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士獅十六国物語 〜“黒”の転生者狩り〜  作者: ホラナカチリ
②【黒の団と舞踏】

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②ー4新生エルフ国

②黒の団と舞踏


4 新生エルフ国


 (「お届け物リスト②新生エルフ国。筆記具、紙。新国家樹立に必要な幾つかの物」)

 レッタの故郷、ライトエルフの里から、北上して行くと、山々の谷間の川沿いに突如として町が現れた。

 船上から遠目に見えるその町の様相は、神秘的なエルフの住処というよりも、見知った人族の地方都市という印象だった。

 人目に付かぬよう、町のかなり手前の山間に飛行船を降ろす。

 「さてと」

 「働くぞー!」

 新生エルフ国の代表という人物に届ける荷物は、筆記具に紙と、一つ一つは大した重さじゃないが、木箱十数個分と、かなりの量がある。僕ら全員でぞろぞろと手に持って運んでいては、何往復もすることになってしまう。

 「先に私がいって、人手を借りてきましょう」

 この中で唯一、相手のエルフと面識があるというゼンは、そう言うと一人、街に向って歩きだす。

 「町の様子を見て参ります」

 「じゃあ僕も」

 トバリと僕も、ゼンを追って、街へ向かう。


 町中に入っても、ライトエルフの里のような、驚きはなかった。というよりも、田舎へきたような懐かしさすら覚えた。家々の作りも、田畑の様子も、人族の町と何ら違いがない。

 「エルフの町って感じがしませんね」

 「はい。この町は比較的新しく、人族の暮らしも取り入れて作られているそうです。街づくりにあたっては、ネグロからもずいぶん人手があったと聞いております。まあ、新しいといっても、私の父や、祖父の代の話ですがね」

 ゼンは目的地へ早足に向かいながら、教えてくれた。

 町の中心部の比較的大きな建物へ近づくにつれて、この町のエルフとすれ違うようになってきた。トバリは黒髪を隠すように、マントで頭を覆った。

 僕らを見るエルフたちのまなざしは、あまり好意的ではないようだ。人通りが増えても、活気はなく、どこか暗い、重苦しい雰囲気がある。町のメインストリートを歩いているはずだが、市場などもなく、店も見かけない。人族の町となまじ似ているせいで、かえって違和感を覚えてしまう。

 「あちらの方が、今回の商談相手です」

 町中心部の大きな建物、教会かと思っていたが、特にそういった宗教的な意味合いのある建物ではないようだ。シンボルマークもなく、ただ周りの建物よりひと回り大きな作りで、昼過ぎの中央広場に、日陰を落としている。

 その建物の前で談笑していたエルフの一人がこちらに気がつくと、歩み寄ってきた。

 「ゼン、いらしていたのですね」

 長髪の若い(そう見える)エルフは、人のよさそうな笑顔で僕らの顔を見ると、その後に少し周囲に目をやって、少し不思議そうな顔をした。

 「ご注文の品、お持ちしたのですが、運ぶのに人手をお借りしてもよろしいでしょうか」

 「それはもちろん…。護衛の方が、いつもと雰囲気が違うようですが…」

 「ええ、新入りでして。おやじのお墨付きの方々なので心配はいりませんよ」

 僕とトバリは、軽く頭を下げた。

 「ならよいのですが、最近はなかなか物騒で…、あ、マルモルが来たようです。町の入り口でいらっしゃるのをお待ちしていたはずなのですが…」

 今さっき僕らが来た方向から、数人の武装したエルフがぞろぞろとやってくる。

 先頭を歩くエルフが、険しい顔つきで話しかけてくる。

 「マルブル!ん?ゼンじゃねえか。お前いつの間に…。まあそれは後回しだ。マルブル、街中に魔族が入り込んでいやがった」

 集団の内から、ヨルがエルフに首の後ろをつかまれて、乱暴に僕らの前にだされた。ヨルは、怖がっているというより、不安そうに周りのエルフたちを見上げていた。レッタの里でエルフと仲良く過ごして来たばかりで、同じエルフから向けられた敵意に理解が追い付いていないようだった。

 僕はいつでも動けるように、左手を“ウルフ”にかけて、魔力を注ぎ始めた。

 「こんなに髪の黒いやつが、」

 マルモルと呼ばれていたエルフが、ヨルの髪を乱暴につかみ上げた(ようとした)瞬間、彼は勢いよく後方に吹き飛んだ。僕がヨルを守ろうと一歩踏み込むより早かった。遅れて周囲に風が吹き、ヨルの傍らに、足を蹴り上げたトバリが立っていた。その場にいた全員が、状況を理解できずに、ただ蹴り飛ばされたマルモルが後方の地面に落ちていく様をゆっくりと見ていた。

 「ゔぇっ」

 マルモルが悲痛な声をあげて地面に落ちると、全員が我に返り、武器を構えた。

 「ゼンさんっ、これはいったいどういうことですっ!?」

 先ほどまで親しげにゼンと話していた、マルブルと呼ばれたエルフが、状況が理解できずにゼンに詰め寄る。

 「髪は女の命と言いますからね」

 ゼンは冷めた目で返す。

 「そんなぁ…。あ、あの!皆さん武器を収めてください!」

 マルブルはこのエルフ達の中ではリーダー格のようで、武装したエルフは、しぶしぶ武器を下した。トバリは少し屈んでヨルの乱れた髪や服を整えている。

 騒ぎに気付いた町のエルフが、集まってくる。

 「ひとまずっ、いったん中へ」

 マルブルは、町中央の大きな建物へと僕らを招き入れた。


 建物内は、外観と同様に質素な作りで、束になった書類を運ぶエルフが行きかう様子からも、役所のようだった。

 先に建物の奥へ進んでいったゼンとマルブルが、何やら話し合っている。人名や固有名詞、果ては古代エルフ語まで、内容がわかるわけはないが、言葉の端から察するに、なぜ魔族を街に連れ込んだのか、差別はないが区別はしたい、街のみんなを刺激したくない、というようなことをオブラートに包んで包んで、配慮して話しているようだ。

 「ヨル、大丈夫だった?」

 トバリに手を引かれて歩くヨルに話しかけると、ヨルは黙ってうなずいた。怖い思いをさせてしまった。どうやら、町に向かう僕らをひとりで追いかけてきたようだ。自分の警戒心の薄さと、動きの遅さを反省した。それに比べてトバリの動きは早かった。先日、トバリに“ウルフ”の疾走をみせた際に、見切っていたことにも納得がいく。いったいどんな魔術を使えば、あんなに早く移動できるのだろうか。トバリの横顔を見ていたら、落ち着き澄ました様子で、じっとこちらを見返された。

 一階の突き当りの部屋に迎え入れられる。今まで通ってきた廊下や建物全体の内装と違い、その部屋だけは絨毯が敷かれ、重厚な本棚に、装飾の施された本が並び、色鮮やかだった。客間か、リーダー格のマルブルの執務室といったところだろうか。

 「まずは先ほどの非礼をお詫びします」

 マルブルは、深く頭を下げた。

 横に立ったゼンは、何も言わない。彼もなかなかわからない男だ。この町のエルフと親交があるのなら、魔族が来た場合にどの様なことが起こるか想定できたはずだ。しかし、僕らに特に忠告するでもなく、先ほどは、マルモルは蹴り飛ばされて当然という態度をとっていた。どこか、衝突を楽しんでいる?(しかし彼はいつも無表情であった)ような。おとなし気な立ち居振る舞いだが、内面はなかなか激しい性格なのかもしれない。とはいえ、こういった状況でありがちな「そんなそんな、もういいですから、頭を上げてください」というセリフを言う役がいないので、マルブルが頭を下げたまま、何とも言い得ない空気になった。

 数秒間の沈黙の後、気まずそうに顔を上げたマルブルが、事情を説明し始めた。

 「…魔王討伐後、その勝利の熱気は収まらず、このまま魔族を根絶やしにするという考えを持つ人もいます。根絶すべき対象にはエルフも含まれるのではないかと危惧していた時に、カロス国での会議に、ガラーの長老会も参加することができました。そこでエルフは人族と争う気はないと、改めて確認しあうはずだったのですが、先日のカロス国城襲撃事件の後、長老会とは連絡も取れず、」

 マルブルは、言葉に詰まると、一度深く呼吸した。

 「長老会は、賊に命を奪われたのだと、そんな考えがガラーに広まってしまった。異なる生活文化をもつエルフ達を、一つに繋いでいるのが長老会です。冬が始まり、連絡も取りづらくなる中、各里の間で疑心暗鬼が生じているのです」

 結局のところ、彼らの魔族に対するスタンスはわからなかったが、ガラーのエルフ達が、緊張状態なのは、伝わってきた。いや、ガラーだけじゃない。どこの国も、いまだ魔王討伐の混乱の中にあるのだ。

 「それで新しく国をおつくりになると」

 トバリが発言すると、マルブルは一瞬硬直したが、真っ直ぐな目で、壁にかけられた士獅(シシ)十六国の地図が織り込まれたタペストリーを見た。

 「作る必要があります。人族に認められる国を。幸い、この地には長老会が主宰する学校が置かれていて、各地からエルフが集まっています。志を持ったエルフが集れば、きっとできる」

 彼は本気でそれを成し遂げる気でいるようだ。この建物でせわしなく動き回っているエルフ達も、彼と同じ目的で動いているらしい。同じ学校の学生達ということか。

 「その為に色々と発注させていただきました」

 やっと話が冒頭へ辿り着いた。ガラーのエルフの事情なんて、まるで知らなかったし、知ろうともしてこなかった。この場所に来なければ、一生知ることも無かったかもしれない。マルブルにつられて見た十六国地図が、以前とは少しだけ違って感じる。“同じ世界に生きているんだ”それぞれの事情を持って。同じ時間で生きる以上、無視はできない。

 「町はずれに用意いしてあります。運ぶのを手伝って頂きたい。魔族に偏見のない方の手をお借りしたい」

 ゼンがそう言うと、マルブルは机の上の魔具(マグ)を操作して、人を呼んだ。


 マルブルが呼び出した数人のエルフと共に、建物を出る。

 入口横には、先ほどの護衛のエルフ達がいて、こちらに警戒の視線を向けていた。蹴り飛ばされたマルモルは、仲間の治療の手を振り払って気まずそうにしていた。

 僕らは飛行船への道を急いだ。


 「大丈夫かい」

 建物から出てきたマルブルが、マルモルに声をかける。

 「いいのかよ、あいつら」

 「これからたくさんの話し合いが必要になる。手を出せば、そのテーブルにすら着くことが出来なくなる」

 「…悪かったよ」

 「それに、手を出す時は確実にしないと」

 「怖すぎんだよ、お前は」


 飛行船の着陸地点に戻ると、船体は隠され、積み上がった荷物の傍らでみんなが休んでいた。

 「遅いよー」

 木箱の上でうつ伏せになったフェリオが、右手の杖を振りながらだるそうに言った。不注意という言葉から最も縁遠い彼が、ヨルがいなくなったことに気が付かないはずは無いだろう。大事に至らないように、何かしらの方法で監視していたと思われるが、何もできなかった僕に、フェリオに何か言う資格はないだろう。

 「どうしたアル!?よりいっそう暗いぞ!」

 「暗くない」

 エミスは、こういうところだけやたら気がつく。

 「さあ皆さん。陽が落ちるまでには運び終えてしまいましょう」

 トバリの号令で、荷物運びが始まる。


 エルフの街。いや、新生エルフ国に最後の荷物を運び終えると、夕景にもう夜が始まる頃だった。

 ゼンとマルブルが、今回の取引に関する書類のやり取りを終えるのを、建物の前でへたりこんで待っていると、横にマルモルがやってきてしゃがんだ。横顔に目を向けても、明かりの灯る町の建物を見たまま、じっとしている。敵意は無いようなので、僕も町並みに目をやる。

 そのまましばらく沈黙が続いた後、やっと彼の方から口を開いた。

 「これ、さっきの嬢ちゃんに」

 そう言って、一冊の本を手渡してくる。持ってみるとどうやら絵本らしかった。彼はこちらを見ようとはしない。

僕はあまり自分から人との距離を詰めるようなタイプでは無いと思う。しかしどうしてか、今は彼と、なんというか、仲良くなりたいというのとも違って。うーん。彼の事が知りたいと?思った。十六国地図を前にしてマルブルの話を聞いた時に感じた不思議な感覚が残っていたからだろう。

 「ここに来る前に寄った里でも、ヨルは絵本を貰っていたよ。そういう風習でもあるの?」

 そう言いながら、なんだかチャラいような気がした。

 「エルフの子らは絵本が好きだ」

 特に訝しげな顔をするでもなく、答えてくれた。よかった。

 「確かに、絵本が沢山あった」

 レッタの里の様子を思い出す。

 「そういえば、古代エルフ語で書かれた本はなかったような」

 「…エルフ語は、それ自体が魔術的な意味を持つからな。読み書きには向かない」

 「だからみんな現代語を話すのか」

 「絵本のおかげだ。本はたくさんあるんだ、ガラーには」

 「それって興味深いよねー」

 突然背後に現れたフェリオに、マルモルは飛び退いて距離をとった。

 「まあまあー。座って話そうじゃないかー」

 フェリオの不敵な笑顔にマルモルは怪訝な顔をすると、

 「その本はやる」

 そう言って立ち去ってしまった。

 「フェリオ、最近ちょっと怖いよ」

 「なんだよー。自分だってー、浮気?じゃないかー」

 「なにそれ」

 「ボクのアルが取られちゃうー」

 フェリオがおふざけで抱きついてくる。

 「なんだよそれ」

 引っ付くフェリオを引き剥がしていると、ゼンが建物から出てくる。

 「行きますよ」


 夜、飛行船は次の目的地に向かう。

 「今日の読み聞かせはこれだよー」

 ヨルの部屋では、恒例の寝かしつけがおこなわれていた。

 「新しい本?」

 ヨルは初めて見る本に目を輝かせている。

 「そうさー。今日寄った町のエルフがくれたのさー」

 ごめんよ、ヨル。君に怖い思いをさせてしまったね。でも、知っておいてほしかったんだ。だって、ボクらの周りはあまりにやさしすぎて、世界は冷たすぎるから。

 「フェリオ?」

 ヨルがフェリオの顔を覗き込む。

 「ん?あぁ、ちょっと考え事―」

 「読む?」

 「はいはい、読みましょー」


 『かしづく騎士とおどる騎士』

 あらすじ

 このお話には、ふたりの騎士が登場する。一人はかしづく騎士。王家に忠誠を誓い、その規律を執行する。もう一人はおどる騎士。領民を集めた舞踏会が大好きで、自身が治めるクニ(領地)の為に剣を振るう。二人は同じ騎士道を歩んでいるはずが、衝突してしまう。問答の様な文章が続き、哲学的でもある。絵本というよりほとんどが長ったっらしい文章。たまに絵、しかもちょっと怖い感じ。だからー


 「そりゃこうなるよねー」

 序盤の数ページで、ヨルは眉間に皺を寄せながら眠ってしまった。

 「マルモル氏―、こりゃヨルにはまだむずかしいよぉー」

 ゆっくりと静かにドアが開いて、騎士二名が様子を伺いにやってきた。

 フェリオは、両手を挙げてひらひらさせる。

 灯りを消して枕元を離れるとき、そっとヨルに声をかける。

 「おやすみ、ヨル」

 その言葉に込めた愛情に、偽りはなかった。


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