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①ー10黒塗り

①死と転生


10 黒塗り


 飛行船は、夜のうちにジュアン国領に入っていた。

 「一度、私たちの小屋に寄りましょう」

 トバリの提案で、僕らが暮らした、森の中の小屋を経由することとなった。


 「船を降ろすことはできんから、高度を下げて、ロープで降りてもらうぞ」

 「ええ、私一人で行ってきます」

 「僕もいくよー。ひとりじゃ大変だろー」

 「…わかりました」

 トバリとフェリオは、神妙な面持ちで降りて行った。

 その様子を見て、僕はやっと、二人が何をしにこの場所に寄ったのかを理解した。僕も船を降りる。

 

 先に降りた二人を追っていくと、そこにはなぜか、ドゥガー騎士団長がいた。

 「俺も連れて行ってくれ」

 ドゥガー騎士団長は、そう言うと、鋭い目で僕らを見た。

 「なぜここに?」

 「お前たちがどうしているかと思って来てみた。カロスに行くんだろ?」

 「何しに行くか、わかってるのかなー?」

 「察しはつく」

 「…私たちは、“コング”をとりに寄ったのです」

 「…そうか。手を貸そう」

 それから、僕ら四人で、タローさんの墓をあばいた。


 飛行船は、カロス国へ向かって行く。走竜よりもずっと早い。日が昇る頃には、カロス国城に着けるだろう。

 「それでは、作戦を説明させていただきます」

 トバリが皆を集めた。エミスとヨルは、船尾の方で寝ている。

 「飛行船でカロス国城に接近、ムートさん、ドゥガーさん、アルクさんの三人を城壁に降ろします。ムートさんは東塔の教会に仕掛けを、お二人は、正門で騎士達を出来るだけ足止めしてください」

 「了解」

 「ほんとにやるのかのぉ」

 「…。」

 ドゥガー騎士団長は、船に乗り込んでから、ずっと押し黙っている。そもそも、彼はこの作戦に賛成なのだろうか。ジュアン国とカロス国は、古くから結びつきの強い友好国である。ジュアンの騎士団長が、国際問題になるであろうこの作戦に参加する理由は何だろうか。

 「飛行船でそのまま西塔の、リーニャさん達がいる部屋に接岸します。城と船が接触した時点で、“隠蔽”の魔術は解除されます。レッタさんは、城壁から船を狙ってくる弓兵を狙撃してください」

 「わかった」

 「エミスとフェリオの二人でご婦人方を船内へ。上がってくる騎士達、場合によっては魔術使いと交戦することになるでしょう」

 「はいよー」

 「私は、勇者を東塔の教会に誘導します。それが難しいようでしたら、勇器(ゆうき)で時間を稼ぎます。船はご婦人方を乗せ終わり次第、すぐに城から離れてください。後日、ジュアン国内で落ち合いましょう」

 「操舵はどうする。サンドドラゴンは、言うことを聞かんぞ?」

 「問題ありません。レッタさん、舵輪を」

 「私か?飛竜の引く船なんて、わかんないぞ」

 レッタは、ムートと舵輪の操作を変わる。飛竜は振り返って不思議そうにこちらを見たが、すぐに前へ向き直った。

 「何じゃ。人を嫌っとるのかと思っとったが」

 「それと、皆さんの武器や防具にこれを塗ってください」

 トバリは、黒い液体の入った、大きな瓶を取り出した。

 「これは…」

 ムートは瓶を手に取ると、中の液体を掬う。

 「黒竜の鱗からとった塗料か?おまえさん、こんな貴重なもん、どこで手に入れたんじゃ」

 「知り合いに譲ってもらったんですよ」

 「ぜひ、そのお知り合いを紹介してもらいたいのぉ」

 「この塗料で、魔具(マグ)に刻まれている紋章を隠すのです。できる限り我々の所属を知られないように」

 その黒い塗料は粘性があり、塗ってからしばらくすると、固まって硬くなった。“ウルフ”には何の紋章もない為、ネグロ国でオーロが用意してくれた軽装の防具にそれを塗った。僕はジュアン国の騎士の剣を置いていくつもりだが、ドゥガー騎士団長は剣に塗料を塗るのだろうかと思い、彼の方をみると、何やらトバリと話し込んでいる。こちらに気が付くと、僕の方へやってきた。

 「アルク。頼みたいことがある」

 「何でしょう」

 「正門の騎士達を引き付ける役を、君一人に任せたい」

 「それは、いいですが。団長はこの作戦に参加してよいのですか?」

 「…。トバリさんには言ってある。負担がかかるが、全員を引きとめる必要はない。特に騎士団長のトーデスは相手にするな」

 「団長、僕はもう騎士団を辞めたつもりです。でもあなたはジュアン国騎士団に必要な方だ。もともとこの役は一人でやるつもりです。団長は、」

 「俺にも役目がある」

 そう言うと団長は、黙って剣や防具に塗料を塗り始めた。


 「わぁ、なにこれ」

 ヨルとエミスが起きてきた。

 「エミスー、これ塗っといたよー」

 「おう!黒いな!」

 「アルク、なんでみんな黒くしたの?」

 「うーん。仲間のしるしみたいな感じかな?」

 「いいなぁ、わたしもぬる!」

 ヨルは自分のカバンを持ってきて、一生懸命に塗り始めた。

 「アルクさん、正門の件、無理なさらないでくださいね」

 トバリは心配そうな顔で僕を見る。

 「トバリの方こそ、勇者相手に、絶対に無理しないでね」

 「私は、いざとなれば身を隠せますから。アルクさんも、ほんの少し騎士たちの気を引くだけでいいのです、ほんの一瞬。あとは城下町に逃げ込んで、隠れていてください。私なら見つけられますので」

 「甘やかしすぎだよ、僕をダメ人間にするするつもり?」 

 「アルクさん!」

 トバリは両手で僕の顔を挟む。

 「おとなしく私が来るのを待っていてくださいよ?」

 「ふぁい」


 「城が見えてきたぞぉ」

 ムートの一声で、船内に緊張が走る。皆、漆黒の装備で立ち上がった。頭を布で覆われているため、表情はわからなかったが、覚悟はできている。

 「皆さん、決してご無理はなさらず」

 「ばっと行って、さっと帰るぞ!」

 エミスにはフェリオがついているから、大丈夫だろう。


 船は上空から、カロス国城に接近する。


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