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ガールズトークキッチン

 トントントントン。浅生さんの包丁の音が小気味よく響く。


 あたしは隣でジャガイモの皮を剥いている。


「まだ好きなの? もう好きじゃないの?」


「どうなんでしょうね」


 浅生さんは苦笑する。


 そりゃそうだ。浅生さんは本条さんじゃない。


 話題は放課後のやりとりについて。自分じゃよく分かんなくなっちゃっていつものように浅生さんに聞いてもらってる。


「でも本条さんが夏目さんを通すのは分かる気しますよ」


「そう?」


 ピーラーの手を止めて浅生さんを見る。


「直接話しかけると緒方さん対応に困りそうだし」


「それ。本条さんも言ってた。倫の扱いって妙に周囲のコンセンサスが取れてるんだよな」


「あはは。本条さん、夏目さんに対しては普通なんでしょう?」


「うん。以前より自然なくらい」


「なら心配しなくて大丈夫なんじゃないかなぁ」


 切り終えた人参をまな板からざるに移しながら浅生さんはあたしの顔を覗く。


「し、心配はしてないんだけど……ただ、あたしは重症のやきもち焼きだから」


「重症かぁ。初めてだから免疫が出来てないのかな」


 そう言って浅生さんはやさしく微笑んだけど、あたしたぶんこのやきもちと一生付き合ってく。


「あとね、本条さんの中でちょっと変わってきてるのかも」


「変わるって何が?」


「んっと、緒方さんだけじゃなく夏目さんも含めた“ふたり”を見るようになったというか」


「えっ? 本条さん、あたし“も”好きになっちゃったってこと?」


「ううん、恋愛対象という意味じゃなくて。もう少し距離を取った感じで……」


 浅生さんは言葉を探す。


「ふむ?」


 あたしには全然分からない。


「あのね、ふたりが仲良くしてるのを見てるのが楽しいんです」


「そう、なの?」


「はい。わたしもそんなところありますから」


 そう言って微笑むと、浅生さんは止まったまんまのあたしの手からジャガイモとピーラーを取り上げた。


「そう、なの?」


 浅生さんは頷いて中途半端な皮つきのジャガイモの処理を引き継ぐ。


 あたしはイモのぬめりを流してふきんで拭う。


「本条さん、倫のこと、クールビューティだって」


「ぶふっ! ご、ごめんなひゃい」


 ジャガを取り落としそうになる浅生さん。


「いいよ、あたしだって笑うし。ただ本条さんは倫をまだカッコイイと思ってるんだなって」


「恋人を褒められるのはうれしいでしょう?」


「そりゃまぁ、ね。だからまだ好きなのかなって」


「なるほど……(たしかに重症だ)」


 ん? 浅生さんなんかにやけてない?


「わたしも緒方さんはカッコイイと思いますよ」


「…………」


「たまには、ですけど」


「ぶはっ! あたしも」


 ふたりで笑う。


「みこやん、クッション取って~~。腰の下にしくからぁ」


「はいは~い」


 リビングからのだるい声に目をやる。


 いま褒めた(?)ばかりのあたしの恋人は足を椅子に引っ掛けて逆さになって本を読んでる。


「はぁ。これじゃ家族に会わせられないよ」


 あたしは肩でため息をつく。


「あれ、お正月に夏目さんのお家にお邪魔したじゃないですか」


「うん、あの時は母さんもお姉ちゃんも騙されてくれたと思う」


 なんならふたりともちょっとうっとりしてたからな。


「問題は、おばあちゃんなんだ」


「たしか、呉服屋をされてる?」


「そうそう。年取ってからも凛としてる人であたしは大好きだし、もちろん倫にも会って欲しいと思ってはいるんだけど」


「確かにあの場にはいらっしゃらなかったけど。でも緒方さん、ねこ被るの抜群に上手いから――」


「おばあちゃんなら見抜くよ、きっと」


「……そんなに厳しいんですか?」


 あたしは頷く。


「老舗の一人娘でね、行儀作法にすごくうるさいんだ。あたしも小っちゃい頃は会うたびに怒られてた」


「わわわ。だとしたら――」


「でしょ?」


 リビングで足をばたつかせてる倫を揃って見るあたしと浅生さん。


「あ~~倫さんはそろそろお腹が空きましたな~~」

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