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士獅十六国物語 〜“黒”の転生者狩り〜  作者: ホラナカチリ
④湖の城と海の島】

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④ー10夜道

④湖の城と海の島


10 夜道


 ラクス国の港街、アナモニス。天気の良い正午、カフェテリアの客達の表情が明るいのは、この過ごしやすい陽気のせいだけではない。

 彼らの手に持つ新聞の紙面には、快活な文字が踊る。

 「ラクス第二騎士団、新団長就任

 早くも港街に蔓延るマフィア組織を解散へ追い込む

 郊外の山賊を撃退。大型魔獣捕える」

 連日、ラクス第二騎士団とその新たな団長の功績を讃えるニュースが飛び交っていた。

 「海洋警備がなくなった時はどうなることかと思ったが、ここ最近の活躍は目覚ましいじゃないか」

 「この街から危ない連中がいなくなってくれて本当によかった」

 「これでここ最近の人攫い事件も解決かね」

 「この勢いで、魔族連中を滅ぼしてくれたらいいが」

「噂の新団長はまだ若いと聞くがなぁ」

 「えぇ、まだ魔術学院の学生さんくらいの年端だとか」

 「さすがはラプソディア様の弟子だな」

 地元民の騎士団支持は厚い。

 カフェに買い出しに来て、そんな会話を耳にしたシーラは、不安な気持ちに胸がざわついた。


 「早急の要件だ」

 カルタの呼び出しを受けたメンツは、各部署をまたぐ形で集められていた。

 頼まれた食事を持って、店舗奥の事務所に戻ったシーラは、その中にシャッツを見つけて小さく手を振った。少し心が落ち着く。

 「まあ見てわかると思うが、ここ数日、小規模のチームを緊急で組んで、ある仕事に取り組んでいるんだ。今日は君たちが一つのチームとなって事に当たってもらいたい」

 事務所のさらに奥では、数人が慌ただしく何かの準備をしている。店舗はいつも通りの営業を続けているが、バックヤードの職員の数は少ない。事務所内は閑散としていた。

 「端的に仕事の内容を伝える。ここからは部外秘。口外無用。仕事が終わるまで外部との接触は禁止だ。わかったかな」

 即席とはいえ、アプローズという同じ職場で働く仲間だ。部署は違えど、顔くらいは見知っている。そんな顔を見合わせ、まだ話が見えてこないなりにうなづく。元々カルタは無茶な仕事をとってくることがよくあって、みんな多かれ少なかれ、そんな彼女の行動に慣れていた。そして無茶をも可能にできてしまうんではないかと思わせる求心力と、実績が、カルタにはあった。

 シーラは自分が大量の食事を買い込まされた理由がわかってきた。

 「昨今の情勢は、皆も知るとことだろう。第二騎士団の新団長就任。それに合わせた犯罪組織の撲滅活動。この街からグレーゾーンが無くなっていってる。賊狩りは結構だが、思想として、魔族排他と同じものとして語られている。そのことについて私から何か意見を述べることは控えさせて貰うよ。各々思うところがあるだろう。君ら個人の考えを否定するつもりはない」

 カルタはここで一呼吸置く。プレゼンとして自然な間であった為、誰も気づくことはなかったが、もしかすると、カルタが自身を落ち着かせるためのものだったのかも知れない。

 「ただ、仕事は別だ。今弊社で扱っている商品の一部は、魔族のクリエイター達によって作られている。弊社と専属契約を結んでくださっている方もいます。そんな方々が、昨今の魔族排他運動によって、危険な状況にあります。お世話になっている方々のこの状況を見過ごす事は、店のプライドに関わる。そこで…、皆さんにはこれから、このアナモニスの街から出ることを希望するクリエイターさんが、街を出るお手伝いをしてもらいたいと思います」

 皆は左右の様子を伺ったりはしたものの、概ねこの仕事に理解を示した。カルタは事前に反魔族感情の薄いものをピックアップしていた。

 「すでに先行して幾つかのチームが動いている。君たちには今日から明日にかけて、対象人物の荷運びと、当人の移動をお願いしたい。…では、早速具体的な仕事内容の説明に移らせてもらうよ」

 カルタは皆の前に事前に下調べされたいくつかの出国ルートが記載された地図を広げた。



 ラプソディア・ラクスは、カーテンのほとんど閉まった窓から、外を見ていた。

 「素晴らしい学院ですね。ぜひ通わせていただきたいです」

 「それはいい。通常は学科試験などもありますが、ゲント様には昨日のマフィア組織解体や、魔族討伐の実績がございます。何より人界の英雄であるラプソディア様のご推薦とあれば、学院側はそれはもうゲント様の入学を大歓迎させて頂きます」

 来客用の応接室では、エスサの魔術学院からの使者が中腰で唾を撒き散らしながら学院の素晴らしさをプレゼンしていた。この学院の男は、ゲントが学院に興味を持っていると、どこからか聞きつけて、さっそく不躾に押しかけてきたのだ。それを聞くゲントも、まんざらでもなく、愛想のいい相槌を打ってやって、盛り上げて見せる。そもそも、学院側に興味を持っているという情報をリークしたのは、他でもないゲント自身であった。

 「ダメよ。私から離れることは許せないわ」

 ラプソディアは城の中庭で警備にあたっている若い騎士たちを見下ろしたまま、提案を拒否した。

 「…うん、たとえばどうでしょう、ラプソディア様も特別講師として当院で教壇に立たれてみてはいかがでしょうか?それならゲント様とご一緒にいらして頂ける。学院の生徒達も、人界四天王から、直接教えを乞えるとなれば、それはもう、喜ぶことでしょう!」

 ラプソディアは生気のない目で一瞥し、近づこうとする男を制した。

 「ラプソディアさん。僕なら大丈夫ですよ。例の刺客に対しての備えも万全ですから。“フルカウント”こう言っちゃなんですが、今の僕はあなたのレベルを超えています。この世界を見てみたいんですよ。いつまでもこの城に篭ってはいられないでしょう。魔族殲滅の為にもなるんですから」

 「そんな事は私を倒してから言いなさい」

 (「そういうわけにはいかないですよ」)

 ラプソディアを倒す事は可能だろう。しかし、今はまだ、人界四天王ラプソディア・ラクスという後ろ盾を失う訳にはいかない。第二騎士団の自分を敬拝する若い連中はそれでもついて来てくれるだろうが、年配の昔気質の騎士は、今はまだ、ラプソディアの顔をたててゲントに従っているという様子だ。勝手のわからない異世界で、まだ単独行動は避けたい。

 「ハハハっ。今はまだ決断を急ぐ段階ではありませんよ。騎士団のお仕事もありますから。しかしまあ、若い時分というのはあっという間だ。今しか学べないこともあるでしょう。同世代の仲間と切磋琢磨した経験は、きっと将来役に立つでしょう。特別編入という形でいつでもお待ちしておりますからね。是非ともご検討ください」

 男はバラバラと学院の案内パンフレットを机にまくと、そそくさと部屋を出ていった。

 「…はぁ」

 ゲントはわざとらしく両手を広げて見せるも、ラプソディアは無反応のままだった。

 「当初から気にしていた賊も、街の悪者の魔術も、辺境の魔族も、みんな大丈夫だったじゃないですか。もう恐れるものは何もないんですよ。これから先、この世界でやっていくためにも、学院に通う経験は必要じゃないですか」

 「あなたの目的は、そうではないでしょう」

 ラプソディアの眼光に、ゲントの表情は一瞬停止したが、話し続ける。

 「そんなことは、貴方も織り込み済みでしょう」

 ゲントの問いに、ラプソディアが答える事はなかった。

 ギフト“ステータス”「オブジェクトコントロール」。人を、魔獣を、いや、この世界に存在する物を任意の形に造り変える力。純然たるその能力の詞書だけではわからない、感じ取れなかった、現実。これから先もこの事実に目をつむるのだろうか。そしてゲントは自分自身すら、作り変え始めている。

 どうせもう止まらない。ならばこれが新しい時代、新しい勇者のカタチなのだと、黙って首肯するしかないのだろう。そう思いながらも、ラプソディアは悠然と遠くの海を見遣った。



 入り組んだ住宅街の奥、細い道の途中にあるアパルトマンの一室。陽の差さない廊下からドアをノックする。

 「ピックアップです。準備はできましたか?」

 「…はい」

 シーラの問いかけに、少しだけ開いたドアから住人がこちらの様子を伺う。

 「カルタさんのところの…」

 「はい。アプローズの、じゃなかった、シーラと申します」

 「シーラさん。よかった、よろしくお願いします」

 「すみません。お店の名前は出しちゃいけないんでした」

 「いえいえ、本当にありがとう。ありがとうございます」

 そう言ってシーラの手を握る魔族の女性の手はとても冷たくなっていた。

 玄関からチラッと部屋の中を覗くと、大型の家具以外の荷物はなくなっていた。数日かけて、別動隊が既に運び出しているのだ。

 「では行きましょうか」

 「はい…」

 女性は最後に振り返ってしみじみと部屋の中を見渡すと、手に持ったスカーフを頭から深々と被った。ラクスでは珍しい、というより一度も見かけないほど濃い髪色だった。手荷物はハンドバック一つだけで、ちょっと近くまで夕飯の買い出しに出かけるような身なりだった。

 「この街は長いんですか?」

 「…ええ」

 建物を出ると小道を歩きながらシーラが話しかける。

 「そうなんですね。私は数ヶ月前、ちょうど年の初めごろにこの街に来たんです。綺麗な街並みで、お料理も美味しいし、栄えてるって感じですよね」

 「…。」

 「どこかおすすめのお店とかありますか?」

 「あの…」

 「はい」

 「あ、あまり目立たないように、静かに移動した方が、」

 女性は頭を覆ったスカーフが捲れるのではないかと気が気ではない様子で、握りつける手に力がこもっている。オドオドとした目で心配そうにシーラを見る。

 「女性ふたりでおでかけするのに、おしゃべりもしないなんてかえっておかしいですよ。道順も何かあった際の避難場所も、ちゃんと頭には入ってますから。リラックスして行きましょう」

 シーラは屈託の無い笑顔を女性に向けた。気を持ち直した女性はしっかりとした足取りでアナモニスの街を後にした。


 「お、来た」

 街を出て、辺境の合流地点に着く頃には、空は茜色に染まっていた。

 ネグロ第一商会の荷馬車の傍ではシャッツが手を振る。

 「おつかれ」

 「うん。お疲れ様。荷物は?」

 「ああ、全部揃ってる。相当入念な計画みたいだね。さすがカルタさん」

 シーラやシャッツが参加する以前から、別動隊は荷物の運び出しや、引越し先の準備に取り掛かっていたのだ。あるいはもっと危険な仕事も。カルタや他の先輩達の抜け目無い計画とそれを実現する働きに驚かされつつも、同じ組織に所属していることを、何だか誇らしく感じた。

 「お疲れ様でした。ここからは目的地まで商会の荷馬車に乗っていくだけですから。私はここまでですが、同行するシャッツは私のお友達です。人柄は保証しますから安心してくださいね」

 「はい…」

 女性はシャッツに手を貸りて荷台に乗り込んだ。シャッツもそれに続く。

 「それじゃ、暗くなるから帰り道気をつけて」

 「うん。そっちもね」

 シャッツは引き継ぎを受けると、荷台から、前の御者に合図を出す。

 「…あのっ!」

 馬車が動き出す直前、女性はシーラに向かって話しだした。

 「私の名前はヘルザ、おすすめのお店は、中心街へはあまり行かないからよく知らなけど、あのアパルトマンの近くに隠れ家的なカフェがあって、そこの料理がとっても美味しいの。もし…、もしもまたこの街に戻ってこられたら、その時はぜひご馳走させてね!」

 「はい!」

 離れていく馬車に向けて、シーラは精一杯両手を振った。

 「シーラさんっ、本当にありがとう!この街で、最後に貴方に会えてよかった!」

 「ヘルザさん、お元気で!美味しいお店、楽しみです!」

 馬車は遠ざかって行く。詳しい行き先は伝えられていないが、おそらくネグロの方へ向かうのだろう。反魔感情の少ない土地へ。

 「どうか貴方の道行きが、穏やかなものでありますように…」

 シーラは馬車の姿が見えなくなるまで、じっと立ち尽くして祈った。


 アナモニスの街に戻って来る頃には道は暗く、営業している店もまばらだ。街灯の明かりを頼りにアプローズへの帰路を急ぐ。裏道へ入ったところで、違和感を感じた。

 (「誰かに見られてる」)

 視線を感じる。それが、ついてくる。

 シーラは腰の魔具に手をかけた。

 ハヤテが吹いた。と思った一瞬で体勢を崩す。何者かに突き飛ばされた。魔術の展開は間に合わなかったが、斧でその手は防いだ。

 立ち上がりながらその姿を追うが、周囲は闇夜に包まれていて、気配は感じ取れない。

 斧に熱をこめる。熱された刃の橙色だけが闇に浮かび上がる。

 攻撃に殺意はなかった。最近多発しているという人攫いだろうか。

 「あまり舐めないで下さい。これでも護衛部門所属なんですから」

 双斧は燃え上がり、周囲を一気に照らした。

 道の影に潜んでいた人物は、深く被ったマントを翻して去って行く。

 「“灯火”か。面白いスキルなんだけどな。今あまり騒ぎを起こすのは良くないからね」

 「待ちなさい!」

 シーラの追走も虚しく、人攫いは超人的な速度で走り去っていった。

 「この街の人を不安にさせて!追いやって!私っ、許せません…、許せない」

 人を護ること、営みを護ること。騎士とは違うやり方で、皆に寄り添う事。

 自身の覚悟を再確認したシーラの炎は、闇夜を明るく照らし、いつまでも燃え続けた。



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