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士獅十六国物語 〜“黒”の転生者狩り〜  作者: ホラナカチリ
④湖の城と海の島】

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④ー2手紙

④湖の城と海の島


2 手紙


 玄関を入るとそのまま地続きにすぐ調理場や手洗い場がある。そこから奥へ部屋が続いているようだが、縦に長く、また仕切りがある為に見通す事はできない。エミスが親父さんに担がれて、フェリオはトバリに手を借りて、奥に入っていったようだ。娘ふたりもわいわいと騒ぎながらついていった。この場にヨルと僕が残された。寝不足と気を張っていたこともあり、ヨルの肩に手を置いて突っ立っていると、船を操舵していた女性が声をかけてくれる。

 「まあ、座りなよ」

 その手にはいつの間にか、あたたかいお茶が用意されていた。


 靴を脱いで座敷にあがる。ヨルはよそ行きの姿勢できちんとしようとしている。えらい。あたたかいお茶を頂くと、少し気持ちが和らいだ。熱いお茶の入ったカップを持って、自分の手が硬く強張っていたことに気がつく。ヨルにはまだ熱かったのか、「あちっ」っと一言こぼしてから、姿勢を正しつつフーフーと息を吹きかけている。

 「いやー、アンタらも大変だったね」

 女性も腰をおろすとお茶をがばっと飲む。

 「あの、聞きたいんですが…、なぜ僕らを助けてくれたんですか」

 「あら、言ってなかったかい?息子から手紙が届いたんさね」

 昨夜、海上に投げ出された僕たちを、彼女らの漁船で順に拾いあげてくれた。僕は最後に船に乗ったので、詳しい事情を聞きそびれたのかもしれない。トバリの落ち着いた様子から、大丈夫とは思っていたが、バタバタしていてまだ話について行けていない。

 「息子って言うのは…」

 「ゼンさね。あの子、仕送りは送ってくるんだが、手紙ってのは珍しいんよ。それで何事かと思ってねぇ。書いてあった場所に行ったら、あんたらがおったわけさ」

 ゼンとは一週間前にみんなで会ったきりだ。その時からこうなる事を予想していたのだろうか。それにしても、逆賊となる可能性がある僕らを助けるために家族を仕向けてくれるとは。ゼンは何を考えているのか。まあ元より何を考えているのか、読めない人だけど。

 「心配はいらないよ。息子の頼みだい、悪いようにはしないさ。ゆっくり休んでいけばいいさね」

 ゼンの母はニカっと笑って見せた。

 「そうだ、お腹減ったろう。朝ごはんしなくちゃねぇ」

 そう言って調理場に降りていった、その時。

 「おい!ここじゃどうにもならなそうだ。中之町の病院まで連れていく」

 エミスを抱えたゼンの父が家の奥から戻ってくる。その後をトボトボとついてくる姉妹の表情は先ほどまでと違って暗く、押し黙ってしまっている。よほどの怪我を見たのだろう。

 「そうかい…。病院が空いてるかねぇ。先生を呼んでもダメそうなのかい?」

 「そういう問題じゃなさそだ。魔術が絡んでて、体の治療だけじゃどうにもならん。もうひとりの坊主も、一応、診てもらったほうがいいだろう」

 「ぼくはダイジョブだよー」

 トバリに肩を借りてフェリオも奥から歩いて来る。顔がいつもより青白い。

 「病院は近いんですか?」

 「坂道を上って行った所にある町の中だ。俺が連れてく、兄さんはここで待ってろ」

 立ち上がる僕をゼンの父親が諫める。

 「僕も行きます」

 そう言った僕に、トバリが目線を送ってくる。作戦指示の時の顔つきだ。

 「私がフェリオさんを連れて付いて行きます。アルクさんはヨルとここで待機していてください」

 「でも…」

 見知らぬ場所で離れて行動するのは危険だ。何があるかわからない。

 「この土地には、私達の知りえぬ事情もあるようです」

 トバリがそう言うと、ゼンの父の顔が曇る。よそ者が出歩くとまずい事があるのだろうか。

 「にいちゃん。ここは俺たちに任せてくれ。誓って悪いようにはしない」

 ゼンの父はまっすぐと僕を見る。目が合うと、ゼンの面影と重なるところがある。

 「…アズマには昔から伝わる教えがある。年長者を敬い、家族を大切にすること。だが、人生で一度だけ、大勝負に出る時に、子が親を“賭ける”事ができる。そんな教えをあいつは、ゼンは覚えていやがった。それで昨晩、あの場所に俺を呼びつけたんだ。船を出せなんて、大陸が嫌になって出戻りの迎えかとも思ったんだがな。あんたらの状況を見てわかったよ。あいつは俺の命を賭けたんだ。あんたらに張ったんだ。あいつの賭けに、俺は黙って従うだけだぜ」

 ゼンの父の気迫に押される。言葉だけじゃない、本気で命すら賭ける勢いだ。

 トバリも僕を見てうなづく。

 「わかりました…。ふたりの事、よろしくお願いします」

 頭を下げると、その後頭部にそっと手を置いてくれた。父の温かさと強さのようなものを、感じたように思う。

 「それじゃ、行ってくる。…頼んだぞ」

 「あいよ!とっとといきな」

 ゼンの母に背中を押され、ゼンの父とエミス、トバリとフェリオが足早に家を出てゆく。

 「さてと。じゃあご飯にするかね」

 申し訳ないけど、とても食事をとる気持ちになれない。ふたりが、傷付いているのに。

 「なんて顔してんのさ。意味ないよ!」

 ゼンの母は豪快に食器を机に広げる。

 「今できることをし!それは食うことさね、さ、二人も手伝ってね」

 姉妹もそそくさと食事の準備にかかる。

 「ほら、アンタらも手伝っておくれね。うちでは黙って座ってたって、ご飯は出てこないよ」

 指摘を受けて僕とヨルも厨房に降りる。

 「さ!朝からしっかり食べないとね!」

 厨房においしいに匂いが広がってゆく。



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