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本条さん

 終業のチャイムが倫を休止状態(スリープ)から解く。


 勢いよく顔を上げたかと思うと次の呼吸でカバンを抱える。


 帰るときだけ異様に起動が早い。一日で放課後が一番元気なんだよな。


 あたしがノートを閉じる間にもうさっさと席を立って窓からグランドを見ている。


「…………」


 夕陽に縁取られた横顔につい帰り支度の手を止めてしまう。


「――綺麗だな」


 倫が髪を掻き上げるときらきらが散る。悔しいけど惚れ惚れしちゃうんだ。


 ま、あんな物憂げな顔してるけど、ほんとはやらしい本のことでも考えてるんだろうけど。


「なーつめさん?」


「うわ?」


 驚いて振り返ると本条さんがいた。


「ごめんごめん。びっくりさせるつもりはなかったんだけど。あのこれ。緒方さんに渡しておいてくれる?」


 本条さんが差し出したのはクラスで回覧されているノートだった。次、倫の番なのか。


「それなら直接倫に――」


 受け取りながらあたしは言うけど本条さんは首を振る。


 バレンタインの一件から本条さんは倫に用があってもあたしを通してくれる。


「そんな気を使わなくても――」


「うん夏目さんにはね。緒方さんが困るかな、と思って」


「ああ……」


 妙に納得してしまう。テンパって余計なこと言いそうだしな。


「ありがとう……」


 倫に代わってお礼する。


「ねぇ。さっき緒方さんに見惚れてた?」


「うん……あ」


 不意を突かれて誤魔化し損ねた。


 本条さんの目が眼鏡の向こうで細くなる。あたしは耳が熱くなる。


「やっぱりカッコイイよね、緒方さん」


 と、うっとりと倫を見る本条さん。


 もう不安になったりはしない。


「そうだ……ね」


 というか、なんだか照れてしまう。


「うん。まさにクールビューティって感じ」


「いやいや、実はああ見えて――」


「ん?」


 いろいろ溢れそうになって慌てて口をつぐむ。夢は壊さないでおこう。


「あ、緒方さん、待ってるんじゃない?」


 たしかにさっきからちらちらこっちを見てきて落ち着かないな。子どもか。


 あたしはノートをカバンにしまって机に椅子を押し込む。


「それじゃノートありがとう」


 あたしはもう一度お礼して、倫を拾いに向かう。


「意外な組み合わせ、だがそれがいい……」


「え、なに?」


「なんでもな~い♪」

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