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士獅十六国物語 〜“黒”の転生者狩り〜  作者: ホラナカチリ
③【湖の城と海の島

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③ー13奪うのも失うのも

③湖の城と海の島


13 奪うのも失うのも


 「こんばんは」

 塔の中層階の部屋に、彼は居た。月明かりが天窓から室内の輪郭を浮かび上がらせている。

 少年は、まだ騎士学校に入学したてくらいの年頃で幼さが残る。十四、五才だろうか。僕らが来るのがわかっていたようで、ベッドに腰掛けて、こちらをまっすぐ見ている。その全てを察したような冷たい表情は、彼の背格好に似付かわしくなかった。

 「突然ごめんなさい。あと、勝手に入ってきたことも。どうしても君と話がしたくて」

 少年は少し俯くと、口元で何かをボソボソと呟いた。

 「レベル20、スキルなし、空きスロット無し。そんなのがどうやってここまで…。部屋の外にまだいるな…」

 「あの…、君がこの世界の事をどう聞いているのかわからないけど、以前、君と同じように異世界から転生してやってきた勇者が、魔王を倒した。それでまだ混乱の中にはあるけど、人も、魔族も、次の時代を生きようと、ようやく動き始めてるんだ。だから、」

 「人は魔族と戦う必要はないって、そう言う話ですか」

 ゲントがまっすぐこちらを見つめる。

 「うん、そうだよ」

 「その話は聞いてますよ、僕の前の転生者の事も」

 前の転生者?その言い方には含みがあった。僕らがやってくる事を予見していた事も。

 「あなた方が転生者狩りですか」

 僕に対してだけ言ったんじゃない。扉の外にいるトバリにも気づいている。

 「…僕のしていることが正しいことなのか、わからない。だから君に会いにきたんだ」

 ゲントは何も言わない。助けを呼ぶそぶりもない。彼ならわかってくれるんじゃないか。

 「僕らは争わなくていいと思ってる。人と魔族も。傷つけあうのはもう嫌なんだ。僕にそんな事を言う資格はないけど、奪うのも失うのも、もう嫌なんだ」

 話している間、ゲントは一貫して僕を見ていた。そしてゆっくりと立ち上がる。

 「ぼくは自分の理想を目指します」

 ゲントは腰から杖ほどの長さの白剣を抜く。

 「待って!何で戦わなきゃいけないんだ!?」

 ゲントは首を下方へ傾けると、ため息を吐く。

 「あなたとは、…話す価値もない。理想なき人間は、為政者に従っていればそれでいい」

 僕にはすぐに、彼の言葉の意味を理解できなかった。だからその意味を問いかけようとして、反応が遅れた。白い槍が心臓を目掛けて飛んでくる。

 「え?」

 理解が追いつかぬまま、後ろから飛び出してきたトバリに突き飛ばされる。倒れた床から見上げると、槍は部屋の外へ飛び去り、トバリが腕から流血していた。

 「速いな。それに…。面白くなってきたね」

 ゲントは次の白剣を両手で引き抜く。

 「オブジェクトコントロール」

 両手の白剣が、伸びて槍と成る。その長さを軽々と肩の上に構えると、まるで紙飛行機でも放るように手放す。槍の重さや、投げた彼のモーションからありえない俊速で槍が迫る。物理法則を無視した加速に、本能だけで身体が動き、トバリを貫こうとするその槍をウルクで弾く。その衝撃の重さに手首が軋んだ。それを庇うように瘴気が纏わりつく。

 「ごめん、トバリ」

 「いえ、私こそ申し訳ございませんでした。…今は戦闘に集中してください」

 僕の迷いを、そもそもここにくる前から、トバリは見抜いていただろう。それでも僕の意思を尊重してくれたのだ。そんな彼女を傷つけてしまった。それなのに、まだ、僕は迷ってる。

 「それが以前の転生者が残したっていう勇器(ゆうき)ってやつか。魔術が使えない奴でも僕の攻撃に反応できるほど早く動けるようになるんだとしたら、ここで壊しておかないとな」

 ゲントは白剣を騎士剣に変えると、魔術を込め始める。

 「ここは私が」

 トバリが前に出ると暗器を構える。

 「待って、」

 僕はどこに向かって手を伸ばしているのだろう。

 あてもなく虚空を彷徨う手が、突然、夜風に晒される。

 崖崩れのような、岩が斜面を落ちるような音がすると、天井がなくなった。

 正確には、塔の、僕たちのいる部屋より上の階が、断ち切られて吹き飛んだ。

 呆然と見上げていると、夜空に人影が見えた。

 「ラプソディア・ラクス…」

 めちゃくちゃだ。どこからか飛び上がってきた彼女は、その手に握る細剣(セイケン)で塔を切り落とし、そのままの勢いで迫って来る。

次の攻撃の構えでこの部屋に着地しようとする彼女を、黒翼を背中で翻し、勢いをつけてジャンプしたトバリが蹴り飛ばす。

「逃げなさい!」

そう叫ぶと、トバリはそのままラプソディアに向かっていく。

「すごいな、竜殺しの騎士物語。異世界っぽくなってきたじゃないか」

ゲントはもはや、僕のことなど眼中にないようだ。あるいは初めから。

「待って、待ってよ。僕の身勝手でここまできちゃったんだ。でも、本当に戦いたくないんだ。どうか話を、」

「身勝手ですらないですよ、あなたは」

僕がいる事を思い出したゲントは剣を向ける。

剣先から魔術が放たれる前に、疾走しウルクで騎士剣を弾く。

「待てよっ」

「!?」

動揺するゲントに、切っ先を向ける。

「話を…話をして欲しい」

ゲントはじっと僕の目を見返す。しばらくの沈黙の後、口元に笑みが漏れる。

「ゲント殿!」

 振り向くと、部屋の入り口にひとりの騎士が立っている。一瞬の隙をついて、ゲントがふらりと倒れ込むようにその騎士の胸元に飛び込んだ。

 「オブジェクトコントロール」

 「え?」

 ゲントの手元から、騎士の体が軋み、歪む。

 「ゲント殿?一体何をっ」

 騎士は身体の異変に顔を歪ませる。

 「プルソさん。いずれスキルが宿る空きスロットが二つもあるなんて、逸材ですよ。あんな奴に負けないで下さいね」

 「からだっ、がっ!やめっ…」

 「やめろ!」

 ゲントに突っ込むが、体ごと吹き飛ばされる。


 「うん。素晴らしいですよ、プルソさん」

 体勢を立て直し見上げると、騎士の姿はなく、ゲントの手には一本の剣が握られていた。

 「何を…」

 「力あるものには、それを行使する責任がある」

 ゲントが魔術を込めると、剣は白く、激しく発光した。

 「ぼくの前に立つな」

 ゲントが剣を振り下ろし、煌く魔術を放つ。



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