15.これはテンション上がるしかない
「湯加減は大丈夫でしたか?」
部屋に戻ると、なにやらエプロンらしき白のフリルを着衣したウィルが振り返った。
後ろ手に束ねられた髪が揺れる。
なんなんだこいつ。ネタの宝庫か。
とりあえず似合ってたし、正直突っ込むの面倒くさくなってきたので、とりあえずスルーしておく。
「かんぺき」
とピースをして見せる。腰に手を当てるとかいうおまけポーズ付きだ。
「ウィルは落とし穴埋め終わった?」
「はい。最終メンテナンスも既に半分程終わりました」
はっや。仕事が早すぎるわ。
「想像以上にはやいね」
「魔法陣を体内に取り込んで調整するので早く終わるんですよ。」
効率的でしょう?とでも続きそうなほど楽しげな声音だったが、何を言っているのか全く分からん。
なんで体内に取り込んだら早く終わるんだよ。..........体内に取り込むとは???
この世界、どっかの誰かに任せたい案件及び疑問が多すぎる。
「イノ?」
「...ああ、なんでもない。それより、ハサミと小さめのゴミ箱ってある?貸してほしくてさ」
考えるのをやめればいい。
元来面倒事を避けがちな性格は、転生したくらいで治るわけが無いんだから。
何度目か分からないが、そう割り切ってウィルに顔を向ける。
「鋏とゴミ箱ですか?ありますよ」
ちょっと待ってて下さい。そう付け加えウィルは奥の部屋に引っ込むと、すぐに出てきた。
「何に使うんですか?」
かなり慎重な手つきでハサミを渡される。
大丈夫だとは分かっているのだろうが、あまりにも俺の見た目が貧弱なのか、若干の不安が拭いきれない様な顔に見えた。
「髪切んの。邪魔だから。」
答えながら早速ジャキジャキと切っていく。
切り落とされた髪はばらばらとゴミ箱の中へ。
白と黒の割合的には半々と言ったところか。うわ、やっぱ白髪めっちゃ気になる。
「そういえば.....ウィルさ、この世界でお金ってどうやって稼ぐの?」
傍から見たら相当危なっかしいのか、おろおろと挙動不審気味(表情に変化無し)なウィルに問いかける。
正直稼ぎ方についてはかなり気になっていた。
周囲の状況が状況だっただけにあまり真剣に考える余裕はなかったけれども。生きるのに必死で。
生きるのに、必死で。
大事な事なので二度言いました。
実はまだここに来て数日とか、信じないからな。その中でも意識あったの二日とか....信じないからな!
俺的に数年経っててもおかしくないくらい消耗したんだからな!現代っ子舐めんなよ!
とりあえず、この世界は魔法があるって事ぐらいしか二日間の収穫がない。
世界観も大体の時代感覚も常識も全ての知識が皆無である。
だが、まずは金だ。
金。金さえあれば大体何とかなるし、友情も買える。
友情は金で買えない?買えるんだなこれが。
金さえあれば普通の絆より強固な絆だ。金さえあれば。大事な事なので(以下略)
まあ今んとこ買う予定ないけど。
「お金、ですか。そうですね、大抵の場合自分の属性にあった職業で稼ぎますが....一攫千金を狙ってギルドに登録する方も少なくないですよ」
「ウィルは登録してんの?」
「私は.....そう言われてみれば、表の方に登録してないですね。裏の方はよくお世話になってるんですけど」
へぇ、そうなんだ裏の方。うらの....
「うらのほう!?」
「は、はい」
裏の方つまり、まさか、
「裏ギルドですね」