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士獅十六国物語 〜“黒”の転生者狩り〜  作者: ホラナカチリ
②【黒の団と舞踏】

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②ー6重なる“ウル・ク”

②黒の団と舞踏


6 重なる“ウル・ク”


 (「お届け物リスト③ドワーフエルフの郷。いくつかの木箱、中身は魔具(マグ)制作の為の素材とのこと。取扱注意。」)


 オーロに任された配達の仕事も最後の目的地となった。

 ガラー山脈を西側から北上するルートを進んできた。北側を、いわゆる“魔界”に隣接するガラーを北に向かって進んで行くということは、当然、魔界に近づいていくということになる。

 「何だか空気が変わりましたね」

 同じことを考えていたのだろう。窓の隙間から外を眺めていた僕の横に立ったシャッツが、少し緊張した面持ちでそう言った。

 「そうだね」

 確かに、吹き込む空気の中に、ほんの微かに瘴気のピリつきのようなものを感じた。

 「あの、アルクさんは怖くないんすか?いや、変な意味じゃなく、その…」

 シャッツは周囲を確認した上で、小声で話す。その様子と喋り方に悪意は感じなかった。こうやってこっそりと二人になった時に聞いてきたのも、みんなに配慮しての事だろう。

 「…何も知らずに死んでいく事の方が、怖いかな」

 彼の率直な問いに、僕も肩ひじはらずに、素直に答えた。

 「そうっすか」

 シャッツはそれ以上きいてこなかった。彼の求める答えになったのだろうか。いや、答えなんてないか。

一緒に窓の外を眺める。森の木々はより深く、大地はより険しくなってきた。


 飛行船を降りると、足場は岩だらけで、周辺に立つ太く乾いた木々からも朴訥とした印象を受けた。大小様々な岩の間から、ところどころ湯気のような煙があがっている。

 「煙に瘴気が混じってるから注意してねー」

 フェリオが皆に声をかける。

 「地面の下に魔力が通ってるってこと?」

 何かの文献で読んだことがある。大地を流れる魔力。魔界に関する本だったと思うが、そのような場所では、人界では考えられない事象が起こるという。それゆえ魔術師の実験場などにも使われるらしい。

 「石が育って大きくなるんだよ」

 隣にやってきたヨルが、自分の鞄から絵本を開いて見せてくれる。

 (「コトコト、コトコト、音立てて。小石が育って、大岩に。そこにコケ生え、大山に」)

 絵本のページには、可愛らしい小石が大きな山になって自慢げな表情をしている絵が描いてある。

 「そんなこともあるかもねー。まあ、ファンタジーだけどー」

 「そんなこともあるかもですよ、不思議なパワー、感じます!」

 シーラがヨルの横に膝をついて加勢する。地面に両手をついて、もっともそうな顔をすると、ヨルも嬉しそうに後に続く。

 「おぉー!」

 「シーラが大きくなっちゃう!」

 いつの間にやら、ヨルはシーラと仲良くなっているようだ。フェリオも渋々シーラと仲良くなる事を承認したようだ。怪訝そうな顔をしながらも、どこかうれしそうだ。

 「変な子に育っちゃうぞー」


 ひと通り珍しい岩場の探索を終えると、皆で荷物の木箱を持ち、ゼンの後について目的地へと向かう。どこまでも同じような風景が続き目印になりそうな物もないので、一人では決してたどり着けないだろう。突然、眼前に洞窟が現れた。

 「ここがドワーフエルフの郷です」

 ゼンはこちらに向き直ると、注意事項を述べた。

 「ドワーフエルフの中には気性の荒い方もいらっしゃいますので、刺激しないように」

 「そのような注意事項は、前の町でもお伺いしておきたかったですね」

 トバリの指摘に、ゼンは一言だけ答えた。

 「桁違いなのです」

 全員はてなマークを浮かべたまま、洞窟に入っていくゼンの後に続いたが、その言葉の意味はすぐにわかった。


 暗く狭い道を進んでいくと、突然、煌々とした明かりと熱気に体を焼かれる。さらに騒音が耳を擘く。外からは全く聞こえなかった音が、洞窟の内部で反響し、ハウリングを起こしているようだった。屈強な体つきのエルフたちが、木の幹のように太い腕で、熱した鉄に魔具を打ちつけている。お互いに声を掛け合って、リズムを取ったり、その騒音の中で、大声で怒鳴ったりしているが、エルフ語で話しているようで、内容はわからない。そのうち、一人のエルフがこちらに気がついてこちらに近づいてきたと思うと、手に持った大きなトンカチで殴りかかってきた。

 それを何とかかわしてうちに周りのエルフの何人かも気がついて、加勢してくる。乱闘になりそうな所で、ゼンが一人のエルフの前に歩み出て、何かを言うと、それを聞いたエルフが、他のエルフたちに声をかけて、何とか場は収まった。その間に耳は大音量にやられて聞こえづらくなってしまった。ゼンがハンドサインで指し示す方に進んでゆく。先ほどまで僕らに殴りかかろうと(実際殴りかかってきたけど)してきたエルフたちは、物珍しそうにこちらを見ていた。なぜか大爆笑しているものもいる。


 奥から出てきた、先ほどまでのドワーフエルフと違い、紳士的な身なりをしたドワーフエルフの案内で洞窟をさらに奥に進んで行くと、段々と騒音から遠ざかっていく。通路には所々発光する石が埋め込まれており灯りになっている。古代エルフ語と思われる読めない文字が描かれたタペストリーが壁面にいくつか掛けられている。挿絵から察するに、魔具(マグ)の製作に関するもののようだ。


 奥の部屋には、大量の魔具(マグ)が棚に並んで置かれていた。

「これは・・・」

シャッツは小走りで展示された魔具を見て回る。

各々、部屋で作業するドワーフエルフの指示で、持参した木箱を納品する。

「すごいねー。さっきのエルフたちが、こんな繊細な装飾を施せるとは思えないけどー」

フェリオが展示品を手に取る。

「ガラーの魔具は、その装飾をご評価いただいております」

 ゼンと話していたドワーフエルフが、勝手に製品に触ったことを咎める事なく、説明してくれる。古代エルフ語ではない。

 「エルフの子には、それぞれ得意なことがあるので、その一つの個性を長い時間をかけて磨いていくのです。先ほどは失礼いたしました。彼らもまだ修業中の身ですので」

 「ぶん殴られる所だったぞ!熱い奴らだ!」

 エミスはなぜか嬉しそうだ。

 「あの!埋め込まれる魔術の内容は、ここで決められるんですか?」

 シャッツがいつになく熱心だ。彼が魔術を使う所を見た事はないが、調理器具など、いくつかこまごました魔具を使っているのを見かけたことがある。

 「それはないでしょー。文脈が違うもんねー」

 フェリオがカマをかける。

 ドワーフエルフは敵わないと思ったのか、内情を明かしてくれる。

 「先ほども申し上げた通り、エルフは部族ごとに得意とする技術が異なります。うちでメインに扱うのが装飾部分です。魔術文法についてはドールエルフ、形状についてはライトエルフのように、ガラー全体での分業制になっているのです」

 「装飾って、魔術とどう関係するの」

 僕の声が届く範囲にいた全てのドワーフエルフと、フェリオとシャッツが、冷ややかな目で一斉に僕を見た。

 「アルー、補習だなー」

 「アルクさん・・・」

 「いや、ごめん。今のなしで」

 どうも僕は魔術関係に疎い。自分が使えない、使わないというのが大きいと思うが、どうにも知識が頭に入らないのだ。後でトバリにこっそり教えて貰おう。

「あの、」

 「いや、ごめんなさい。勉強不足で」

 「いえ、それは別に構わないのですが。うちの者が腰の物を・・・」

 「え」

 見ると腰から下げていた収納袋が消えている。それを別の部屋に小走りで去って行くドワーフエルフの腕の中に確認する。あの中には“ウルフ”とリーニャの“ホーク”が入っている。

 「バチが当たったねー」

 フェリオがそれをからかう。

 「そんなこと言ってる場合ですか」

 シャッツが僕の荷物を気遣ってくれる。よかった、そこまで見放されてはいないようだ。

 「ちょっと行ってくる」

 僕は木箱を置くと、走り去ったエルフを追いかけた。


 その部屋には静寂があった。これまで通ってきた場所は、魔具製作にまつわるものや、製品で溢れていた印象だったが、この部屋だけは、四方に一切の装飾がなく、製品もほとんど置かれていなかった。ただ前方の壁の高い位置に一振りの剣が掛けられているくらいだ。他の部屋とのギャップで寂しさすら感じた。部屋の真ん中に、先ほどのドワーフエルフが小さく座って、何か作業をしている。後ろから手元を覗くと、地面に座ったまま作業できる背の低い作業台の上に、いくつかの道具と素材を並べていた。金細工の素材たちに混ざって、“ウルフ”と“ホーク”も並んでいたのだが、一瞥した時にはそこにあると気が付かなかった。そのくらい、何故か、そこに置かれていることに馴染んでいた。そういえば、“ウルフ”と“ホーク”をよく見ると刻まれている魔術的装飾と、机に置かれたその他の装飾品のデザインが同じ事に気が付く。ドワーフエルフはまずリーニャの杖を手に取ると、黙々と作業を始めた。

 どうしたものか。彼からはまったく悪意を感じない。何よりまったくの門外漢である僕より、彼の手に“ホーク”が馴染んでいるように見える。そもそも僕が持っていた事自体に、負い目を感じていたのだ。彼は手入れでもしてくれているのだろうか。そもそも言葉は通じるのだろうか。為すすべなく助けを求めて振り返ると、心配したシャッツが、後を追いかけて部屋に入って来てくれた。

 「?」

 不思議そうな表情を浮かべるシャッツに、僕は両手を軽くあげるジェスチャーをした。

 シャッツはドワーフエルフの手元を覗き込むと、静かにその場に座った。そして微動だにせず、食い入るように彼の作業の様子を観察する。

 コン、コン、コン、

 作業の音だけが、小気味よく部屋に反響する。

 誰も一言も発しない。それくらい一人のドワーフエルフがこの空間全体を支配していた。


 壁に掛けられた一本の騎士剣を見上げる。

一般的な騎士の長剣をベースに、刀身には微細な彫刻が施されており、剣先に独特の反りがある。剣先、鍔、柄の先に独特の反りがあり、植物の蔦のような装飾相まって、美術品のように見える。しかし、近寄ってよく見てみると、表面にデザインとは違う、細かな、かすり傷の様な跡があり、実戦で武器として使われた物であるとわかる。それもかなり古い時代に。柄に見た事のない国の紋章が刻まれている。今はもうない、むかしの国。

「おそいよー」

部屋に入ってきたフェリオの言葉で、静寂が破られる。

状況を説明しようとしたところを、次の言葉に遮られる。

「物騒な事になってるみたいだよー」


ドワーフエルフ一人を部屋に残し、僕らは一旦、皆のところへ戻った。僕とシャッツの戻りを待っている間、休憩にお茶が振る舞われていたようで、皆席についている。ただ異様なのが、テーブルの上座に魔術鳥がいることだ。一瞬、鳥の骨格標本かと思うくらい細く、無機質な白い素材で組み上げられている。微発光する表面の魔力でそれが魔術で動かされているとわかる。

 「どういう状況?」

 空いている席に着きながら、隣のトバリに聞く。

 「お待ちしていたところに、あの魔術鳥がいらして、ドワーフエルフの皆さんに宛てたメッセージをエルフ語でお話になったのです」

 ゼンや、周りのエルフたちが話す様子や表情から察するに、あまりよい内容ではなかったようだ。話を終えると、ゼンが僕らのいるテーブルに戻ってくる。

 「お隣のドールエルフの郷が襲われたそうです」


 ゼンは、ドールエルフが送ってきた魔術鳥が伝えた事を、要約してくれる。

 「ここより北東にドールエルフと呼ばれるエルフの部族が住む場所があります。数日前にそこを別の部族のエルフが襲ったそうです。ドールエルフが言うには、ガラー山脈の東側に住むレノエルフという部族だったそうです。しかしこれには疑問があります。この時期にガラー山脈北側のルートを通ってレノエルフ達がドールエルフの郷まで辿り着くのは不可能に近い。その点にドワーフエルフたちも疑問を感じているようです」

 レッタも確かそのようなことを言っていた。冬の間、ガラーのエルフ達の交流は難しくなってしまうとか。高い山脈で中央を遮られているガラーは、季節の影響を強く受けるようだ。

 「初めのうちは、今後のガラー国としての振る舞いについて協力を求められたそうなのですが、レノエルフ側の高圧的な態度に、申し出を断ると、武力を行使されたそうです」

 今までガラー国をまとめていた長老会の不在により、エルフたちが戸惑うのは理解できるが、そのような争いにまで発展してしまっているのか。

 「ドールエルフは非常に魔術の扱いに長けた部族です。争いになれば、エルフ八部族最強と思われていたのですが。数人のレノエルフによって郷は壊滅したと言っています」

 周りのドワーフエルフ達の動きが慌ただしくなってきた。おそらく今後の動きについての対応に追われているのだろう。僕らはその理由にようやく追いついた。

 「壊滅とは、どういう事でしょう」

 トバリの問いに、ゼンは頭の髪をかいて間を取った。おそらく彼自身、理解が追いついていないのだろう。なにやらゴソゴソと地図と取り出して考え事を始めているフェリオの様子に、僕は嫌な予感がした。

 「言葉通りの意味だそうです。街の建物から何から、“破壊”されたと」


 商会の仕事どころではなくなってしまったが、ゼンがドワーフエルフと話をまとめて、この場所を後にしようという段になって、やっと先ほど勇器(ゆうき)を持ち去ったエルフが部屋から出てきた。元の袋に包まれた“それ”を僕に手渡す。

 「デケタ」

 内を覗くと、剣一振りだけが収められている。

 「ヒトツニナタ。“ウル・ク”」

 リーニャの杖“ホーク”の表面の植物の蔦のような溝を埋めるように、金細工が嵌め込まれている。そして“ウルフ”のふたつの刀身の間にピッタリと収まっていた。まるで最初からそのように設計されていたかのように、“ウルフ”と“ホーク”は重なり、一つの魔具と成った。

 彼には色々と聞きたいことがあったが、今は先を急がなければならない。

 「ありがとう」

 そう一言告げると、彼は満足そうに頷いて、他のドワーフエルフが慌ただしく動き回るなかを、ひとり部屋へと戻っていった。

 その姿を見届けてから、僕も出口へ向かった。


 “黒の団”の船に乗り込むために。


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