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7.お嬢様と話す狐 ②

前回のあらすじ:言葉を覚えよう!!

「ありがとう」と言う練習をしながらサムの家へ向かっています。隣を歩くフランは桃より頭一つ分以上背が高く、足も長いのです。本当は桃が先を歩くべきなのですが、フランの歩幅が大きいため、油断をしているとすぐに追い抜かれてしまうのでした。


「びえどっと?」


(変な言い方やなあ)


 と思いながら何度も声に出してみます。


『大体合っておる。強いて言うなら「と」というよりは「ツ」という感じだな』


「びえどっつ?」


「Umm~」


 フランがちょっと違うと言いたげに唸っています。彼女の発音とは何かが違うことは明らかですが、どうすれば近づくのか分かりません。まさか「ありがとう」一つで躓いてしまうとは。大きなため息をつきます。するとフランが優しく背中を軽く叩きます。元気づけようとしてくれているのでしょう。彼女のはにかむ顔を見ると、もう少し頑張ろうと思えてきました。


 フランが家と家の間を通る狭い道を覗きます。気になった桃も見てみると、籠いっぱいに野菜を担いでいる人や、工具を持って上半身ほぼ裸の人など、色々な人が歩いているのが見えました。ひときわ目立つのが、銀色の胸当てをして、腰に剣を下げた人。その人だけつぎはぎどころか、汚れ一つ無い服を着て履き物も日の光で輝く位磨き上げられていたのです。


 桃の手首を掴み、早足で歩いていくフラン。辺りを見渡している様子はまるで怯えているみたいでした。


 それから程なくして見馴れた建物が見えてきます。ぬかるんだ道をゆっくり慎重に渡ると、梯子のように急な階段の下に出ました。


「あの梯子を一番上まで上ったところにあるのが、その人の部屋やよ」


 と言う桃の言葉を狐が伝えるや否やフランが階段に足をかけます。しかし膝が痛むのかその場で屈み込み、足をさすっています。桃はフランに肩を貸そうとしましたが、身長差のせいで腰を支えるような格好になってしまいました。ともかく階段を上りきり、扉を叩いて声をかけてみます。


 ところが返事がありません。二人は顔を見合わせると、フランが扉を押してみることに。すると案外簡単に開きました。


 青年は部屋の中にいないようです。服や手ぬぐいが数枚天井から吊されており、朝背負っていたはずの荷物が部屋の奥に置かれているので、一旦は帰って来ているのでしょう。


 きっとすぐ戻ってくる筈だと予想した三人は部屋の中で待っていることにしました。フランを机の側に座らせた桃は、布をもう一度巻き直します。


「狐さん、どうしてフランさんは怪我をしたのですか」


『先ほど家出をしたと言ったであろう。我は追っ手を巻いていたからしらんがの。逃げているうちに痛めたようだ』


 ぬかるみに足をすべらせてしまったの、とフランが付け加えたようです。


無理もありませんでした。彼女は足首が辛うじて見える位長い丈のドレスを身に纏っていたのです。桃は

ドレスを見たのはうまれて初めてで、其れを「ドレス」だということも知りません。ですが長い筒のような服では足が動かし辛い上に裾を踏みかねないことは想像が付きました。


「お家の人が追いかけているってことはきっと心配して下さっているんですよね。何があったんですか?」


 狐はフランの肩から床に飛び降り、体を伸ばします。ちらりとフランの方に頭を向けると、フランも渋々といった顔で頷きました。相変わらず低くも高くも無く可愛らしいようでお爺さんっぽくもある不思議な声で話します。


『積もる不満は色々あるのだろうが、大層な話ではない。ただパーティという集まりがあって、どうしてもそれに出たくなかったそうだ』


「ぱーてい?」


『そう。彼女の父親の親戚や、友人や、仕事に関わる者達が家族を連れて一堂に会し、食事をしたり、踊ったりするのだよ。宴会、舞踏会とでも言った方がわかりやすいかね』


「なんだか、楽しそうですね」


 フランはばつが悪そうです。


(しまった。フランさんにとっては嫌なものなんや)


『確かに華やかで優雅。その分堅苦しいところもあるようだがな』


「そうなんやあ」


『簡単に言ってしまえば会いたくない人が来るからだろうな』


 フランが頬杖をついて物憂げに目を伏せています。狐を手招きすると、ひょいっとフランの肩に乗りました。頭を撫でながら何か耳打ちします。


『そんなことより、何故一人で来たのかと、どうやって来たのかと訊ねておる』


 と狐の声。桃は何となくはぐらかされたような気分になりました。彼女を探しに来る人の気持ちも理解できますし、かといってぱーてぃとやらに出るよう説得できる立場でもありません。


 彼女のことを聞くのはやめて、一生懸命この街に来るまでの出来事を思い出そうとします。ところが、どうしても山で迷ってから不思議な部屋で紺色の人に会うまで何をしていたのか、思い出せないのでした。眠っている間にここまで来てしまったみたいです。


「分からないんです。山に山菜採りに行っていて、友達とはぐれてまって、それから、それから……。気づくと床に変な絵が描かれたところにいました」


『船で来るには何十日もかかる。その間一度も目を覚まさないということはありえぬだろう。やはり摩訶不思議な術で空でも飛んできたとしか思えんな』


「空!?」


 自分が鳥のように空を飛んでいたかもしれないなんて……。壮大な響きで全く実感が沸きません。

空を飛ぶ様子をあれこれ想像していると、外から規則正しい足音が聞こえてきました。フランが一瞬肩を上げ、慌てて桃の背中にしがみつきます。



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