⑧ー10一周忌
10 一周忌
余裕を持って出発したのは、寄りたい場所があったからだ。
ジュアン国辺境の森の奥。タローさんと共に過ごした家。そして彼の墓がある。
ぴったり一年は、過ぎてしまったが、一周忌に、帰りたかった場所。
開けた場所を探して、飛行船を下ろす。
黒の団組がぞろぞろと船を降りる中、つまらなそうにしている虎姫に声をかける。
「きたら?」
「きたら?」
「うちらは敵だったんだから、やめといたほうがいいだろ」
「タローさんは、喜ぶと思うよ」
「なんだよそれ」
めんどくさそうにはしているが、虎姫は付き合ってくれるようだ。
メイドさんたちは一律、降りる気配がない。無理強いするのはやめておこう。
懐かしい小屋を横目に、墓石へ向かう。
トバリが率先して、掃除の用意をしているが、墓は一年前と変わらないようすでそこにあった。
誰か最近、それこそちょうど一年たったころに来て、整えていったらしい。今はもう、枯れた花が供えられていた。
このメンバーと人数で、わざわざあの小さな教会を開けて片付けて祈りをささげるという流れにはならなかった。
墓の周りが一通り片付くと、誰ともなくその周りに集まって、各々祈りをささげる。飛行船の方を見ると、その時だけメイドさんたちが降りてきて、立っているのがちらりと見えた。
一年か。
遅れてしまったから、ちょうどリーニャがいなくなってから一年くらいだ。
ずいぶん生活も変わったし、色々な事があったように思うが、ここへ戻ると、過ごした日々の記憶が、ありありとよみがえってくる。それだけ大切な時間だったんだと、思い知らされる。皆が安心して過ごせる、あの輝く日々をもう一度、取り返さなくてはいけない。ヨルに、不安におびえ逃げ続ける人生を過ごさせるなんて絶対だめだ。
その為なら僕は。
覚悟ならとうにできている。歩みを止めるな。
「そろそろ行こうか、」
名残惜しいが、皆に声をかける。
「きたければ、またいつでも来られるよ」