⑧ー6滞在二日目
6 滞在二日目
ぬくい。掛け布団を少しめくりあげて中を見ると、虎姫こと大きな猫が一塊となって眠っていた。一晩中ここにいたのか。
手にあたる毛はふわふわだった。その誘惑に負けて毛並みを撫でる。昨日はどこに当たっても刃物を弾くほど硬かったのに。独特の油のような湿り気はあれど、やわらかい。
体の熱を放出しようとしているのかしっとりと温かい。あごの下を撫でていると喉を鳴らして喜んでいるのがわかる。
「にゃおーん」
全身を一通り撫でまわしたのち、虎姫は一声鳴いて体を起こすと両腕をベッドの上で伸ばした。
「近々、新しい魔界の王を決める為の会合が開かれるという話は、伝わっているな」
朝食のテーブルでの虎姫の発言である。きっちりと独特の衣装を身にまとい、凛とした佇まいである。
「アルバでは魔王様の次男坊が兵を集めているという話だ。有力者一族を牽制するような動きもあった。一方でもう一人のお子であるヨル様も正統な後継者として立候補すべきという声もある。だが、我々が来たからにはもう問題ない」
同一人物、いや、同一動物とは思えないな。
「我はベールの魔獣を率いる王、虎姫」
悪そうな顔を作って両腕を広げる。なんか、仕切り直そうとしているな。
「我らベールはその絶大なる力を持って、ヨル様を新たなる魔王として擁立する!」
「…いずれにしろ、トバリ様が戻るまではここから動けないのだから、それまで大人しくしていて頂戴」
ベルガモットがティカップを傾けながら言う。
「んだこらぁ。うちに命令していいのは旦那様だけだぜこらっ!」
虎姫はベルガモットに食って掛かる。
「なに懐かれてるのよ。あ、あと天井の窓、直しなさいよ」
虎姫の後方に控えていた仲間の一人が進み出た。
「窓の修繕は虎姫様には無理だ。我々が請け負おう」
「どーだっ」
なぜか虎姫は自慢げだ。まあ何とか丸く収まってよかった。
「食べ終わったら探検してきていい?」
ヨルが朝食を食べながらいう。
「どうだろう、いいと思うけど」
するとメイドさんが三人進み出た。
「えっと、ついててくれるってことですかね」
三人のメイドさんの内一人がうなづいた。目を閉じ、表情はない。
「お城からでないようにね」
「ふぁーい」
ヨルは朝食を口の中に詰め込みながら答えた。母親の、そして自分の生まれた場所だ。いろいろと知りたいこともあるのだろう。そのあたりのことにどこまで踏み入っていいものかわからず、僕は僕で、一人で城の探索をすることにした。虎姫は役に立たないなりに窓の修繕に参加するらしい。ベルガモットさんは知らぬ間にどこかへ行ってしまった。今のところ彼女が一番この城になじんでいるな。
さて、昨日とは違う通路のはずであるが、図書館はそこにあった。まあ、一日中捜し歩いて終わるよりはよほどいい。図書館に入る。
紙の匂い。独特の空気。遠くのメイドさんが本を整頓する音が届くほどに、しずか。僕も余計な音をたてぬよう足音にも気を使って本棚を探し歩く。
戦い方を考えなければならない。喫緊の課題だ。ウルクからヒョウエの声は聞こえなくなった。彼の存在とともに、瘴気の生出もなくなってしまった。
今できるのは純粋な体技と剣技のみ。昨晩は特殊な状況下で、たまたまうまくいったが、実戦では通用しないだろう。魔術を使う相手に近づくことすらできない。
これから先、ヨルを魔界側からも狙われることになるのであれば、戦い続けなければ。でも、どうやって。そのヒントになればと、ここの膨大な蔵書を頼ってやってきたのだ。
「何かお探しですか?」
メイドさんが声をかけてくれる。おそらくこれが初対面の、まだ会ったことのないメイドさんだ。いったい何人働いているんだ。
「えっと、初歩的な魔術の解説書か、瘴気に関する本は、ありますか?」
僕の質問に対してメイドさんは手をあごにあてて考え込む。
「うーん。ございます。ございますが、魔術書については、人族の方にお見せしてよいものか確認が必要になります。」
「そっか、そうですよね」
魔術について相手に知られれば、対応される恐れがあるって、ずいぶん前にフェリオから聞いたことがあったな。魔族にとって敵である人族に、魔族の使う魔術の本を見せるというのはたしかに問題になりそうだ。
「瘴気に関する本でしたら、問題ないかと思われます。先にそちらへご案内いたしましょうか」
「お願いします」
メイドさんについて本棚の合間を進んでいく。
考えてみれば魔族である彼女たちにとって、人族である僕は敵なんだよな。もしかしたら色々思うとことがあるのを堪えているのかもしれない。
「こちらの棚です」
「やあ、昨晩は大変だったね」
メイドさんに案内された棚の前ではアランハーズが椅子に腰かけて本を読んでいるところだった。
「おはようございます」
「ああ、外はもうそんな時間か」
アランハーズはあくびをしながら両腕を上に向かって伸ばした。メイドさんは軽くお辞儀をすると、入口の方へ戻っていった。
「みてもいいです?」
本棚の本を指差す。
「いいともいいとも。僕の許可はいらない。読ますかどうかは本か決めることさ」
本が決める?何かの例えだろうか。とりあえず目についた本をぎっちりと詰まった本棚から引きぬく。
表紙の革はすれていてタイトルの文字は読めない。ページに手をかけて開いてみた途端、ぽんと本の中から何かが飛び出した。いや、本自体が変化した。地面に着地したそれは、兎に似た小動物、この特異な変身からして魔獣だろうか。僕の驚いた顔を首をかしげながら見上げているが、満足したのかひょこひょこと跳んで、本棚の合間に消えていった。
「なんですかあれ」
「まあ、盗難防止処置かな」
「読むにはどうしたら?」
「まあ、読ませてくれる温厚な奴を探すか、気分が変わるのを待つか。まあこれはめったにないことだが」
「やってみます」
瘴気に関する本と案内された棚の本を片っ端から手に取り、すべてを兎に変え終わる頃には、アランハーズは自分の本を読み終えたようで、空っぽになった棚に、読んでいた一冊を戻した。
「あの、これお借りしても」
その見込みがありそうな一冊を指差して聞いてみる。
「どうぞどうぞ、僕は読み終えたところさ」
ようやく読める一冊。だがそいつも手に持った途端に兎に姿を変えていってしまった。もはやページを開くまでもなかったな。
「残念だったね」
「どんな内容でした?」
「おお、それもいい方法だね。読んだ人に聞く。だが僕はぁーっ、もう寝るよ」
「そうですか。おやすみなさい」
「まあそう気を落とすんじゃない。他にも本はこんなにある。君にぴったりの本もあるさ」そう言い残してアランハーズは行ってしまった。
困ったものだ。棚一つ全部だめとなると、ジャンルごとに合う合わないがあるのだろうか。
試しに一つの棚につき一冊引き抜いて開くということをしばらくやってみるが、どこも読ませてはくれなかった。だんだん図書館内の兎遭遇率が上がってきて、通路の端でメイドさんが網をもってそれを追いかけているのも見かけた。だからここのメイドさんたちはやたらと本を整頓していたのか。これ以上彼女たちの仕事を増やすのも申し訳ないのでひっそりと図書館を後にする。
出入口の扉を静かに閉めている時、わずかな隙間から兎が一匹抜け出てきた。
「あっ、ちょっとお前」
扉を閉めきり、兎に声をかける。だが、こちらのことなどお構いなしで、庭にむけて駆けていってしまう。
「まずいぞ」
僕の不注意で本が一冊逃げ出してしまった。しかも僕が兎に変えた本かもしれない。とにかく捕まえるために庭を走って追いかける。
入口の庭は綺麗に手入れされて整っていたが、裏庭は草の伸びた場所もあって、兎を追いかけるのも一苦労だ。ところどころ草をかき分けて進むと、城の造りとは違う木造の質素な建物があった。その傍らにある井戸から水をくみ上げて何人かのメイドさんが洗濯をしている。兎はメイドさんたちに気づくと進路を替える。まずいぞ。
おそらくメイドさん達の宿舎と思われる木造建築の入口へ向かっていく。
「勘弁してくれ」
半開きになっていた扉から兎が入ろうとすると、ちょうど中から一人メイドさんが出てくるところだった。
「捕まえてください!」
中に入っていってしまったら僕にはもう、どうしようもできない。僕の叫びを聞いてメイドさんが入口で兎と対峙する。
「ぱたん」
メイドさんのその一言で兎が耳を下げたかと思うと一冊の本に戻り、その場に落ちた。
「すみません、助かりました」
「お客様、ここはメイド以外立ち入り禁止の場所ですよ」
「すみません、兎が逃げたのを図書館から追ってきまして」
「そうであってもダメなものはダメ、決まりは決まりです」
メイドさんは指を立てて僕に言って聞かせる。
「はい。すみませんでした」
落ちている本を拾おうとするのをメイドさんが制して、先に拾い上げる。
「この子、あなたに読んでほしくなさそうです。また兎に戻っては大変でしょうから、図書館へは私が戻しておきますね」
「はい」
収穫はないし叱られるし、散々だな。
「それで何の本をお探しでしたの?瘴気に関する研究書…。なかなかニッチなジャンルですね。読ませてもらえないときは、すでに読んだものに聞くことでしてよ。少々こちらでお待ちになって」
そう言うとメイドさんは建物の中へ入っていった。
ただ戻りを待つ。今日はいい天気だ。青空が広がっている。遠くのメイドさんたちが洗濯ではしゃいでいる声だけが聞こえる。
「おまたせしました」
しばらくしてメイドさんが別のメイドさんを連れて戻ってくる。いかにもダルそうで、メイド服も今無理やり着せられたという風だった。
「魔術に関することであればこの者にお聞きください。ただし場所は変えるように。それでは私は失礼させていただきます」
そういって頭を下げると、メイドさんは洗濯場に向かっていってしまった。遠くで他のメイドさんを叱る声が聞こえる。
「それで?なに」
残されたメイドさんが不機嫌そうに言う。背は低いが態度はでかい。本当に魔術に詳しいのだろうか。
「とりあえず、場所を変えようか。怒られちゃったし」
「ん」
来た道を戻るがその先に図書館はなかった。とりあえず城へ入る路はあったので、そこから城の中へ入る。
ただ、このまま廊下で立ち話というわけにもいかないだろう。
「どこかに話せる場所はあるかな」
「えー。あんたの部屋?」
「それはちょっとなぁ…」
あらぬ誤解を生むのは避けたい。
「んじゃ、あれは?」
そういってメイドさんが指差した先に、たまたま廊下を通りかかったドールエルフの少年少女二人がいた。
部屋を借りてもいいかというと、ドールエルフの少年少女は喜んで部屋まで先導してくれた。部屋に入るとまたベッドの上でふたりで飛び跳ねている。
「よっこらしょっと」
部屋の椅子に腰かけるとメイドさんは手招きをして、早くしろというように問う。
「それで、何が聞きたいって」
僕も椅子に腰かける。
「魔術について。特に瘴気のことが聞きたい。僕は魔術が全然ダメなんだけど、瘴気なら扱えたんだ」
「みしてみ」
「いや、今は使えないんだけど」
「なんかめんどくさそうな話だなぁ。魔術がだめで瘴気を、使うって?基本的な話からすんのか?」
「できれば、基本的な話から」
さんざんフェリオに教えてもらったけど。
もしかしたら何か別の情報があるかもしれない。
「えー、魔力があります。場所によって濃淡はあるけど空気に混じってどこにでもあります。そのエネルギーを魔術構文という指示、仕様でコントロールして魔術を顕現します。その時出る排ガスが瘴気です」
「うん」
「以上終わり。じゃない?」
「うーん。瘴気を操るっていうのはどうかな」
「非効率的。そもそも瘴気は魔術の残りかすだからそれを使うってのはね。いっぱい出すってんなら、そもそもそれだけの魔術を使ってるわけだから、それでいいよね」
「やっぱり魔術メインだよね」
「魔獣が使えないのに瘴気をどうこうってのはどういう話?」
「魔術を使おうとすると、すぐに瘴気になっちゃうんだけど、その噴出を使って移動したりしてたんだよ」
「やってみ」
「それができなくなっちゃったから困っててさ」
一応、ウルクを抜いて握りこんでみるが、やはり瘴気は出ない。
「魔術は?」
「え、いや、魔術は使えなくて」
「ようわかんないなぁ、瘴気は魔術の排気だから、まず魔術は使わないとでしょ。なんの魔術を使ってたの?」
「いや、何か剣の切れ味を上げるようなの」
「適当すぎでしょ、もっと明確なイメージを持たないと」
「どうせ魔術は使えないんだって。それでさんざん、」
「いいから魔術を使え!刀身の魔術構文を詠唱しろっ!」
「ええ?ええと…撃つ!?」
視界が、真っ暗だ。何も見えない。
とてとてと、小さな足音が横を通り過ぎて行って、部屋のドアが開けられ換気されると、視界が開けてくる。
「出るじゃねえかよ」
メイドさんが不機嫌な顔で睨みつけているのが見えてくる。
「ごめんなさい。あれー、なんでだろうね?」
今までのなんかこう、ぎゅっとウルクの柄を握りこむような感覚とは違う。何だ出たぞって感じだが、何で出たんだ?
「よかったな、じゃあな」
「ちょちょちょっとまって」
立ち上がろうとするメイドさんを引き留める。
「今のは何で出たの?」
「しるかぁぼけぇ」
「くろい」
「くらい」
「「やっぱり黒騎士?」」
足元にはドールエルフが寄ってくるし、メイドさんは帰ろうとするし、僕は僕で何が何だかわからない。
「ちょっと、もっかいやるから見てて」
「お、おい。やめろよ」
「「やってやってー」」
ぼふっ
部屋を何度も瘴気まみれにした結果、廊下まで瘴気で見通しが悪くなった。部屋に漂う瘴気もなかなか晴れない。
「どう?なにかわかった?」
「お前ぜって許さねーからな」
「くらーい」
「くろーい」
「なにかヒントだけでも」
「あーもー、しらねぇって、」
メイドさんは少しでも新鮮な空気を求めてか椅子の上に立って両手を振り回して空気をかき混ぜる。
「そっか。まあとりあえず出るようにはなったから、フェリオにでも見てもらうか」
「フェリオ?」
「うん、うちの仲間んだけど、魔術にすごく詳しいの」
「へー。つーかそいつ魔族じゃね?」
「うん、そうだよ」
「なんでお前みたいな人族とつるんでるんだよ」
「つるむっていうか、なんだろ。なんだかんだで一緒に生活してるの」
「そうか」
メイドさん足をたたんで勢いよくソファに座った。
「瘴気は魔術の排気だ。だから燃焼してバラバラになった魔術構文を組み直したら、再利用できるのかもな」
「うんうん」
「そんな器用なことする奴に見えないけどな、おまえ」
「え」
「おまえのは、一瞬だよ、一瞬。ほんの一瞬で魔力を瘴気しちゃって。それを連続させるとかか?そんな効率の悪いことをするやつはいねーけどな。だけどこんだけ瘴気を出して全然疲れてねーなら、まあ、やってみるのもありかも知んねーけど、わたしはしらねー!」
「あっ!」
隙を見てメイドさんは走ってドアから出ていこうとする。
「ちょっとまだ、君、名前は?」
「フェリオ」
「え?」
「そいつがそう名乗るなら私も名乗らせてもらうよ」
そう言い残し、煙い廊下を走っていってしまった。
さて、どうしたものか。瘴気はまた出せるようになった。だが、一瞬だ。前のように噴出しようとしても一瞬で広がってしまう。しかも軽い。余計に瘴気のことがわからなくなった。今こそ研究書が読みたい。
「どうしようかな」
あれ、瘴気の中を走り回っていたドールエルフの少年少女がいない。どこかに隠れているのか。足元の瘴気を払いながら部屋の中を探していると。部屋の照明の光がちらつく。なんだろう接触が悪いのか。近づいてみてみようとすると、部屋の全照明が消える。廊下の照明も消えたようで真っ暗になった。
「私を見ないで」
耳元で声がする。
大人の、女性の声。振り返ろうとして、冷たい手?が顔に触れる。
「私を見ないで」
どうやら声の主は僕の背後に立っているようだった。
「どなたですか?」
とにかく会話を続けよう。こういう切れるんだか切れないんだかはっきりしない相手は苦手だ。
「ドールエルフ。とでも名乗っておきましょう。子供たちと共に、ずっとあなたを見ていました」
うわー、そういうのが一番怖い。いつの間にか居る系とずっといた系。
「勘弁してください」
「…。」
「せめて何か話し続けてもらえませんか」
「貴方の使う剣と瘴気について、わたくしたちからも助言をと思いまして」
「それは…、ありがたい、です」
「まずあなたの使う瘴気。魔力に触れるとたちまち瘴気に変えてしまう。変換効率が非常に高い、魔術に類する機構。人族の言葉では説明に限界がありますが。あなたはそれを扱えるようになってきている」
「前より時間が短くなってるんですが」
「それこそが扱えるようになった証。より明確に、正確な瞬間になせるようになっているということです」
「はあ」
さんざん解説を求めてきたが、こうもはっきり言われると、逆になんか疑わしく感じる。
「次にその剣。エルフが加工したものですね」
「はい」
元々はアズマの刀鍛冶スズリヤヒョウエが打った刀だったのが、折られて、何百年も保管されていたのを、ガラ―のエルフがこの形に加工し、さらに杖であるホークをはめ込んである。
「ガラ―の工芸はひとまわりするもの。その剣は最後の行程を経ていません。我らドールエルフが表層加工をさせていただきます」
「えっと、剣は必要なんですが」
「刻まれた魔術構文は今のあなたには不足です。我々の手で整えさせていただきます。それまでは、代わりの剣を」
腕に冷たい手が触れてウルクを持ち去ると、代わりに何か握らされる。これで剣じゃなく藁とかだったら、おとぎ話の絵本みたいだな。愚か者をたしなめるような話。
「なんでそんなに親身になってくれるんですか。ここにきてはじめてお会いしてますよね?」
声の主は黙る。だが、背後で漏れる息遣いから、まだ後ろにいることはわかる。
「エルフは、永い時の中を待っていました。レッタのように自ら歩みを進められる者ばかりではありません」
「レッタを知ってるんですか」
思わず振り返りそうになる僕の顔を両手で包み込むように抑えられた。
「この先、険しい道のりが続くでしょう。でもどうか、立ち向かってください。貴方だけが私たちの騎士」
「それってどういう、」
部屋の明かりが灯る。
僕が出した瘴気も、背後の冷たい雰囲気もなくなっている。部屋のドアから、恐る恐るといった様子で、ドールエルフの少年少女が覗いている。
僕が手に握っていたのは騎士剣だった。切っ先の独特の反り。しなやかな刀身に鍔の装飾。いつか見たエルフの騎士剣だ。刻み込まれた紋章は、古代エルフ語だろうか。その意味を推し量ることはできない。
「ウルクがないと瘴気も出せないんだけどな」
「そうか」
「そうなの」
「「ほんとに?」」
「ほんとうよ」
ウルフが僕の下手な魔術を引き出してくれてるって話だったじゃないか。ってこれさっきもなかったか。一応剣を構える。
「撃つ?」
部屋は一瞬で漆黒の瘴気に満たされ、視界が遮られた。