マイ・フェア・レディ
「………………」
「…………」
腕組みのあたし。目の前には正座の倫。
気を使ってくれたのか浅生さんと聖夜子ちゃんはキッチンで洗い物。
「あたしだってお説教なんかしたくないんだからな」
「ほんとにぃ~?」
「ほ・ん・と・に!」
あたしはお母さんじゃない。
「倫はいいとこのお嬢さんなんじゃないの?」
「いや、そんないいもんでは」
お母さんの実家は旧家だっていうし厳しくなかったのかな。うちのおばあちゃんみたいに。
「お父さんやお母さんにお行儀が悪いって叱られなかった?」
「えっと、両親はあまり家にいなかったので」
「あ……」
しまった。そうだった。
「……ごめん」
「……いやぁ」
ふたり同時にバツの悪い顔をする。
「…………」
あたしは顔を上げた。
「――あたしと一緒にがんばろう」
「えっ、何を?」
「倫をお行儀よくするプロジェクト始動!」
「はぁ? はぁ?」
「倫にはいつかうちのおばあちゃんと会って欲しいんだ」
「なに、改まって。まぁそれくらいなら――」
「でも今の倫を見せるのは怖い。おばあちゃんは厳しいから倫のねこ被りもたぶん通用しないと思う」
「あれ? わたし失礼なこと言われてる?」
「あたしは倫もおばあちゃんも大好きだから。だから仲良くして欲しいし、絶対にいい感じで会って欲しい!」
あたしは一気に思いの丈を吐き出した。倫はぽかんとしてそれを聞いていた。
「……………」
確かにあたしは倫にすごく失礼なことを言っちゃってるのかもしれない。
「『マイ・フェア・レディ』じゃん」
「え、なにそれ?」
「そういうミュージカルがあんの。オードリー・ヘプバーンの映画が有名だけど、知らん?」
「知らん」
今度はあたしがぽかんとして首を振る。
「変り者の教授が賭けで下町育ちの花売り娘に礼儀作法を叩き込んでレディに仕立て上げようとすんの。半年仕込んで貴族の舞踏会に出してバレなきゃ勝ち」
「舞踏会の予定はないけど、おばあちゃんにバレないとこまでは持っていく。ビシビシ行くから!」
「ううぇえええ~~」