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①ー12魔族

①死と転生


12 魔族


 フェリオは西塔の廊下を一人で歩いていた。襲ってくる騎士を、魔術で撥ね退ける。

 「この部屋かなー」

 ある部屋の前に立ち止まると、腰にニ十本ほど挿してある杖の中から、右手に二本、左手に三本を、指の間に挟んで持つ。杖を構えると、足で扉を開けた。

 広い部屋の中では、数十人がバラバラの方向を向いて、直立していた。カロス国王や、ガラーの長老会、各国の王族や騎士達という顔ぶれだった。フェリオを見ると、一斉に襲い掛かってくる。

 「ふーぅ」

 フェリオは右手の杖を下から振り上げる。“風”と“加速”の魔術が、それぞれ刻まれている杖。風の刃が発現し、襲い来る偽物たちを撥ね退ける。

 しかし、後方に飛ばされた者も、すぐに立ち上がって向かってくる。

 「じゃあこれでー」

 フェリオは右手に持つ杖の一本を持ち替える。“風”と“圧縮”、二本の杖を持った腕を前に突き出すと、魔術を放つ。高密度の空気の弾丸が、一番前にいた騎士の体を貫いた。

 騎士の体は淡い光を放出して消えた。

 「んー?本体に、還ってるのかなー」

 フェリオは、魔術で偽物たちを押し返しながら、部屋の外へ後退した。

 「結構マジの奴だなー。やるかー」

 左手の杖の魔術を発現させる。“土”“岩”“鉄”。部屋の地面から湧き上がる壁によって、入り口や奥の窓などを覆ってゆく。偽物達は外へ出ようともがくが、部屋は完全には閉じられる。内側からの衝撃で揺れていた壁が、段々と硬くなってゆき、廊下に静寂が戻った。

 フェリオの右目は発光し、魔術的紋章が浮かび上がる。

 「その身を尽くし、その身を尽くせ」

 右手の杖の一本を、出来上がった壁に、ゆっくりと突き刺す。杖は瘴気を発し、黒紫色の火で燃え始める。

 部屋、というよりフェリオによって作らた巨大な箱は、外界と完全に断絶された。

 「いくかー」

 フェリオは、小走りで部屋を後にする。


 「こちらです」

 中央塔四階まで降りると、東塔へつながる渡り廊下へと、トバリが先導する。

 勇者は一度立ち止まって、先に一階へ向かうか考えた様子だったが、トバリについてくる。

 「前の勇者も、何か特別な力を持ってるのか?」

 「はい。ギフトですね」

 「どんなのだ?」

 「魔具(マグ)に魔術を重ね掛けして、“強化”するというギフトです」

 「“強化”か。それは例えば、その辺に落ちてるような石ころにでも、できるか?」

 「魔術が刻まれて、魔具(マグ)となっている物であれば、可能かと」

 「ふーん…」

 勇者は胸元やズボンのポケットに手を入れて、手持ちの球数を確認する。

 「でもまあ、爺さんなんだよな?」

 「戦いからは、距離を置いていらっしゃいます」

 「それじゃあさ、あんた俺のメイドになれよ」

 「我が主の、お許しがなければなりません」

 「大丈夫、俺から言ってやるよ」

 「…。」

 トバリと勇者は、東塔の教会へ向かう。


 西塔、頂上付近の部屋の前。エミスは、上がってくる魔術でつくられた騎士達を、斬り捨てていた。

 「ん!?」

 床がかすかに揺れている。最後の一人を燃やし斬ると、エミスは廊下の先にある階段を見つめた。

 ガタガタガタガタッ…

 廊下を埋め尽くすほどの大量の騎士達が、波のように折り重なって、湧いて出てくる。

 それに向かって、エミスは剣から炎を噴射する。しかし、その騎士達は消えることなく、三つの大きな塊を形成していく。

 三つの塊は圧縮され、天井に頭を打ちそうな程大きな、三人の騎士となった。大剣を構えると、魔力を込め始める。

 「これは…本気だな!」

 エミスも自身の体に魔力を循環させる。体から魔術の炎が生じ、エミスの全身を包み込む。

 「火を灯し、火を燃やせ。炎を燃やし、炎となれ!」

 エミスが剣を構える。それは騎士の剣術の構え。両手で剣を垂直に立てて、体に引き寄せる。エミスの左目が燃え、魔術的紋章が浮かび上がる。すると、全身の炎が消え、剣だけが、熱された鉄のように、赤から、白い光へとなってゆく。

 向かってくる騎士に対して、踏み込むと、エミスはまっすぐに、剣を突き立てた。

 鎧を貫いた箇所から、炎が立ちのぼる。

 「タロさん直伝、熱剣!!」

 貫かれた騎士は、全身を業火に焼かれる。

 「あと二体!」

 大きな二人の騎士は、その場で少したじろいだ。


 城、正面。ここを抜けて城内へ向かおうとする騎士の前に、素早く回り込んでは、押し返す。斬りかかってくる騎士達に、ぶつかりながら疾走しては、距離をとる。何とか“ウルフに”に振り落とされないようにしがみついているが、騎士や地面に打ちつけた体が痛い。

 「はぁ…、はぁ…、はぁ…、」

 「確かに素早い。が、もう見切った。次、間合いに入れば斬り捨てる」

 トーデスの言葉に嘘はないだろう。ほかの騎士達も、初めに比べて、こちらの動きに反応してきている。

 「我々に対する殺意がないことはわかった。しかし、我らとてこの国の騎士、王を護る剣だ。役目を果たさねばならん」

 「はぁ…。ふぅ」

 呼吸を何とか整える。

 「退け、若き剣士よ」

 「いや…、やっと準備運動が終わったところだ」

 剣を持った両腕を垂らし、全身を低く構える。手に持った“ウルフ”を、持ちなおし、強く握る。

 “ウルフ”、俺に従え。奇妙な形をした、その剣の重さ、存在を強く意識する。


 勇者から受け継いだ、彼の意志を。



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