表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
士獅十六国物語 〜“黒”の転生者狩り〜  作者: ホラナカチリ
②【黒の団と舞踏】

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

29/136

②ー13“破壊”

②黒の団と舞踏


13 “破壊”


 ビルの屋上から、夜の街を見下す。

 単調な光景のせいで、かえって頭の中を嫌な記憶が回る。悴んだ手に爪をたてる。その小さな痛みだけが、傍に寄り添って、自分の存在を認識させてくれる。

 上体を乗り出して下を見ると、一階に入ったコンビニの明かりが、無機質に路面を照らしている。ストレスで渇いた喉から唾を捻出して、吐き捨てる。風に煽られながらゆっくりと落ちていったように見えたが、路面にぶつかると、パチンと、想像以上に高く大きな音が鳴った。咄嗟に身を隠す。…何やってんだか。暗い屋上で一人うずくまっている事が、おかしくバカバカしい事だと気がついて、今度は両手を大きく広げて、ふらふらと歩いてみた。それからそんなことも全部、全部全部、どうでもよくなった。こんな世界、ぶっ壊れればいいんだ。いい事なんて一個もなかった。自分以外の誰かに得をさせるために、生かされていたくなんてない。くだらない。

 再び、下を覗き込む。

 わたしは落ちるんじゃない。この星に激突して、ぶっ壊してやるんだ。

 屋上のヘリに立つと、両手を広げる。ゆっくりと体から人生が抜けていく。力なく、空っぽになった私の身体が、地球にぶつかって、破壊してやるんだ。世界は砕けちる。きっとそう。後のことなんて、知らないけど…、


 嫌な記憶。気がつくと霧の中で、叫んでいるのはわたしか。気持ちの悪い金切り声が、喉から鳴っている。自分の意思とは関係なく、いや、むしろ心をそのまま表すように、わたしはその場で暴れていた。周囲の地面は“ギフト”によって酷い有様だ。その様子を少し離れた所から、レノエルフの三人が見てる。当たり散らす様に暴れる身体のお腹辺りを覗くと、リューがひとりで抱きしめるように抑えこんでいた。そんなに必死な顔して。

 「もう大丈夫」

 息を整えながらそう言うと、リューは子犬のような目で、わたしを見上げた。

 落ち着いたのを見計って、三人も近づいて来る。

 「この場所から聖域に入るのは難しいようだ」

 族長ボレスの言葉で一行は来た道を引き返す事になった。


 振り下ろす灼熱の騎士剣を、手刀の甲で弾き、いなされる。

 「まぢかよ!」

 「ヨユーだね」

 隙ができたエミスに軽く触れるような手つきで、ソーマの突きが繰り出されると、エミスの体は後方に弾き飛ばされた。

 「エミスさん、」

 シーラが交代でソーマに向かっていこうとするが、すでに体力と魔力を使い果たし、酸欠状態で、立ちあがろうとする膝に力が入らない。

 エミスとシーラが連携して攻撃を続けてきたが、まるで成果を上げていなかった。

 「ヨエーぞ、お前ら」

 ソーマはまだ体力を十分に残しているようで、膝を曲げ伸ばしして運動するようなそぶりを見せる。

 「…強すぎる。斬撃も魔術もまるで効いてない」

 シャッツはエミスを守るように距離を置いて警戒している。鞄に差し入れた手に、いざという時の為の魔具を握りしめて。

 エミスが飛ばされた木々の間から火柱が上がる。

 「くそーっ!こんなに強いのかよぉ!」

 ふらつきながらも立ち上がり、剣を構える。

 「ソーマは三人のエルフで一番よわいのによぉ」

 「あぁん!?」

 「だって下っ端だろ!」

 「テメェ、ブッコロだぜ」

 ソーマは両手の拳を胸の前でガチガチとぶつけながらエミスに近づいていく。

 エミスは騎士の剣術の構えで、剣に魔力をさらに込めていく。

 「熱剣っ!熱!熱熱熱熱熱っつけん!」

 剣に凝縮された炎は、エミスによって過剰に加熱される。

 「いくぜクソガキ」

 「こい!」

 ソーマが拳を引き締め、エミスがグツグツと煮えたぎる剣を振り上げたその時…

 「ふげッ」

 「行きますよ、皆さん」

 突如、緑の迷路を抜けて現れたトバリの靴が、ソーマの横顔を踏んだ。

 放たれる直前で行き場をなくしたエミスの“炎上”は、魔術のバランスを崩し、魔具である騎士剣自体を侵食し、弱々しい煙を吐いて消えた。

 「行きましょう!」

 惚けたエミスの腕をシーラが引っ張る。

 「待てお前ら」

 ソーマは追撃の構えをとる。トバリはシャッツが鞄から出した魔具を見ると、素早くソーマから離れる。タイミングをあわせてシャッツが手に持った魔具をソーマに投げつける。それはソーマに当たると火薬が爆ぜ、けたたましい音を発し、煙を噴き出す。

 「なっ…まてっ…うぇ、何だぁこれ!」

 仕込まれた多量の香辛料にむせるソーマを後に、一行は霧と緑の迷路を抜け出した。


 「すでにレノエルフたちは聖域を出ているようです」

 行きに通ったトンネルを、僕らは引き返していた。トバリにおぶられているのが気恥ずかしくて、どさくさに紛れて黙って降りた。

 「結局、何がしたかったのかな」

 「“聖域”のエルフに自分達のやってることを認めさせたかったんだろ。三人のエルフには会えずじまいだったみたいだがな」

 トンネルの入口で合流したレッタは落ち着いていた。トンネルの入口付近は、行きには無かった大きな“破壊”の跡がいくつもあった。おそらく転生者が聖域内で暴れたのだろう。これほど強大なギフトの持った転生者を僕らで止める事ができるのだろうか。それでもレッタは、ずっと先の獲物の動向を窺っているような、鋭い眼光で、ただ来た道を引き返し、転生者たちを追うことを提案した。

 「わたしたち、会いました、ソーマに!」

 戦闘の緊張から解放されて元気になってきたシーラとは対照的に、いつも騒がしいエミスがしょげて何も言わない。エミスの手に握られた騎士剣は、一度すべて溶けた鉄が少しだけ残ってかたまり、不恰好な針金のようになってしまっている。

 「…デタラメなことするからだよぉー…」

 「フェリオさん!」

 シャッツの背中の鞄に、くくり付けられるような格好で背負われたフェリオが、か細い声をだす。

 「何だよぉ、お前寝てたぞ!」

 「面目無いねー」

 「そんなことありません。フェリオさんがぼくらを魔術から守ってくれたんですよね?」

 「どうだかねー」

 フェリオはまだ意識がはっきりしないようで、痛む頭を庇うようになでている。

 「シーラ、あの斧の、付属品があったろ」

 「え?はい。持ってますけど、シャッツさんが何で知ってるんです?」

 「まあ、とにかく。あれさ、準備しておいて。さっきの戦いで使ってなかったからさ、気になって」

 「はぁ」

 「そろそろ出口だ。皆、全力で警戒しろよ」

 レッタの言葉で気が引き締まる。満身創痍だが、やるしかない。

 出口から差し込む陽の光がずいぶん久しぶりに感じる。


 聖域からトンネルを通って、ファイトエルフの里へ出る。ここからまた、レノエルフ達を探すことになると予想していたのが、すぐに裏切られた。

 出口に一人、レノエルフが立っていたのだ。僕らが来るのを待っていたようだ。

 「ボレア」

 レッタは彼と面識があるようだった。ボレアと呼ばれたそのエルフは、事前にレノエルフについて聞いていた話の通り、顔全体にタトゥーが施されており、本来の顔の印象がわからない程に、威圧的な印象を受ける。

 「レッタ、お前ならわかるだろ、俺たちの望みが。悲願が」

 「…わかるだろ、レノエルフは感じるんだもんな」

 「決別か、惜しいな」

 ボレアは右腕を横に伸ばす。マントから出た腕には、巨大な爪のような金属の部品が武装されている。ボレアが顔面のタトゥーを微発光させて魔術を込めると、金属のパーツはガチャガチャと音をたてながら展開し、巨大な延長された腕となる。さらにその先端からロープを射出すると、遠くの木に固定し、それを巻き取るような形でボレアはこの場から離脱した。

 「全員退避!」

 レッタの声に覆い被さるように、頭上から轟音が近づいてくる。

 山の斜面、上方に人影があった。そこから突如として地面が割れ、噴き出した土砂がなだれとなって落ちて来る。咄嗟の判断で、レッタを担いでウルクの疾走で、ボレアが去って行った方向とは逆に退く。土砂崩れに巻き込まれないところでレッタを降ろし振り返ると、エミスがシーラを、トバリがシャッツとフェリオを担いで逃げこんでくる。フェリオはシャッツの背中越しに弱々しく杖を持ち上げている。この下にはファイトエルフの里がある。目が届く範囲にエルフは見当たらないが、このまま大量の土砂が下っていけば甚大な被害がでる。いまのフェリオは魔術を使えるような状態じゃない。ウルクに再び魔力を込め、瘴気を排出すると、山の麓に向けて走りだす。

 (「間に合え!」)

 頭上を一本の矢が過ぎ去ると、ファイトエルフの里の上空で音を立てて爆ぜた。危険を知らせる為のものだ。山中に潜んで状況を監視していた味方のライトエルフの物だろう。下方にまばらにエルフ達が見えてくる。こちらに目を向けると、迫り来る恐怖に立ちすくんでしまう。轟音は増し、山を切り崩す。その頂点から、生気の無い眼で見下ろしていた少女は、背を向けるとレノエルフ達と共に去っていく。その姿は土砂が巻き上げる粉塵の内に見えなくなる。

 疾走で里まで何とかたどり着く。エルフ達は逃げ始めているが、混乱の中にある。

 「逃げてください!」

 山に近い家から声をかけ、逃げ遅れたものを探すが、追いつかない。飲みこまれる…。

 その時、なだれの轟音を刺すように、別の大きな音がする。山を見上げると土砂を突き刺すように、ちょうど僕らが通ってきたトンネルの辺りから、何かが突き出して来ていた。その動く巨木の幹の束は土砂を取り込みながら展開し、ファイトエルフの里に影を落とすまでに成長してゆく。密集し絡まりあいながら里の一部を覆うほどになった天蓋は、傘となり、土砂から里を守った。天蓋が取り漏らした岩がいくつか転がってくるのをウルクと噴出する瘴気で弾き飛ばす。聖域のエルフが、助けてくれたのか?


 「いいのかよ」

 「…。」

 ソーマの問いかけに、パギは答えない。

 庭園の中央に設けられたティパーティーの会場に、三人のエルフが集う。

 「穴を塞いだだけよ。ね、パギ」

 テーブルについた三人は、誰からともなく目を伏せると沈黙の中で瞑想とも祈りともとれるような時間を挟む。

 「外のことはエルフの子に任せるだけだ」

 「あと、あの面白い子達にもね」

 「あいつらヨエーぞ」

 カップを手にとると、揺れがおさまってゆく水面に外の様子を伺う。

 聖域に静寂が戻り、ふたたび深く閉じられた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ