルもほとんど見たことがなくて。トリトン・ハスタの槍くらいでしょうか」

 「ん?転生してきたときにいたやつか。あいつはまだ近くにいるのか?」

 「いえ、帰国されました」

 「なら、その槍を献上するように伝えろ」

 「承知いたしました」

 ルルと呼ばれる者は、再び王座の後ろの影に消えて行く。

 

 バンッ

 王座の間の扉が音をたてて開かれた。その音が広間に響く。やってきたのはカロス国の国王と、その護衛の騎士達であった。

 「デル殿!なぜハスタ国の騎士達を消したのです?!彼らは人界の同盟国の騎士ですぞ!」

 カロス国王は、もはや怒りを隠せない表情で、勇者に詰め寄った。

 勇者デルはゆっくりと体を起こし、王座にどっかりと座りなおした。

 「なんだよ。今は人界の結束が大事なんだろ。歯向かってきたから、消したんだ」

 「結束は、勇者様の人徳によってなされるものです。立場が人を作ると、まだお若いデル殿に成熟していただきたいと考え、ジュアンの王女とご婚姻頂き、その時を待っておりましたが、これでは、カロス国の存続すら危うくなってまいります…どうか、」

 「うるさいなぁ」

 勇者デルは立ち上がると、ゆっくりと国王に向かって行く。

 「コントローラーを握ってるのは、俺だぞ。俺が勇者としてこの世界を救うんだ」

 一歩、また一歩と国王に近づいて行く。

 「俺のやり方に文句があるなら、出て行ってくれないか?」

 カロス国王の目前までやってくると、勇者デルは、ゆっくりと手を伸ばす。殺気を感じた国王は、瞬時に腰の剣を抜き、勇者を切り捨てた。はずだった。

 カランッ

 国王の剣の先端部分が、勇者後方の壁に当たって、床に落ちる。

 「おいおい。俺を殺す気かよ」

 勇者を斬ったはずの国王の剣は、勇者の体にふれた部分が消えていた。

 「貴様は勇者などではない!」

 残った剣で国王は勇者に向かって行く。

 勇者デルの手が、国王の体に触れる。

 「はぁ…。わがままなやつだなぁ」

 国王の姿が消える。護衛の騎士達も、次々と勇者に向かって行くが、その攻撃は当たっては消え、勇者に触れられた者は消える。しばらくすると、王座の間に静寂が戻ってきた。

 「カロス国王、俺のやり方が気に食わないらしい。“消去”」

 デルは再び、王座につくと、背もたれに体を預けた。

 「ルル。また頼むよ」

 「かしこまりました」

 そう言うと、ルルはマントの隙間から杖を差し出して、魔術を発動させた。杖の先端から出た光は、集まって、徐々に人型を形成してゆく。光が消えると、現れたのは、先ほど消されたはずの、カロス国王だった。表情はなく、直立する。ルルの魔術によって作られた偽物であった。

 デルは、王座で満足そうな笑みを浮かべた。


 カロス国城は、高い城壁に囲われており、外側からは、巨大な中央塔の先端部だけが見える。城壁の中央門を入ると、深い堀で囲われた城までの一本道が伸びている。正面が巨大な中央塔。その左右に、少し小ぶりな西塔と東塔が並ぶ。東塔は教会になっており、休日には、城下町の人々にも開放される。西塔は、王族の居室である。


 その西塔の頂上付近。夜の闇に紛れて、レッタは城内に侵入した。

 部屋に入ると、数十人の女性たちが肩を寄せ合っていた。服装からして、周辺国の王族と、カロス国城下町の女性たちが、一部屋に集められているようだ。

 「レッタ!」

 女性たちの中から、見知った顔の王女が駆け寄ってくる。

 「リーニャ。無事だったか」

 二人は再開を喜び、強く抱き合った。

 「レッタ一人ですか?」

 「あぁ、長老会の爺様たちと連絡が途絶えて、嫌なうわさも耳にしたもんだから、偵察に来た」

 「ここは危ないの。すぐに逃げて」

 リーニャは、手に持った紙を、レッタの腰のポーチに詰め込みながら言った。

 「おいおい。今来たとこだぞ?」

 「城内に相当な魔術の使い手がいます。レッタのことも気づかれてる。勇者が来る前にここを離れてください!」

 「いや、でも長老たちが…」

 言いかけて、レッタはリーニャの表情から、緊急事態を悟った。

 「必ずまた来る」

 「はい…」

 侵入してきた窓を見ると、人とは思えないような動きで、騎士が窓から入ってこようとしていた。女性たちが悲鳴を上げる。

 「あちらへ!」

 レッタは、リーニャの案内で、ドアから部屋の外へでる。振り返るとリーニャは窓の外から次々と入ってくる騎士達に、体を押さえつけられていた。

 「くそっ」

 レッタは素早く弓矢を構え、騎士達を打ち抜く。

 「私は大丈夫です!今は逃げてください!」

 リーニャがむせながらも叫ぶ。レッタは一瞬、リーニャのもとへ戻ろうとするが、思いとどまって、部屋を後にした。

 廊下を進んでゆくと、一人の男が階段から上がってきた。

 レッタは弓矢を構える。

 「その耳、エルフか?俺の城で何してる?」

 「俺の城だと?ここはカロス国の城だろ」

 男は、にやけただけで答えない。

 「まさか、おまえが勇者か?」

 「そうだよ」

 勇者デルは、ゆっくりと階段を上がってくる。

 「ガラーの長老たちはどこだ!なんで女性たちを閉じ込めてる!」

 「閉じ込めてないさ。人聞きの悪い。城で守ってるのさ」

 「何からだよ!」

 レッタは、階段を上がってこようとする勇者の前方の段に、矢を放った。

 「お前みたいな侵入者からだよ、亜人種が」

 勇者は胸元のポケットから、小さな球体をいくつも取り出し、魔力を込めると、レッタに向かって投げつけた。レッタはとっさにかわすが、そのうちの一つが、左足首をかすった。

 距離をとろうと、踏み込んだところで、左足に激痛が走り、その場に倒れ込んだ。

 勇者が階段を登りきって、こちらへ向かってくる。

 動く右足で、後方に進みながら、魔力を込めた矢を、勇者に向かって放つ。

 「消えた?!」

 矢はすべて勇者に命中したが、当たった先から消えた。

 レッタは、残りの矢にも魔術を込めて、一気に勇者めがけて放つが、すべて無駄だった。

 「終わりか?」

 勇者はレッタの目の前まで来ると、彼女を見下しながら、笑みを浮かべた。

 レッタは、弓を置き、腰の短剣を抜いて、座ったまま構えた。

 「あー、はいはい」

 勇者は平然と、レッタに手を伸ばす。

 レッタは、隙を作ろうと、ポケットに入れていたお守りの石を勇者の顔に向かって投げた。

 「痛ってぇ!」

 予想に反し、その石は、勇者の左目に命中した。

 レッタはその隙に、何とか右足を使って、廊下の窓から飛び降りる。

 

 勇者はしばらく苦しんだ後、自分に当たった石を拾い上げたが、すぐに消えてなくなった。

 「何だったんだ、あの石」

 「勇者様」

 ルルが階段を上がってきた。

 「エルフに逃げられました。王女が魔術で逃がしたんです」

 「そうか」

 勇者は拳を握ると、怒りに任せて、壁に穴を空けた。


 リーニャ、思い通りにならない。“消去”



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