11.理解不能ならそのままで
まあ.....ごねてても仕方ない。腹を括ろう。
(イケボの為に)
これぞ声フェチの宿命。全うしてやろうではないか。...........なんかこの世界に来てから声の事しか気にしてないような気がする。
まあいっか
「......んぁー、じゃあ、ロウィルとか?」
ぶっちゃけ呼ばれていたと云うローイを少し変化球的に発音して適当にルをつけただけの名前である。
意味は無い。ついでにネーミングセンスも無い。
どうして ル を付けたかって?かっこいいからだよ。
「.....ロウィル」
唱えるように青年が呟く。
「気に入らないなら俺以外の奴に付けて貰って」
正直俺のネーミングセンス皆無な名前より随分いい名前を付けて貰えると思うぞ。自分で言うのも何だけど。
「いえ....ロウィル。ありがとうございます、とても気に入りました」
無表情がふわっと笑って見えた。この自称液状型コンピュータは案外表情豊かなのかもしれない。
(まあ、本人が気に入ったならいっか)
名前の件はこれで無事解決だろう。
「あのさ、割と気になってたんだけどなんでそんな距離開けてんの?」
ここで最初から疑問に思ってた事を聞いてみる。
「遠い、ですか?」
「うん」
「よく距離感が掴めないんです。人と対するのは久しぶりですし、主は小さいので」
誰がチビだ。2歳児だから小さいのは当たり前だろ。俺平均だし。いや、2歳児の平均身長なんざ知らないけど。
................ん?
(今、この青年)
「............」
思わず青年を二度見。青年は少々困惑した表情を浮かべて、距離を縮めるべきか悩んでいる。
(......絶対聞き間違えじゃないよなぁ)
まさかの主呼び。
かなしいかな。つーかそういう大切な事は最初に言っておくべきだろ青年
.......ああ、最悪だ。
(名付け親=主ってよくあるけどさぁ)
そうじゃないんだよ.......。そうじゃ、ないんだ。大事な事だからもう一回言う...........そうじゃないんだ
なんで予想できなかったんだ。こういう系めっちゃ読んできただろ俺ぇ.....どうして、どうしてこういう時に予想しないんだよ!
(俺は....マスターって呼ばれたいんじゃない)
どっちかと言うと、.......マスターって呼ばれている奴を冗談でマスターって呼びたいんだよ!!!それと俺はマスターよりMy lord派なんだよ!!!!!!
「.............ぁぁ、」
悟り開けそう。色んな意味で。
この気持ちが理解されるとは思っていないが、考えてみて欲しい。
ただのオタクがマスターと呼ばれる世界を。
推しcpで何度妄想したシチュか分からないが、それは推しcpであるからいいのである。それに私は決して夢女子ではないのだ。私は推しcpの家のゴミ箱周辺の埃になりたいんだよ。判るか?
絶望的な世界にも程があるだろ。
「.....オワタ」
貧相なボキャブラリーはこんな時でも絶好調だった。思わず天を仰ぐ。
「どうかしましたか?」
「いや......何でもない」
最早シンプルに頭が痛い。
「あの、主の名前を教えて貰ってもいいでしょうか」
「ああ俺?俺は伊野_______」
「イノ?」
(..........いやこれ前世の名前じゃん)
全然こっちでの名前思い出せない。.......もういっか伊野で。めんどくさいし。
「....そうそう」
若干発音違うけどな。
「というか、そんな簡単に主決めてよかったわけ?」
自分で言うのもなんだけど2歳児だぞ。2歳児。幼稚園年少さんにまだギリギリなってないくらいのベイビーなんですが。
「問題ありません。創造主は既にこの世にいませんし、大丈夫です」
(それ大丈夫って言うのか.......?)
分からん。取り敢えず適当に そっかー、あはは とかほざいたけど全く分からん。
「あー、俺の事は主呼びじゃなくて名前で呼んで」
「どうしてですか?」
恥ずかしいからです。
「....と、咄嗟に反応できないから」
流石に言えなかった。