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士獅十六国物語 〜“黒”の転生者狩り〜  作者: ホラナカチリ
③【湖の城と海の島

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③ー1ステータス1

③湖の城と海の島


1 ステータス1


 塔の小窓から、水面を見つめる。

 彼女の瞳に、烈戦の火花が散り、今はただ深く暗く海底のような喪失に色を失う。

 姫騎士ラプソディア・ラクスは、背後の室内で行われる儀式をただ静かに待っていた。

 カタカタと小刻みに窓が震う。

 それでもラプソディアは、背後に目をやる事はなかった。

 ただ、神の領域まで続くという大海をあてもなく見遣っている。


 やがて、部屋から一人の男が出てくる。長身の男は、古いドアの枠に手を掛けて頭をぶつけないようにくぐると、遠くを見つめる彼女に声をかけた。

 「召喚は終わったよ。成功だ」

 「…そう」

 その返事から、彼女の考えている事は読み取れない。

 しかしそれは男のほうも同じだった。整った微笑をいつも浮かべ、決して考えを悟られない。トリトン・ハスタはそういう男だった。人界四天王と称えられ、長く厳しい戦いを共に戦い抜いた二人は、互いの考えを理解し合っているのだろうか。あるいは勇者という支えを失ったあの日に、世界最強のパーティも終わってしまったのか。

 ラプソディアは、通りがけにチラリとトリトンに視線をやると、そのまま室内へ入って行った。そこでトリトンは彼女が裸足であることに気がついた。海に面する冬の古城の床は氷のように冷える。彼女はものともせずにスッと背筋を伸ばし、まるで貴族達が愉しむ舞台の女優のような美しい歩き姿で部屋の中央へ進み出る。

 

 少年はちょうど、部屋に差し込む光を背に受ける形で立っていた。王族が着る洗練された衣服に身を包み(おそらく周囲のマントの魔術師達が着せたのだろう)ラプソディアの次の動きを伺っている。

 彼女は片膝をついた。軽やかに軋んだ床板も、二人の出会いを演出する舞台装置のようだった。

 「勇者様。ようこそお越しくださいました」

 「あ、あの」

 少年はどう振舞って良いのか分からずに、周囲に助けを求める。しかしマントで顔すら隠したモノ達は、ただ直立しその影の奥から、二人の様子を覗くだけだった。

 「我が名はラプソディア・ラクス。このラクス国第二王女にして、勇者様のパーティメンバーでもあります」

 ラプソディアは、視線を上げて転生者と目を合わす。まだ幼い。少年は言葉に詰まりながら、なんとか名乗る。

 「ゲントです」

 それを見届けると、ラプソディアは立ち上がり、ゲントの手を取った。彼女の方がずいぶん背が高く、今度はゲントが見上げるような恰好になる。

 「ゲント。世界は未だ混乱の中にあります。どうか貴方の力を貸して。この世界を救うのよ」

 彼女の優しい笑顔に、ゲントは心を奪われたが、部屋の様子を外から伺うトリトンは、その言葉の虚構を聞き、意味もなく室内の床の傷跡に目線を落とした。

 「うん…」

 ゲントは視線を、あるいは次の自分自身の行動すら、彼女に引き寄せられる。

 「共に魔族を打ち滅ぼしましょう」



 海上に浮かぶ巨大な古城。島自体が一つの城として再構築されたこの場所の、なかでもうらぶれた一つの塔に、新たな転生者が召喚された。吹き荒ぶ風と波音で、言葉はかき消される。

 「貴方なしでは生きられない」



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