③ー2港町
③湖の城と海の島
2 港町
海辺の街は、新年の賑わいで活気づいていた。
「教会の栄光」
「人の時代の幕開け」
新年の飾りつけの中には、煌びやかな文字でこのように書かれているものも散見される。例年の新年の祝いとは違った、特異な熱量が感じられる。そう、今回は魔王討伐後、初の元日。暦が更新されるのにかけて、人族の新しい時代の幕開けと言うわけだ。
「うぅ〜」
「ちょっと、離れないでよ」
人混みに押し流されそうになるフェリオの首元を掴んで引き寄せる。さらにフェリオに掴まれたエミスも釣れる。魔術によって二人とも明るい髪色に変色されている。同じ髪色に同じマント。本当にそっくりな見た目になって、The双子といった様相だ。
「みろよ!あれタロさんじゃないか!?」
大通りで行われているパレードの山車の上では、魔王と思われる黒い巨人に向かって行く勇者の人形が、劇仕立てで上演され、人々を集めている。
「アルー、エミス係代わってくれよー」
「もー」
右腕に、人混みが苦手なフェリオ。左腕に勝手に自分の興味のある所へ行こうとするエミス。双子を抱えて、初めてくる街で、お目当ての服屋を探してまわる。僕らは海の国ラクスにやって来ていた。
「拝啓 我が友よ。次の転生者の出現場所がわかった。その場所とは…」
「ラクスのぉ…」
ガラーでの仕事を終え、ネグロへ報告に戻った僕らの元へ、トリトン・ハスタから手紙が届いたのは数週間前のことだった。自室でその内容を見たムート・ネグロは顔をしかめて顎髭を撫でつけている。先ほどまでガラーのレッタやレットくんの様子を聞いてあんなに上機嫌だったのに。
「怪しいぞ!」
「あやしぃー」
「怪しいって何?」
(「元パーティメンバーの前で、あまり失礼なことを言わないでくれよー」)
「怪しいのぉ」
ムートは自然とパイプに手が伸びるが、横目でチラリと見てヨルがいることを思い出して吸うのを止めると、行き場を失った手で机の上の小箱からお菓子を取り出してヨルに手渡す。
ラクス国は、教国プレナの隣国だ。ラミ教の影響も濃いだろう。魔族を見かけることもないのではなかろうか。そんな所にヨル達は連れていけない。
「そもそも、」
考えをめぐらせていると、それを見透かすようにムートが僕と目を合わせる。
「おぬしらが転生者と戦わにゃならん道理はない」
「でも…、放っておいたらいつか魔族排斥に繋がるかもしれない」
現実に世論はそうなってしまっている。新聞は連日、人族の領域が広まっていると伝える。
「それはおぬしの考えか?」
「…。」
「誰かそう聞かされたんじゃなかろうな」
(「アルク君」
トリトンが笑顔で話しかけてくる。
「何でしょうか」
「さっきも言った通り、今後も転生者は現れる。教会が仕切っているわけだから、考えが人界側に偏るのは避けられないだろう。そうなれば、君と行動を共にする魔族のみんなにも、危険が及ぶかもしれない」)
「みな思惑をもって動いとる。考えを知る事は大事だが、最後には自分で決めにゃならん」
結局僕は、ラクスに来ることを選んだ。ムートはその選択を止めるはなかった。
みんなを巻き込んで、
「そんな顔するなよー」
小脇に抱えたフェリオがじっと僕を見上げる。
「いかにも迷子の旅行者って感じでー、カモられるぞー」
「おい!武器屋だ!新しい剣を買うぞ!」
エミスが僕の腕を振り払う勢いで進む武具専門店の隣に、目当ての店を見つける。
『服屋』
これからしばらくラクスに潜伏して、転生者の情報を探る為、まずは地元の人間が利用する店で、服をいくつか揃えるというのが、僕らの任務だ。
「どうだ!」
所狭しと服が陳列された店内の奥の、簡易的な試着室からエミスが出てくる。
「うーん」
普通の店の商品で揃えたにしては物々しいというか、傭兵のように見える恰好だ。よく短時間で的確に選び取ったものだ。武具屋の隣にある店だから、それに合う服も置いているのだろうか。
店主と思われる高齢の女性は、椅子に座ってずっと黙っている。目を細めて、というか眠っているように見える。どうしたものか。
「おーい」
フェリオはダルダルのローブを山のように抱えて持って来る。
なんとかしなければ…。
店主は起きていたようで(少なくとも会計の時は)通貨を渡すとスッとお釣りを手渡してくれた。間がなかったので心配になって、店を出てからもしばらく指を折って確かめたが、お釣りは正確な金額だった。
「「「ただいまー」」」
「おかえりなさいませ」
仮住まいに戻るとトバリが出迎えてくれた。
「…アルクさん」
「…はい」
「風呂行くぞ!」
「…ボクも〜」
「…僕も行ってこようかな…」
「アルクさん」
「はい…」
双子はそそくさと風呂に行ってしまう。薄情者めー。
「貴方がいれば大丈夫かと思いましたが、何ですかその格好は」
僕ら三人の選んだ服は、まあ何というか、布多め、飾りつき、垂れめ、だった。この街に馴染むように、小慣れた感じを演出したつもりだったのだが。エミスの希望、カッコいい。フェリオの希望、ローブ。そして僕はふたりの意見を盛り込んで選んだつもりだ。だった。
「…イケてる?みたいな?」
ダルダルの袖でそれっぽいポーズをしてみる。
「…。」
「ごめんなさい…」
この後トバリにこっぴどく叱られ、ファッションセンス“低”の烙印を押された。
幸い良質な布地が大量に手に入ったので、トバリ様のありがたーいリメイクによって、僕ら三人の服は無駄にはならなかった。
但し、しばらく 新天地でお小遣い無しになった。




