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士獅十六国物語 〜“黒”の転生者狩り〜  作者: ホラナカチリ
④湖の城と海の島】

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④ー5下之町

④湖の城と海の島


5 下之町


 「鬼じゃ、鬼が来た」

 「何じゃあれは」

 「あの黒髪!魔族に違いねぇ」

 上之町とは逆側に位置する下之町は島における産業を担う町で、ちょうど労働者たちが家路に着く時間帯、夕陽に町が染まる頃、異様な者が町を横断していた。

 横一文字にまっすぐ伸ばした腕に、二本の棍棒を直角に持った魔族の男。しかもその二本の棍棒は夕日と同じ色で燃えている。

 「もう少し炎の勢いを弱めたまえ。無駄が多いぞ」

 「わかってる!」

 丸メガネの医師に指摘され、エミスが腕に力を込めると、棍棒は火柱を上げた。

 「あのねぇ、君、魔力を消耗したら、魔術は次に君の腕を焼くんだぞ。もう少し加減ってものを考えなさい」

 「わかってる!」

 エミスは歩きながら不規則に炎の量を調整し、たまに大きく黒い煙を吐いた。

 「おぉっ、恐ろしい」

 「何じゃ、悪さでもしに来たんか」

 「あの火柱!怒っとるんじゃよ!」

 この日の夕方、二本角の燃える鬼は、下之町の町民を大いに恐れさせた。


 「端的に説明する。私の憶測も混じっているから、違っている事があったら教えてくれ」

 下之町の町外れにある、今は使われていない打ち捨てられた診療所に着くと、医師は早速説明を始めた。

 「人は魔具を媒介として魔術を顕現する。魔族は自らの肉体を媒介として魔術を体現する。この事が人と魔族を決定的に隔てている。人と魔族の違いだ。魔族の側にどんな魔術体系があるかは知らない。知っていれば、ぜひともご教授頂きたいが、君は…、どうかな、魔術の知識の方は」

 「習ったぞ、忘れた!でもフェリオが詳しい」

 「君とよく似た、もうひとりの魔族の子かい。出身は?」

 「なあ、この棒くれよ」

 陽に焼けた古い紙のカルテが散らばった机に腰を下ろすと、エミスは手に持った二本の棍棒を振った。その火はずいぶんと弱々しくなっている。風邪の子供が、無自覚にはしゃいでいるかの様だ。

 「…話を戻そう。人界の魔術についてだ。魔具を用いた魔術は国によって個性はあれど、魔力の使い方で考えれば、大方二つしかない。呼称は異なれど意味は同じ、このクニでは(スー)(ハク)。大陸では吸入型と奏で型、なんて言い方もする。魔力を一時的に体内に取り込むのが(スー)。大気中の魔力を魔具の表面に走らせるのが(ハク)だ。上位の騎士は、この二つをうまく組み合わせて戦う」

 「おれはどっちも出来るぞ」

 「そこなんだ。君、なかなか鋭いじゃないか」

 「エミスだ」

 エミスは得意げに棍棒を構えようとするが、医師が手でそれを制止し、再び横一文字に腕を伸ばされる。

 「(スー)は、言ってしまえば魔族の真似事だ。そうでもしなければ、魔力で強化された魔族の身体能力に敵うはずがない。ただ、人の身体で取り込める魔力量には限界があるから、それを見極めるバランス感覚が必要だ。日々、自分の身体と、魔力とに向き合って、少しずつ吸入する量を見極める必要がある。

 (ハク)は騎士に代表される魔具の使い手の技。何世代にもわたって継承されてきた人界の宝だ。君は騎士の剣技を使えるんだろ?」

 「エミスだ!タロさんに習った」

 再び騎士の剣技の構えを取ろうとして、手で制される。

 「魔族だから当然に(スー)を扱える。それこそまさに呼吸をするように。そして騎士の剣技、すなわち(ハク)も理解している。そこで私は思い至ったのさ…。いいかい、よく見ていたまえ」

 医師は両手をゆっくりと胸の前で合わせると、じっと遠くを見るように、それでいて手元に集中しているように、その型を維持した。

 やがて医師の両手の、合わせた間、手の指のふちから、泡のように軽く、魔力が湧くと、水のようにゆっくりと質量を持って手の甲を這い、腕をびっしょりと濡らすと、肩のあたりで蒸発し、霧散した。あとにはまるで、打ちつける滝の近くまで来たような湿度が微かな瘴気と混じって残った。

 「なんだ、今のっ!」

 エミスは目をまんまるにして、ことを終えた医師の手を見続けた。エミス自身は、感覚的に魔術を扱うために、その魔術の技術的なところはまるでわからなかったが、いつも近くでフェリオの多彩な魔術を見ていたおかげで、医師の魔術の異質さを、直感的に感じ取る事ができたのだ。

 「“みずうり”。このクニで五行魔術と言われる魔術の一つだ。(スー)(ハク)、二つの魔術を極めることで、この五行魔術の段位に達する。二つを流動的に組み合わせ、一つになった姿と言えるだろう」

 「すげー」

 「これを君に習得してもらう。常に二種類の魔術を流動的に扱うことで、その体を焼く火を、手中に収めるのさ。完全に君の手中に収まった種火は、もはや君を焼く事はない」

 「よし!やろう!」

 「うん、やる気は君の美徳。おかげで私は今夜も残業で寝不足。まあいい。火が君を焼き尽くすのが先か、君が火を掌握するのが先か…。君が死ぬまで付き合うさ」

 エミスが片方の棍棒を投げ捨て、一本で騎士剣の構えをとる。今度は制止が間に合わないほど速く、切先は医師の喉元に向けられた。

 「おれの名はエミス。勇者タローの一番弟子で、世界最強の騎士になる男だ」



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