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⑦ー8|我妻《あづま》
8 我妻
深い霧の中を、白髪の男が徘徊する。
「貴方はどこへ、いってしまわれたのか」
長く乱れた白髪の合間から、深い悲しみの表情が窺える。よく見れば、それほど齢はいっていないのかもしれない。徒労によるものと身なりから、まるで老人のようだ。
「どうか巡り会わせておくれ。どれだけの孤独にも、再会の喜びがまさる」
男は、歩き続ける。
長い運命のうねりに阻まれようと。
我が妻を思えば、燻る胸の痛みなぞは灰の煤。くゆるけぶりは再会の別離。かき分けて君の手をとろう。
伸ばした腕は、濃霧に消えた。