④ー1朝早く
④湖の城と海の島
1 朝早く
ここより海越えどんぶらこ
西には大陸がある
誰が決めたか十六の、国といわれがあるという
西の教え曰く、「士獅十六国。かつて神は人をつくり、十六の国を与えた」ってな
さて、今日はどの国の話を聴かせてやろうか…
“アズマ”はなぁ、十六国ではないんだなぁこれが
泉の国ラクス。海運と島々の国。
その島のひとつがここアズマさ
島と、それから俺たちが“セイ”と呼ぶ西の大陸の一部を合わせてラクス国ってわけさ
おおっと、君主様の事は言いっこ無しだぜ
それとこれとは、また、話が別だぜ
父ちゃん母ちゃんにもいいなさんな
しかしてよぉ、これはこれで、面白い話があんのさ
東の島国アズマ
昔々に、そりゃ大層立派な坊さんが作ったという黒璧
その壁に囲われ、荒波に護られ、よそからの出入りを拒むこのクニに
何年、何十年、何百年に一度
ふらりと来訪者がある
そんな時は決まって何か起こるものさ
それじゃあ、そんな話をしようじゃないか
道端で子供達相手に調子良くハナシを聞かせてやっているその男は、僕らが通り過ぎると、少し顔をあげてちらりとこちらを見上げた。それから、気に止めるそぶりもなく話に戻る。
「さてさて、今度の話はどうなることやら…」
黒壁の動きよって生じた波に誘われ、朝靄の入り江を進むと他にいくつも漁船の出入りがある。この数に紛れれば、騒ぎにならずに済むかもしれない。港は、というよりも、幾度となく増改築を重ねられたせいで複雑に入り組んだ船着場は、初見では全くわからないが、きちんと船ごとに停泊する場所が決められているようで、舵を握る船長(ゼンの母だという)は迷いなく船と船がひしめき合う間のスペースに、迷い無くするりと船を停めた。
漁船を降りると、早朝にもかかわらず、人の往来も多く活気がある。
水揚された魚が、カゴに入れられて次々と運ばれていく。
そんな朝早くに働く人たちの間を抜けると、今度は木造の家が隣同士くっついて、ひしめき合って立ち並ぶ場所に出た。どうやら港で働く漁師たちの住む長屋のようだ。港の騒がしさはないが、厨房から立ち昇る煙と、朝食の香りで、人の気配と活動がわかる。仕事を終えて帰ってくる者たちのための準備だろうか。
そのうちの一つの家に、僕らを助けてくれた漁船の家族は入っていく。
「おら、布団敷いてくれい」
「「はーい」」
傷を負ったエミスを抱えた男は、二人の娘と共に奥へ入っていってしまう。
集団の最後で、どう振る舞えば良いかわからず、敷居の前で立ち止まってしまった僕に、漁船を操舵していた女性が話しかけてくる。
「何してんだいあんた、とっととあがんな」
「あの…、ご迷惑がかかるかも、」
「いーから!」
そう言って逞しい腕で僕の首根っこをつまみ上げる。
「お、お邪魔します」
「はーい!ようこそ、アズマへ」




