HAPPY★LESSON
「倫!」
とうとうあたしは声をあげてしまった。
「うえっ? けほんっ」
驚いてむせる倫。
「食事中に本読むのやめなさい!」
そう。倫は「いただきます」からこっちずっと文庫本を離さずにいる。
「え~。あともうちょっとで読み終わるからぁ~~」
「もうちょっとなら、食べ終わってからでもいいじゃん! 行儀悪いからやめろって前からずっと言ってるよね」
「口やかましいなぁ。陽菜はわたしのお母さんなの?」
「お母さんじゃない!」
膝をぺしっと叩いてやる。
「あいたっ! ママ、お母さんがぶったよ!? これってDVじゃない?」
「え? え?」
いきなり振られた浅生さんが困ってる。
「放っといていいから浅生さん」
「ムッター、叩かれたよ? 多分折れてると思う」
「アオチ、大丈夫ですか?」
「折れるか! ていうか母親が多い!」
ムッターはドイツ語で『お母さん』。最近は聖夜子ちゃんからも母性を摂取しだした。
「陽菜も育児に協力してよ!」
「あたしはしつけを担当してんの! あと母子どっち目線からの!?」
「ほめて伸ばしてよ!」
「ほめるとこがない!」
「「まぁまぁ」」
またこのやりとりだ。楽しくないと言えばウソになるんだ。
でも……。
「はぁ……いいから栞でも挟んで食事に集中しなさい」
「はいはい」
生返事しながら倫はテーブルに手を伸ばす。
「あ、袖――」
注意しようとしたときには遅かった。
「うわっ!」
テーブルを見ないで伸ばした手。ゆったりしたどてらの袖は見事にコップを引っ掛けた。
「たいへん! すぐに拭かないと――」
浅生さんが素早く反応してふきんで堰を作る。
幸い残りの量が少なかったので被害はテーブルの上に収まりそうだ。
「わぁ」
「わぁじゃない!」
ポカンとコップを見つめている倫の手から本を取り上げる。
「あああ……もおっ!!」