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士獅十六国物語 〜“黒”の転生者狩り〜  作者: ホラナカチリ
②【黒の団と舞踏】

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②ー8岐路

②黒の団と舞踏


8 岐路


 飛行船は、補給の回数を減らしたり、飛行ルートを工夫するなどして、行きよりもだいぶ少ない日数で、ライトエルフの里に帰って来られた。

 僕らを待ち構えていたレッタの表情は険しく、事前にフェリオが送った魔術鳥によって、大体の事情は把握しているようだった。

 「レノエルフがドールエルフの街を破壊したと」

 レッタに通された里の集会所の机でレッタは腕を組む。皆の前にはガラーの大きな地図が敷かれている。

 集まった他のライトエルフ達も、懐疑的な目を向けていた。

「レノエルフとドールエルフ間の地形は、この時期、最も行き来が厳しい。雪が降り積もる中、山越えはまず無理だろう。それに街を壊したというのも、レノエルフは耳エルフのような大規模魔術は扱えない。ありえない…」

 レッタは瞼を閉じて俯く。息を吐き、一呼吸おくと、忌むべき言葉を言うように、噛みつぶすように言葉を吐いた。

 「転生者…なのか」

 自分の故郷に転生者が現れたかもしれないことに、最もショックを受けたのはレッタだろう。直接その身に被害を受け、恐ろしさを知っている。

 「確かめに行けばいい!」

 エミスの言葉に、僕らは既に同意していたが、商会の三人は眉をひそめた。彼等には状況が理解できていないのだろう。ここに来たのも、レッタにガラー内の抗争を連絡するためと思っていただろうし。

 レッタは俯いたまま対応を熟考しているようだった。

 「もし…」

 僕は腰の剣の柄に手を置くと、覚悟を口にする。

 「もし、ガラーの問題に僕らを巻き込むことを躊躇しているのなら、それはいいよ。僕はエルフの問題じゃなく、レッタの問題に、力になりたい。そう思う人だけがついて行くよ」

 「アルク…」

 やっとレッタと目があった。

 「大変なときは、頼ってほしい」

 レッタは腕組みを解くと、見た目相応の、同世代の女性のようなフランクな表情で言った。

 「よく言うぜ…。そうだな。私たちでやるしかないか」

 方針が定まったようで、レッタは村のエルフ達に、指示を出し始める。


 飛行船組も問題に直面していた。

 「ヨルはここで留守番だよー」

 「やだ!わたしもいく!」

 本当に正体不明の転生者相手の戦闘になるのであれば、ヨルは連れてはいけない。ライトエルフに頼んで、ヨルを預かってもらうように話はついている。

 「ヨル、ヨルはここでみんなを守って欲しい。レットくんやエルフの子供たちは不安だと思うんだ。ヨルがみんなを勇気づけてあげて」

 「うーん」

 不満そうではあったが、何とか折れてくれそうだ・

 「わたしも“黒の団”だよ」

 「知ってるよ。ヨルが決めた名前じゃない」

 「うん」

 ヨルは誇らしげに、胸を張る。

 「“黒の団”?」

 様子を見ていたシーラが不安そうな表情を浮かべている。当たり前だ。

 「そう言うわけだからー、シーラはここでヨルを護衛しておいてねー」

 そう言い残し、エミスはさっさと船に戻って行ってしまう。

 「私は皆さんについて行きます。皆さんだけでは、あの船の性能は引き出しきれない。

 ゼンはフェリオを追い抜く勢いの早足で船に向かう。

 「じゃあ俺も…。何ができるわけでもありませんが…」

 そこまで言って、シャッツはなぜか僕を見る。

 「何が起こっているのか、知らないのは嫌なんで」

 気を張っていたのに、思わず口元が緩むと、シャッツもニヤリとして船に向かって行った。

 「なんだ!?みんな行くのか!よし、行こう!」

 エミスは揉めた時には自分が何とかしようと思っていたのか、出番がなくて少しがっかりしたようだ。

 「行こうか」

 「おう!」


 「シーラ、」

 ふたり残されたシーラにヨルが話しかける。

 「あのね、わたしは大丈夫だよ」

 状況が整理できずに立ち尽くしていたシーラは、膝をついてヨルに向き合う。

 「だからね、みんなを守ってあげて」

 「私…」

 シーラは真っ直ぐ見つめてくるヨルの瞳の中に、困惑する自分の姿を見つける。こんな自分であるために、この仕事を引き受けたんじゃない。

 「わかった。行ってくるね」

 「うん!」


 皆が飛行船に乗り込み、サンドドラゴンに飛翔の指示を出したところで、ぎりぎりシーラが乗り込んでくる。

 「いいのか?」

 シャッツが手を貸しながら聞く。

 「私も、皆さんみたいにヨルちゃんの自慢になりたいから」

 「それはいい理由だね」

 向き合う二人は、引き上げた後も手を繋ぎっぱなしな事に気がついて、急いで手を引くと、気まずそうにしている。

 「おれの出番なし!」

 エミスはさっきから行き場のない気持ちを声に出している。一体何を言ってみんなを心づけようとしていたのか、逆に気になってきたよ。

 「進路を東へ」

 レッタが舵輪の前に仁王立ちになって指示を出す。

 その様子を振り返って見た飛竜にも、彼女の意志が伝わったようで、いつもより大きく翼を羽ばたかせる。


 船内には、ヨルをライトエルフの里に預け、レッタと仲間のエルフ二人が増えた。戦い慣れしていそうな二人は、各々自前の使い込まれた弓や剣を持ち込んでいる。鍛えられた大きな体格と落ち着きから、レッタよりも年上のように見受けられるのだが、三人が話す様子から、どうやらレッタの方が年長者のようであった。

 「レノエルフが動くとすれば、その先頭には必ず族長達がいる。長老会の護衛メンバーで、エルフの子の中でも、特に戦闘に優れた者達だ。…(アネ)さん、魔術のことは」

 「こいつらは大丈夫だ。説明して」

 ライトエルフの一人はレッタの同意をえて、神妙な面持ちでこちらに向き直る。

 「レノエルフは、肌に魔術を直接彫り込みます。そのタトゥーによって、魔獣のような身体能力と、予見能力を発現させるのです」

 もう一人のエルフが袖を捲って、自身の腕のタトゥーを見せてくれる。肉食の獅子や毒を持つ蟲の、見るものに対する警告のような柄。彼のはほんの一部分だったが、レノエルフは全身に紋様があるという。

 「特に厄介なのは、自分達に対する攻撃を察知できることだな。予見できる上に対応できる体も持ってる」

 「できれば戦闘は避けたい」

 この騒動が起こってから、ずっと口数の少ないレッタが、重い口を開いた。

 ライトエルフが地図を指差しながら、説明を続ける。

 「そこで我々はガラー山脈南側のルートで東に向かい、北側のルートで戻る族長達よりも前に、レノエルフの里に到着することを目指します。この船ならばそれが出来る」

 ゼンがライトエルフと目をあわせてうなづく。

 「先回りしてレノエルフの里で、彼等の目的を探る。春がきてエルフ達の行き来が増えれば、被害は拡大するだろう」

 「目的は何だ!」

 「エミスさん、それを探りに行くんですよ」

 シャッツはだいぶエミスの扱いに慣れてきたようだ。

 「北側の山越えはかなり厳しい。冬の間は不可能と言ってもいい。案外奴ら、春まで出て来れないなんてこともあるかもな」

 そのエルフの言葉は、数日後にあっさりと打ち破られる事になる。


 ライトエルフの里から東へ数日進路をとり、ファイトエルフの里の上空を通り過ぎようとした時の事だった。

 「うわぁ…」

 皆が窓から下を覗き込んでいるので見てみると、土砂崩れでもあったのだろう。立ち並ぶ家々のうち、山側の数軒が土砂に埋もれてしまっている。しかし、奇妙なことに、近づいてみると、山が崩れたというより、山の中腹の一部から、土砂が噴き出してきたかのように見える。

 里のはずれの山間に船を隠し、要らぬ衝突を避ける為にも、レッタ達ライトエルフが、事情を聞きに行く。ドワーフエルフの里からここまで、可能な限り補給を減らして道を急いできた僕らは、束の間の地上を楽しむ。

 エミスとシャッツが、相撲という、別に船内でもできそうな遊びを嬉しそうにやっているのを横目にみながら、僕はフェリオに“ウル・ク”を診てもらう。あとレノエルフの里まで何日かかるだろうかというような事を話していると、ライトエルフ達が戻ってきた。

 「考えられる最悪なケースだ」

 彼らは身支度を始めながら、そう言った。

 「奴らここから“聖域”に向かったらしい」


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