14.他力本願寺出身なんで
浴槽ひっっっっっっっっろ。
風呂場に足を踏み入れ呆然とする。
目の前には何処にこんなスペース取れるんだよって思うくらいに広い浴槽。
なんか大きめの露天風呂を2倍したみたいな感じだ。
確かにここは地下だからスペースは申し分ないのかも知れないが、正直こじんまりした風呂場を想像していた身としては衝撃が計り知れない。
つーかどっから水持ってきてんだ......地下水?まさかの天然的な?
.........考えるのやめよう。どうせ理解できないし
取り敢えず汚れを落とすべく石鹸を手に取る。
「なんで三角形....」
何故か石鹸は三角形だった。つかいにくっ
暫く無心で泡立てると、唐突に泡がとんでもない事になり始め、慌てた時にはもう遅かった。瞬く間に石鹸の謎効果で異様な量の泡に埋もれる。
よく見るあの泡まみれになったが、現実は厳しい。
目が....目がめちゃくちゃ痛い....!石鹸が目に入って例の大佐になるくらい痛い。ほんとに痛い。改良求む
手で擦ろうにも手も泡まみれだ。
何とかつるつる滑りながらも水を被る。樽が手から滑り落ちて足の指に激突した時は涙が出た。
「普通の、石鹸が、いいな....」
どうして石鹸ごときにこんな体力を消耗させられなければならないのか.....
これ作った人はあの泡まみれに夢を見たのかもしれないが、普通にやめて欲しい。普通に石鹸を作って欲しかった。因みに俺は石鹸なんぞ作れない。
なんだかなー、先代転生者(仮定)さん普通に最強知識ムーブしてんのやばいな。これに魔力ありなんだろ?もう国でも乗っ取りそうなやばさ。是非とも俺にその知識下さい。
手間取ったものの泡を洗い流し終え、今度は慎重に全身の汚れを垢切れするまで擦りまくる。
因みに擦っても擦っても汚れる。石鹸は肌直だと全然泡立たない。本当つかえねー。
髪にこびりついた血の塊を落としながら、禿げるんじゃないかと真剣に思った。
大分時間をかけて まあいいだろう というレベルまで洗い終え、湯船に浸かって広すぎる浴槽を泳ぐ。因みに2歳児なのでいい感じにプールだ。
結論から言うと、浴槽めっちゃ楽しかった。
脳内幼児退化が始まっているのかと一瞬不安になったが、前世から大浴場で泳ぎたくなってしまうタイプだったので、心配の必要は皆無だった。かなし。
「おお、服が用意されてる」
巨大な風呂を堪能して出てくると、綺麗に畳まれた服が一式置かれていた。
流石液状コンピュータである。伊達に執事服着てない。
全く着用経験のないサスペンダーに苦戦しつつも無事に着替え終わり、ふと、置かれた長鏡が目に入る。
(....まあ、さっきよりはましだな)
入浴前の、見るも無惨な状態といえる程汚れて血色の悪かった全身は、まあそこそこ見れたものにはなっている。
言わずもがなボロきれだった服は、ピシッとしたワイシャツになり、何かがこびりついていて元の色すら判別出来なかった髪は、ぱっさぱさではあるけれど十分綺麗になった。
(でもなぁ......)
鏡を見ながら髪を一房摘み、ぱらぱらと落とす。
そして確信した。
(白髪やべえ!!)
決して白髪では無い。白髪である。悲しいことに、二歳児にして既に白髪デビューを飾っているのだ。
原因はまあ、栄養失調だろう。
そしてきっとこれを越えたら禿げる。そんな謎の確信がある。
だって記憶にあるキャラは...ストレスでだったけども、白髪からの禿げだったし!!.........ああ、あの作品何年連載止まってたっけな.............やめよう
試しにもう一度髪を搔き上げてみるが、やっぱめっちゃ白い。
.......これ治るんかな。白髪って治らなかった気がする気がしないでもないんですけど。
元の色が黒のような感じの色のせいで、白髪はかなり目立った。
「...........うん」
あきらめよう。
毛根さえ生きていればそれでいいや。うん。
自分を納得させるべく数回頷き、頭を振る。
それにしてもよくウィルはこんな痩せこけた気味の悪いガキを客として扱えたなあと思う。
自分で言うのもなんだが。
足が短いせいで長く感じる廊下をのそのそ歩きながら、改めてあの存在自体が意味不明な存在について考え............ようとしてやめた。
だって分からんし。説明されても絶対理解できんし。
すまんウィル。