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①ー14転生者狩り

①死と転生


14 転生者狩り 


 「はいるよー」

 王座の間の扉を開けて、フェリオが中に入ってきた。

 「な!?西塔にいたはずじゃ」

 王座の影から、ルルが姿を現す。

 「君のマネだよー」

 ルルの胸を、漆黒の刃が貫く。それは、ルルの後ろに立った、魔術によって複製された、もう一人のフェリオの、杖の先から出たものだった。

 「うっ…魔族がっ!」

 「何言ってんだよー、君も魔族じゃないかー」

 ルルが杖を構えようとするが、体から力が抜けていく。

 「穢れた魔族は…教会が浄化するんだ…」

 「余計なお世話だよー」

 ルルの体は、偽物の騎士達と同じように淡い光となって、消えてゆく。微かな光の欠片が飛び去ろうとするのを、フェリオの刃が絡め取った。気泡を出しながら煮えたぎる黒い刃の刃文に、光は飲み込まれる。

 二人の偽フェリオは、ベッドの女性達を抱えると、西塔に向かって走り出した。


 教会の一階では、ムートが一人、祭壇を向つめていた。その老人の姿を確認しながら、勇者デルとトバリが階段を下って行く。

 「あんたか、俺の前の勇者ってのは」

 「おぉ、勇者殿。話がしたいと思っとったんじゃ」

 ムートは振り返ると、勇者を観察した。勇者は、自分の投球が届く距離まで近づくと、立ち止まった。

 「話ってなんだ」

 「この世界のことじゃ…。数か月前に魔王が倒され、まだ混乱の中にあるが、これから段々と落ち着いてゆくと思っちょった。平和っちゅうやつじゃの。月並みな言葉じゃが、その為にわしらは…すべてを懸けて戦ってきた」

 ムートは、じっと勇者の反応を見ている。

 「もう終わりにしたい。人族も魔族も、それぞれの国で暮らせばいいんじゃ。何の問題もなかろぉ」

 「…。」

 「どうかのぉ。おまえさんも穏やかに暮らしてみては」

 「…はぁ。話はそれで終わりか?」

 ムートは殺意を感じ取って、一歩足を引いた。

 「気に食わないものは消せるんだよ、俺は。そういう力を手に入れたんだ。自由にやらせてもらいたい」

 「教会の連中に何を吹き込まれたか知らんが、多くの人族は戦いを望んじゃおらん。魔族もじゃ。ただ種族と国の違いがあるだけなんじゃ。争いは必要ない」

 「知るかよ。この世界の事情なんて」

 「!?」

 「力はもう、手に入ったんだ」

 「おぬしのものではなかろぉ」

 「あんたも俺の世界には要らねぇな…」

 勇者がポケットに手を入れる。

 ムートは素早く背負った盾を構えると、魔術を発動する。

 爆盾“ホエール”。人界最強硬度を誇るその盾は、内側から火薬と魔力を込めることで、前方向に対して、衝撃を放つ。爆ぜる防御、故の爆盾。

 “ホエール”から放たれた衝撃波によって、教会入口付近の壁が崩れる。

 「これで気絶でもしてくれれば、わしが根性を叩き直してやったんじゃがのぉ」

 「…これがあんたのギフトか?爺さんにしては激しいが、俺には効かないみたいだな」

 勇者は何食わぬ顔で、先ほどと同じ場所に立っている。

 「あれ、メイドがいない。おいおい、吹き飛ばしちまったのかよ。俺が貰おうと思ってたのによぉ」

 「ほんとにいいのかのぉ…」

 ムートは、悩ましい、という表情で、膝をついた。

 「おい爺さん、諦めるのがはえーよ」

 勇者は、ポケットから出した球を、手でもてあそぶ。

 「わしゃのぉー、うまくやってきたんじゃぁ…嫌いなやつらとも、うまく付き合えばいいんじゃよぉ…」

 「ムートさん、やらないと球が飛んできますよ」

 姿は見えないが、ムートの傍らでトバリの声がする。

 「わしはもう隠居じゃ。後のことは任せるぞ」

 「承知いたしました」

 「何ごちゃごちゃ言ってんだよ、爺さん」

 「おい若造。一言だけ言っておく」

 「はぁ?」

 「年長者に敬語くらい使わんかい」

 ムートが“ホエール”に魔力を込めると、左右に火種が飛んだ。

 ドンッ

 左右の壁面で爆発が起こったかと思うと、その爆破は次々と連鎖して行き、教会全体を包み込んだ。ムートが事前に仕込んでおいた爆薬によるものだ。支えを失った東塔は直下に、崩壊していく。


 「ふぅ。うまくいったかのぉ」

 “ホエール”を持ち上げて、瓦礫の中から、ムートとトバリが出てくる。

 二人を見つけると、ドゥガー団長が近づいてくる。

 「アルクさんは?」

 「城内の騎士達を引く受けてもらってる。早くここを片付けて向かおう」

 差し伸べられた手に、トバリが大剣“コング”を渡す。

 「いいのですか」

 「これは人界の問題だ。あなた達を巻き込んで悪かった」

 ザクッ…、ザクッ…、

 瓦礫の山を、ドゥガーが登ってゆく。

 積み重なった教会の瓦礫の中央にくぼみがある。そこに勇者デルはいた。体を瓦礫に押しつぶされてはいるが、彼の体に触れている部分は、まだ少しずつ“消去”され続けていた。

 「この教会には、何度か祈りに来たことがある。古い教会で、城下町の民にも開放されているからな。何百年分の“祈り”が、込められていたんだ」

 「フフッ」

 「何がおかしい」

 「俺は間違ってなかった。いつゲームオーバーするかわかんないなら、先に楽しんでおかなくっちゃなぁ」

 勇者は、瓦礫の下で、笑みを浮かべた。

 「貴様は勇者ではない…。森を抜け、迷い込んだ魔獣だ」

 ドゥガーは、“コング”を持ち上げると、デルの体に突き立てた。

 デルの体は消え、乗っていた瓦礫が塵を舞いあげながら落ちた。

 「リーニャ姫…、申し訳ございませんでした…。すまない、タロー…」

 瓦礫の山の上で、天を仰ぎ、ドゥガーは涙をこぼした。


 城内の、魔術で作られた偽物の騎士達を貫いて消し、後は生身の騎士、数人だけになった。ウルフと進んで、止まるという感覚も、だいぶ馴染んできたように思う。魔力切れもない。東塔の方からした轟音も気になるが、今は目の前の騎士達に集中しよう。

 「行きますよ、アルクさん」

 突然手を引かれると、トバリの姿が目に入る。

 「あ、トバリ。大丈夫?」

 「無理しないでくださいと言ったのに、あなたは…。とにかく、ここから逃げますよ」

 「了解」

 トバリの魔術によって隠されながら、僕ら四人は城を出て走り出した。東塔が崩れる轟音で異変に気が付いたのか。城壁の外に人々が集まってきている。

 西塔を見上げると、まだ飛行船の姿があった。

 「あの子たちは、もう。帰ったらお仕置きですね…」


 「フェリオ!まだか!?」

 「何か恐ろしいことが起こる予感がするぞ!」

 部屋に、フェリオ一人を残し、皆は船に乗り込んでいる。

 「ちょいまちー…。よしきたー」

 女性達を抱えたフェリオが二人、部屋に走り込んでくる。

 「お前たち、四つ子だったのか!?」

 「また変な魔術を覚えたな!」

 「よーし、乗った乗ったー。早くしないとトバリに怒られちゃうー」

 船は浮上をはじめ、それを飛竜が引く。

 「さっと帰るぞ!」


 「目撃者が多いですね」

 崩壊した東塔と、飛行船を見ながら、呆然と立ち尽くすカロス国の騎士達の横を通り抜けながら、僕ら四人は正門を走り抜ける。

 「眠らせるかの?」

 「今はこの場を離れることを優先しましょう。これ以上目撃者を増やさないよう、城下町で騒ぎを起こしつつ、走竜を探します」

 「それなら、騎士団の詰め所にいるだろう」

 「わしは爆竹でも仕掛けてくるわい」

 「お願いいたします」

 ムートが城下町に爆竹をばら撒きつつ、僕らはカロス騎士団から強奪した走竜で、カロス国を後にした。


 夜まで走り続け、僕らはカロス国の辺境で野営する。

 飛行船組は無事だろうか。リーニャが連絡用の鳥を飛ばしてきてもいいようなものだが。

 「アルク…、お前に言っておかなくちゃいけないことがある」

 ドゥガー団長が、僕に言う。トバリとムートは、話の内容を知っているのか、目線を落とす。

 「リーニャ姫のことだ…」


 「お姉さまは、乱暴しようとする勇者様から、ずっと私たちを守ってくれていたのです」

 飛行船上では、リーニャの安否を心配するレッタ達に、妹のエリナが話し始める。

 「会議で婚姻の話が出たときも、お姉さまは、結婚すれば、勇者様が他の女性達には手を出さなくなるだろうと考えたのでしょう…。たった一人で、私たちみんなを守ってくれていたんです。それなのに…最後にはみんなの前で…」


 「女王陛下には、姫様達との魔術的な繋がりがあるそうだ。士獅(シシ)十六国中、どこにいても、その存在が感じられていたという。その繋がりが、数日前に突然切れた。それで俺は、国内にいるカロスの騎士達の目を盗んで、お前たちの住む森へ向かったんだ。お前たちなら何か情報をつかんでいるかと思ってな…」

 「…。」

 つまり…、リーニャは勇者に殺されたって言うのか?なぜ?何で勇者がリーニャを消すんだ?理解が追い付かない。いや、理解なんてできない。僕は…、僕は何をやってたんだ。少し前まで、彼女は手を伸ばせば届くところにいたのに。



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