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士獅十六国物語 〜“黒”の転生者狩り〜  作者: ホラナカチリ
③【湖の城と海の島

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③ー15魔笛

③湖の城と海の島


15 魔笛


 「聞こえたかい?」

 「あぁ」

 第二騎士団の詰所で待機していたプルソとイエンは、遠くで窓ガラスの割れるような音を聞いた。

 「ゲント殿の方だ」

 プルソは立ち上がると、素早く壁に掛けた騎士剣を取りイエンに投げ渡す。詰所を飛び出して行った二人の様子を見て。他の騎士たちも非常事態を察し、彼らに続く。

 

 プルソは目指す塔の上方を見上げる。

 少し遅れたイエンは、目指す塔から距離のある隣塔を見遣る。

 「あれは、」

 月明かりに塔の輪郭が見えた。塔の上、誰かいる。

 「ラプソディア様か!」

 驚異的な脚力で飛び上がると、空中で剣を振るう。

 魔術の光が、月夜の闇に煌めくと、ゲントのいる塔は中層で真っ二つになり、上層は滑り落ちていく。崖崩れのような音が城内に響き渡る。

 二人は異常事態を確信する。

 「私はゲント殿の所へ向かう!」

 「わかった」

 プルソの言葉の意図を理解し、イエンは進路を変更して、先ほどラプソディアが飛び立った隣塔へ向かう。プルソが現場へ、イエンは隣塔から狙撃。息のあった役割分担がすぐ出来るのも、騎士学院で過ごした日々があってこそだった。

 プルソは鍵の壊れたドアから入り、塔を駆け上がっていく。

 イエンも加速して、隣塔のドアをそのままの勢いで突き破ると、階段を上る。


 イエンは、鍛え上げた肉体を駆使してリズム良く中層まで上がると、ちょうど隣の塔の様子が見える部屋の窓を見つける。騎士剣に魔術を込め、投擲の構えをとりながら、窓を開け放つ。

 「廻れよ回れ、島唄に。焦がれた羽の、風切り音…」

 急いで出てきたので、武装はこの騎士剣一振りのみだ。失敗するわけにはいかない。

 ラプソディアの一撃によって、外に晒され、屋上となったゲントの居室。ゲントと黒衣の男が向かい合っている。階段を上がったプルソもいる。こちらの存在は気づかれてはいないだろう。幸い射線上に勇者殿もプルソもかかっていない。プルソとタイミングを合わせて、一発で確実に仕留める。剣を構えた腕を後方へ引き絞り、状況を注視する。

 「…ん!?」

 ゲントがふらついてプルソにもたれかかったかと思ったら、プルソの体が白く発光しながら変形していく。声はここまで聞こえてこないが、プルソは苦痛に顔を歪めている。

 黒衣の男がそこに突っ込んで行ったが、光に弾き飛ばされた。

 「何を…」

 完全に白い光に呑まれたプルソの全身が、一振りの剣となってゲントの手に握られる。

 イエンは何が起こったか理解できず、手元の騎士剣の魔術は冷めるようにおさまっていく。

 「プルソ…」

 隣塔から発される白い光に照らされて、それでも暗い部屋で一人、行き場を失って下ろされた腕の、イエンの騎士剣は床に着いた。



 「ぼくの前に立つな」

 ゲントの剣から魔術が放たれる。

 ウルクを持った腕で防御の構えを取ると、瘴気を前面に展開する。

 が、インパクトの瞬間に床が抜けて、そのまま下階に落ちる。

 「…何やってんだよー」

 「フェリオ!」

 下の階ではフェリオが杖を構えて待っていた。

 「相手の能力もわからないのに受けようとするなよなー」

 「でも…」

 「もう迷う時間は終わりだぜー。僕らはお尋ね者さ」

 この騒ぎで騎士団が集まってきている。

 「ごめん、」

 天井が落ちてくる。転生者が切り落としたのだ。次の攻撃が来る。

 フェリオを左腕に抱くと、ウルクの瘴気噴出で窓から飛び降りる。下にはすでに数名の騎士達が待ち構えている。

 「このまま降りてー」

 二人の体重を持ち上げることはできずに、そのまま落下する。

 騎士達の真ん中に降り立つと、瞬時にフェリオが杖を振るう。

 「花鳥類類」

 最短の詠唱、素早い魔力流動で、魔術が顕現する。

 フェリオのマントの内から、様々な魔術鳥が湧き出て、騎士達を目掛けて飛び立つ。

 その隙に防風林へ走る。


 「…。」

 「集中しなー、くるぜー」

 後方からの一閃。

剣に魔術を充填した騎士が突きを放ってくるのを、身を(よじ)ってかわす。だが、こちらに追いついて来たのは、一人だけじゃない。機動力の高い騎士二、三人があっという間に僕らを囲み、斬りつける。

 かわしながら僕が瘴気を噴出し周囲に煙幕を広げ、フェリオが魔術で木の根を操るが、その展開より早く間を詰めた騎士の斬撃をフェリオが両手の杖から生じた剣で防ぐ。続けてフェリオを狙う騎士に向けて、ウルクの疾走で突っ込む。なんとか押し倒してフェリオのところに戻りたいが、相手の騎士はウルクの勢いを相殺し僕の動きを止める。すでに背後にはもう一人騎士がいる。その背中越しに見えるフェリオも数人の騎士に囲まれている。

 騎士達の連携は速く、対応しているうちにフェリオと引き離されてしまった。次々繰り出される連撃をかわすのに精一杯で、考えている余裕がない。疾走でこの場を離れようにも、機動力の高い騎士に追いつかれてしまう。

 海風に霧散してしまう瘴気の噴出をやめ、濃密な瘴気に切り替える。斬撃をかわしながら刀身と腕に纏う。さらに魔力を…。強く、強く、濃く、硬く。

 黒布を纏った刀身で、騎士の斬撃を受けにいく。

 が、

 騎士が振り下ろした魔術を帯びた刀身は、瘴気を断ちきり、剣先は後方に体勢を崩して倒れる僕の胸を縦に斬った。

 立ち上がろうとしたところを組み伏せられる。がっちりと押さえつけられた体は動かない。別の騎士がウルクを踏みつける。疾走を仕掛けるが、動かない。ダメだ。僕の全力は、ラクス騎士団には通用しない。

圧倒的な現実を前に、なぜか心では納得してしまう。ごめん、みんな。弱い僕の、わがままに付き合わせてしまって。ごめん。ごめん…。フェリオ、

 「いいってことよー」

 僕の上に乗っていた騎士が吹き飛んで宙に浮く。周りに立っていた騎士たちも地面から勢いよく生えた蛇のように体を這う木の根に拘束される。

 右目に魔術紋章を発光させ、右手に瘴気が湧き立つ剣を携えたフェリオが僕を見る。

 「またがんばろーなー」

 「…うん。ごめん…」

 僕は体を起こす。痛みは気にならない。

 「魔族っ…」

 「魔族め!」

 騎士達は侵入者は魔族だと思っただろう。魔界からの侵攻と。僕の力不足が、目的とは逆の結果を招いた。

 「とっととずらかるぜぃ」

 「…うん」

 失敗を反省しなくちゃいけないのに。僕は弱いままなのに。フェリオのやさしい表情と許しに、心が安らいでしまう。横にいるだけで居心地が良くなってしまう。

 気持ちの整理がつかないまま走り、防風林の終わり、海に面する崖に達する。

 海上に、エミスとヨルが待つ小舟が見える。騎士団の船に追われている。

 「飛ぶよ」

 フェリオの体を抱き寄せて、その左腕を怪我していることに気づく。騎士剣に斬られたのだ。

 「…っ。いくよ」

 「おけおけー」

 ウルクから瘴気を噴射し、崖から飛び降りる。



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