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士獅十六国物語 〜“黒”の転生者狩り〜  作者: ホラナカチリ
②【黒の団と舞踏】

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②ー14追撃

②黒の団と舞踏


14 追撃


 小石がたてるパチパチという細かな音を最後になだれはおさまった。土煙を突っ切って、みなの所へ戻る。山の中腹に突如として現れた巨樹で編まれた天蓋は、近くで見るとより一層大きく、現実味のない、おとぎ話の出来事のように思えた。

 「大丈夫か?」

 「うん。大きな被害はなかったよ。ほとんどあの木が受け止めてくれた」

 「そうか」

 レッタは安堵の息を漏らすと、すぐ皆に向き直った。

 「レノエルフ達を追うぞ」


 遠くの山から規則的な光の点滅が飛んで来る。

 「敵数五。レノエルフ四、人族一。山中を移動中」

 メッセージは、距離をとって監視を続ける仲間のライトエルフからだ。レッタは、トバリに背負われ、移動しながらそれらを読解する。

 「分かれて挟み込みますか?」

 「無駄だな。向こうは山中での戦いに慣れてる。その上、攻撃は察知されるから不意打ちもできない」

 「誘われているのでしょうか。また高さを利用されては厄介ですね」

 「何にせよ、一気に全員で攻めるしか無いだろう。このままあいつらを野放しにはできない。振り切りたいのは相手も同じさ」

 どこかのタイミングで、会敵するということか。僕らが彼らを追っているというよりも、戦闘の場所とタイミングを、相手に握られている状況のようだ。先頭を歩く、レッタ・トバリと僕は動けるが、後ろを見ると、後のメンバーはかなり消耗している。頼みの綱であるフェリオがダウンしてしまっているのが痛い。そのフェリオを非戦闘員のシャッツが荒い息で背負い続けてくれている。足場の悪い山道を進むだけでも、みな体力を消耗してしまう。

 チカチカと激しい点灯が、切迫した状況を合図する。

 「来るぞ!」

 レッタがトバリの背中から降りて、弓を構える。

 人影はない。

 木々に囲まれていて、どこから攻撃されるかわからない。全員で周囲を警戒する。

 風に揺れる草木の音だけが耳につく。ただ静かに魔具に魔力を流す。ゆっくりと、音を立てないように。転生者のギフトは、圧倒的な力の権化だ。おそらく彼女の力も、一撃でもくらえば、命を落とすことになりかねない。静かで、目に見えない死が、どこからか迫っている。

 全身の筋肉の硬直に気がついて、あえて脱力しようと試みる。こんなんじゃ動けない。その瞬間に全力で対応できるように、ゆるく、低く構え直す。足運びは舞踏のように確実に、剣筋は、“あの騎士”のように華麗に。

 鋭く風を切る矢の音。

 鉄同士がぶつかる音が続く。音の方を見ると、やじりはトバリが腕を伸ばした先で、見えない何かに当たって落ちた。

 「まだ来ます」

 トバリはその場で両腕を大きく回すと、連続で飛んでくる矢を次々振り落とす。突然の大粒の雨のような音が森の中に響いた。

 間髪入れずに、レノエルフの一人が、集団の中に飛び込んできて、魔具を振るう。両腕に武装された爪のような魔具は、彼の魔力呼応するようにしなり、鋭利な刃が凶悪な爪痕を周囲に刻みつける。

 レッタが素早く矢を撃ち込む。それらは魔具に防がれるが、その衝撃で仕掛けやじりの内部の薬莢が爆ぜて中身の薬が、レノエルフの顔の周りに正確に広がった。初めからそちらが狙いなのだ。

 しかし、彼はこの仕掛けを知っていたようで、素早く木の影に退避した。

 「やっぱバレてるよな」

 レッタが次の狙いを定めながら声を漏らす。同じガラーのエルフ同士だ。戦い方は互いによくわかっている。そのやりずらさに口元を歪ませる。

 周囲の木々にあの凶悪な魔具が擦れる音がする。

 (「どこからくる」)

 あの巨大な爪が展開すれば近づけなくなってしまう。出てきた瞬間、魔具が展開して攻撃が広がる前に、先に本体を叩く。ウルクに一気に魔力を込める。が、

 突如、足元が抜ける。地面が砕けたのだ。周囲を警戒しているうちに上を取られた。山の上方で族長ボレアに背負われた転生者が地面に手を付けている。近い位置で発動した“破壊”は恐ろしく早く激しく広がる。

 ウルクの疾走でその場を離脱する。みんなの状況を確認しようと周りに目を向けると、トバリがレッタを抱えてその場を離れる姿が目に入った。何か黒いマントのようなものが背中にほんの一瞬翻ったように見えた。後ろを見るとフェリオがシャッツの背中から杖を振い、魔術でコントロールされた木の幹でエミス、シーラを掴み上げ、崩落から免れている。フェリオはそのまま後方へ引きつつ、前方に向けて、木の幹を伸ばす。僕らを超え、転生者まで迫る木の魔術を足場に、レッタがボレアに向けて矢を放つ。合わせてトバリと僕が一気に攻め込む。

 族長ボレアに向けた全速力の疾走。彼に届く直前で、横からの衝撃を受ける。

まだ若いレノエルフが僕の体を掴み、そのまま二人で、転生者によって荒らされた山道を転がり落ちる。彼の体の魔術装飾(タトゥー)は熱を帯び、ウルクの疾走に似た身体移動の魔術が発動しているようだ。族長ボレアと転生者から引き離される。引き剥がそうと抵抗すると、彼は距離を取り、指先に刃の付いた両手のグローブの魔具に魔術を発しながら獣のように低く手をついて構えた。

 次の動きに警戒しながら、一瞬、状況を見上げる。

 トバリの姿がない。


 トバリは魔術で完全に姿を隠し、ボレアの背後から、転生者の首元に確実に斬りかかった。しかし、その殺意を感じ取ったボレアが、巨腕の魔具でトバリの剣を掴む。勇器“コング”、魔術による隠蔽が剥がれると、武装された大剣が魔術によって低く唸る。魔具を挟んでトバリとボレアの視線がぶつかる。さらに力を込めるトバリに対し、ボレアも掴んだコングを離さない。膠着状態に、少女の細腕がスラリと伸びる。大剣に転生者が触れると、巨大な鉄の塊同士がぶつかったような衝撃音を発した。


次にトバリが姿を現した瞬間、轟音が山々に響き渡る。

 全員が見上げる中、族長ボレアの背中の転生者に向けて、トバリが手にしたコングが真っすぐ向けられていた。こだまする音が遠ざかっていくと、コングは倒木の始まりのような、パキパキという嫌な音を立てて崩れ落ちてゆく。

 「そんな…」

 魔王を討ち倒した最強の魔具。勇者のギフトによって、世界で最も強化された勇器が、転生の少女の指先から伝わる破壊によって、砕けた。

 ボレアは巨腕を振るい、トバリが弾き飛ばされる。加勢しようと踏み込むと同時に、傍らの敵が突進してくる。

 「行かすか」

 若年のレノエルフ、リューは両手の魔具から素早い突きをくり出す。閃光の連打。一本の剣で受け切れる量じゃない。仕方なく間を取り続けるしかなく、どんどんトバリ達から距離を引き離される。


 「エミー」

 フェリオは手に持った杖を捻るように魔術で変質し、即席で剣を鍛造するとエミスに投げた。

 「おぉ!」

 エミスが受け取った剣を器用に手で一回転すると、切先でなぞられた(くう)が焦げて瘴気の煙が生じた。

 「フェリオさん、大丈夫なんです?」

 「きついー、あんま期待しないでねぇー」

 そう言うと、シャッツの背中に顔を埋めて静かになる。

 「シーラ!またやんぞ!」

 「はい!」

 シーラの返事とほぼ同時に、人数分の矢が的確に飛来する。

 各人の反応する間もなく、地面から突き出した木がそれらの矢を受け止めた。

 「はい…」

 シーラがスレスレで止まったやじりに目を奪われる。

 「頼むぜー…」

 エミスはシャッツの背中から顔も上げずに呟く。

 刃が蠢く不快な音が迫る。

 ノトスの両腕の魔具が長く展開し、エミス達を周囲に現れた木々ごと粉砕しようと振るわれる。エミスが反応し熱剣で防ぐが、鞭のようにしなる腕の勢いを殺しきれずに、先端部分がシーラに直撃する。シーラは手に持った斧で刃が食い込むのは防いだが、後方の地面に体を打ち付けられる。

 「シーラ!」

 駆け寄るシャッツ目掛けて、再び矢が降る。

 「ぬん!」

 エミスが騎士剣を振り抜くと、剣先から噴射した炎が矢を焼き尽くす。

 「大丈夫?」

 シャッツがシーラを引き起こす。

 「すみません」

 シーラは先ほどの衝撃でポケットから転がった魔具のパーツを拾い上げる。

 「いいかい、その魔具は一撃のインパクトを高めるために作ったものなんだ。嵌め込んだカートリッジは消耗品だから一回の使用でダメになる。そもそも連続した攻撃の為の魔具じゃない」

 「シャッツさんがこの魔具の制作者だったんですか?」

 「まだ職人レベルじゃないんだけどね」

 それゆえ、この双斧の魔具には製作者の名前も、工房や国の紋章も無かった。

 「みんなみたいに戦えない。それでも届く、一撃のために、この魔具は作ったんだ。まさかシーラが持ってたとは思わなかったけど…。とにかく、使うタイミングを見極めて」

 「あの…、はい。やってみます!」

 シーラは斧の背に空いた窪みに、カートリッジを嵌め込む。本来の形に完成した魔具は、血が通ったように柄の木目に魔力の通り路が浮かび上がる。

 「…くるよー」

 シャッツの背中から、フェリオが警告する。

 ノトスの凶悪な腕が振るわれ、的確な間でデュシスの矢が降り注ぐ。


 レッタは破壊によって割れた斜面と、フェリオが這わせた木の幹の隙間に身を隠しながら、トバリを援護するように、ボレアと転生者に向けて矢を放つ。かなり距離があるにも関わらず、矢は全てボレアによって弾き落とされた。こちらを見てもいない。虚空から突如として繰り出されるトバリの体術にも、反応している。味方は分断され、攻めようにも決め手を欠いている。このままでは押し負ける。


 「何がしたいんですか、あなた達は」

 その問いかけに、リューは答えなかった。

 「彼女の目的はなんですか。同じエルフが傷つけられるを見て、あなたは何も感じないんですか」

 リューは顔をしかめると、次の攻撃を繰り出した。

 「黙れ」

 リューの全身の魔術を用いた走りと、ウルクの疾走はほぼ同じ速度だ。

 彼の連続攻撃を避けながら木々の合間を縫って、走る。形態の異なる二つの移動魔術が、風をきって葉を揺らす。衝突しながらも立ち止まることなく走り続ける。考えるまもなく次の攻撃が来る。追い付かれないようにウルクに魔力を注ぎ込むしかなかった。

 レノエルフにだけ聞こえる特殊な笛の音が空気を震わすと、彼らは素早く身を引く。

 上方でボレアが屈むと、転生者が再び地に手を付く。


 より広範囲に広がった土砂にのまれた体を引き起こし、土煙が収まる頃、レノエルフたちは姿を消していた。フェリオの木の魔術がキャッチしてくれたおかげで、下まで流されずに済んだ。下方を見ると、川のように崩落がどこまでも続いている。

 荒れた斜面で、皆膝をつく。トバリだけが土砂を免れたようだったが、その場にまっすぐ立ち、手に残ったコングの柄を見下ろしている。

 勝てるイメージが湧かない。こちらの攻撃を完全に察知するレノエルフの感性。それに護られる転生者。ボレアの巨腕と比べ際立つ、細く白い腕。ゆらゆらと生気なく垂れるあの腕が触れるだけで、勇器ですら破壊されてしまう。

 皆が敗北に黙り込む中、レッタがふらつく足で立ち上がる。不安定な足場におぼつかない足取りで、それでも斜面を登り始める。

 横を通り過ぎる時、僕の頭の土を手で払うと、呟くように、まるで自分に言い聞かせるように言った。

 「もう一回だ」

 その言葉に呼応し、皆立ち上がる。

 気づけば、破壊によって開けた空に陽が高くあがっている。聖域に入ってから感覚が麻痺していたようで、真上からの日光で、体に時間の感覚が戻ってくる。

 澄んだ空気に陽の光がよく通り、周囲の木々の影を消す。心の内のネガティブな翳りも、洗われるようだ。

 大地に真っ直ぐ立つものだけが、その恩恵を一身に受ける。


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