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士獅十六国物語 〜“黒”の転生者狩り〜  作者: ホラナカチリ
③【湖の城と海の島

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③ー10はらっぱの日

③湖の城と海の島


10 はらっぱの日


 久しぶりにみんなの休日が重なったので、出掛けることにした。

 アプローズの裏にある宿舎を出て、広い通りを何本か越えると住宅地に入り、道も狭くなる。複雑に入り組んだ路地を進み、坂道を登ってゆくと、シーラが通っているという教会が見えてくる。その横道を通り、林道をしばらく行くと、開けた原っぱがあった。

 「こんな所、よく見つけたね」

 この場所を提案したシャッツにきく。

 「いい所ですよね。近くに魔具のクリエイターさんの工房があって、その人に教えてもらったんです。滅多に人も来ない場所だから、安心して遊べますよ」

 街中ではトバリの魔術によって姿を隠されていたヨルが、嬉しそうに駈けて行く。

 「ところどころにある石は、遺跡なんだそうですよ」

 言われてみれば、いくつか岩が土から露出している。古い建造物の朽ち果てた残りだろうか。

 「よし、新技の特訓するぞ!フェリオ!剣!」

 「やだよぉ、おやすみにさー」

 フェリオに剣の生成を拒まれたエミスは、周囲に手頃な枝が落ちていないか探し始める。

 「まずは昼食にいたしましょう」

 トバリの号令で、手製の昼食セットが広げられ、みんなでお昼にする。ご飯越しに見るみんなのリラックスした表情が、とても愛おしく思えた。

 「んお!?」

 食べ物を口一杯に頬張ったエミスが、来訪者に気がつく。こちらに向かって歩いてくるのはゼンだ。彼が席にたどり着いた時には、すでにトバリによって食事セットが用意されていた。

 「お久しぶりです、みなさん」

 「おう!」

 「エミスさん、口!飲み込んでからにして下さいよ」

 「おひさー」

 ゼンは相変わらずの無表情だったが、再会を喜んでくれているように感じた。彼もこのメンバーの一員で、親しい友人の一人、と、彼も思ってくれていたら良いが。


 食事を終えると、早速ヨルを中心に原っぱを目一杯活用した遊びの時間が始まる。

 「アルクさんも、シーラさんも、いってあげて下さい」

 後片付けを手伝おうと食器を集め始めた僕らを、トバリが促す。

 「じゃあ、お言葉に甘えて。行こうか」

 「あ、はい」

 シーラと一緒に、ヨルたちの所へ向かおうとするが、ずいぶん遠くまで走っていってしまっている。楽しそうな叫び声がここまで届いてる。

 「いや、遠いな」

 「ヨルちゃん、嬉しそう」

 「ずっと宿舎に篭りきりだもんね。シーラもよく遊んでくれて、助かるよ」

 「いえ、私なんて。できることが少ないだけですから」

 そういえばシーラと二人で話すのは初めてな気がする。そう気づくと、なんだか少し緊張するな。年下の女の子とはどんな話をしたら良いのだろうか…。

 「僕はここで待ってようかな」

 話題に困って、逃げの一手で腰を下ろす。

 「…。」

 シーラも黙って横に座った。

 トバリとゼンのいる後方と、その他ヨルたちが駆け回る前方の中間地点。実質ふたりだけの空間に戸惑う。

 「…。」

 「…。」

 ハナスコトガナイ。呼吸しよう。あー、新鮮ないい空気だナー。

 「…あの!」

 「はいっ」

 「その…、勇者っ、じゃなくて転生者、と、また戦うんですか」

 その質問には、即答できない。真っ先に浮かんだのはガラー山脈でのリューの顔だった。

 喪失に怒る、あの表情。

心がざわついたのを落ち着けるために、一呼吸おく。

 「わからない」

 それが今の僕の率直な気持ちだった。

 「このままここで…、みんなで今みたいに、暮らす…、」

 シーラも何か考えていることがあるようだった。すなおな気持ちが口を突いて出たのだろう。

 「僕らの、いや、僕の行動が、シーラを悩ませてしまっているなら、ごめん」

 「違います!…そんな事じゃなくて。ただわたしは、今のみんなでの暮らしが楽しくて、だから、ずっと、このまま続いたらいいなって。そう思ったんです」

 シーラ・チャーチ。チャーチはラミ教会で育った子供が名乗る姓だ。ガラーでの戦いでは曖昧になっていたが、今回のラクスでの偵察任務は違う。もし転生者と戦うような事態になれば、それは国との戦い、それも教会国の隣国で。ラミ教への対立ととれる。シーラが困惑するのもわかる。

 「転生者と、もし戦うようなことになれば、初動が肝心になる。圧倒的な“ギフト”で大きな被害がでる前に先手を打たないと。あるいはタローさん、第一の勇者のようにこの世界の知識や魔術を体得されたら、もう僕らには打つ手がない。だからまずは、転生者が戦うべき相手なのか見極めたいんだ」

 横を見ると、シーラはじっと僕の目を見つめていた。いつも俯きがちなイメージのある彼女にしては意外だった。

 「それは、アルクさんたちがやらなくちゃいけない事なんですか」

 「…。わからない」

 「もう、魔王はいないんです。もう怯えずに楽しく暮らせる世の中になったんです。転生者が…もし、悪い人でも、それは教会の騎士の方々がなんとかしてくれます。もう戦わなくていいんです」

 じゃあ何でリーニャは死んだんだ。

 喉まで込み上げた言葉を押さえ込む。

 「僕も…、そう思ってたよ」

 僕が目を背けると、シーラも俯いてしまう。

 遠くからヨルが手を振って、こちらに向かってくる。

 「戦わなくていいなら、それでいいんだ。まずは転生者の意思を確かめたい。それだけだよ」

 「でも…」

 シーラがまだ何か言いかけている時に、ヨルが駆け寄って来た。

 「アルクも!」

 「はいよ」

 シーラも行こう、と言いかけて、別の意味を考えて言い淀む。


 「こちらがガラーのエルフから届いたものです」

 ゼンは持ってきた包みをトバリに渡す。ちょうど騎士剣ほどの長さのある包みは、じゃらりと音を立ててトバリの腕に収まった。

 「ありがとうございます。エルフの皆様にも、お礼をお伝えしなければ」

 「私から手紙を送っておきますよ。ドワーフエルフからは、今度使いごごちを教えてくれと、申し使ってます」

 「そうですか」

 トバリは傍に包みを下ろす。

 「それで、先日お話しさせて頂いた件は、どうなりましたか」

 トバリの問いに、ゼンは間を置く。緊張や動揺からではない。彼独特の会話のテンポだった。

 「ヨルさんを安全にガラーへ連れて行くルートは、いくつか用意できます。まあ、飛行船があれば、問題はないでしょうが。ただ…」

 ゼンの言葉にトバリも片付けの手を止める。

 「私は反対です」

 トバリは食器を見つめたままだ。

 「七日後に、ラクス城内に潜入し、転生者と接触します。もしもの時は、ヨルはガラーへ。その場合の事はレッタさんにお願いしてあります」

 「わかりました」

 余計なことは質問しない。それが、ゼンが飛竜に世話を許されている秘訣だろうか。

 「では、七日後に」



 この日の七日後。

 僕らは、ラクス城に潜入する。

 転生者の考えを知るために。できることなら、僕らの思いを伝えるために。

 シャッツ、シーラ、ゼン。三人を置いて。



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